最終話 切なき未来は砂時計にながされて
未来の卒業式を終えた春休み。
ばあちゃんの一周忌のため、親族一同が鹿児島の四ツ木家に集まっていた。居間にいる親戚達は鹿児島弁全開で喋っているので、やっぱりなにを喋っているのか理解できないな。
そんな状況だから、逃げるようにお気に入りの縁側で黄昏るように庭を眺める。
卒業式の日、未来へ覚悟の告白をしたことが身を結んだのか、俺達の運命は大きく変わった。
卒業式の日に死ぬはずの俺は死ぬことはなく、卒業式の日以降を未来と恋人として過ごすことができている。
こうやって俺が未来の卒業式の次の日も生きているのは、紛れもなくばあちゃんのおかげだ。
本当にありがとう。ばあちゃん。
「世津」
カコーンと鹿威しが鳴るのと同時に、俺こと四ツ木世津のいとこいうか、恋人である、加古川未来が体育座りで隣に座ってくれる。
「ボーっと庭なんか見て、なに考えてたの?」
「卒業式での告白を思い出してた」
言うと、ボンっと顔を赤くさせる。
「世津もバカだよね。卒業式が終わった後にこっそり呼び出して告白してくれても結果は変わらなかったんだよ?」
それってのは、どんな状況でも俺の告白を受け入れてくれたってことなのだろう。
「みんなの前で告白するの意味があったんだ。それじゃ俺の覚悟が足りない。大袈裟な告白じゃないと運命は変わらなかったんだよ」
胸の内を曝け出すと、年下の男の子にしてやられたと膝に顔を埋めて小さく言って来る。
「それで大量の反省文書かされてんじゃん」
ちょっとばかしの嫌味のセリフへ、爽やかに笑って返してやる。
「運命を大きく変えた代償が反省文なんて安いものさ」
「年下のくせに生意気……」
「ぬかせ一日違い。顔真っ赤にしてなに言ってやがる」
「そりゃ世津のこと好きなんだから、きみの顔見たら赤くなるよ」
「なんでいきなり素直に言ってきやがるパイセンこのやろ。そんなん耐えれるか」
「パイセンじゃなくて、恋人、でしょ」
「そういうところが好きなんだよ」
「私の方が世津のこと好きだもん」
「俺の方が未来のこと好きだよ」
痴話喧嘩みたいに言い合ったあと、お互いに笑い合うと未来が俺のポケットの方へ視線を向ける。
「世津? なんか光ってない?」
「ん?」
言われて見ると、俺のポケットが虹色に光っているのがわかった。
中身を取り出すと、時の砂が虹色に光っていた。
「あ、それっておばあちゃんの時の砂」
「ああ。もらったんだよ」
「おばあちゃんからもらったんだね」
未来から託されたことは伏せて答えると、未来が勝手におばあちゃんからもらったことと解釈してしまう。
運命は変わったんだ。わざわざ言う必要もないのだろう。
「そっか。それって光るんだね」
「みたいだな」
「おばあちゃんが、『来てくれてありがとう』って言ってるのかな?」
「そう、かもな」
俺は自然と時の砂をひっくり返した。
切なき未来は砂時計にながされて。
絶望するような未来は砂時計にながされて、これからは楽しい未来が流れてくるように。そう願いながら砂時計を眺める。
虹色の光は、俺の願いを聞き受けてくてるみたいに優しく輝いてくれていた。




