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セツなきミライは砂時計にながされて  作者: すずと
夏枝七海編〜サマータイムフェイクラバー〜
10/100

第10話 付き合ってようが付き合ってなかろうが女の子と夜に電話するの最高に決まってるだろ

 未来が帰った後の家はポツンと少し寂しい空気が漂っている。


 先程まで未来とご飯を食べていたから尚のことだ。


 3DKの家にひとりはちょっぴり広すぎる。


 時刻は11時を過ぎた辺りだ。いつもはキリよく0時に眠るのだが、やることもないので今日は寝てしまおう。


 自室の万年床になっている薄っぺらい布団へ寝転がってスマホをいじる。


 寝る前のスマホは睡眠の妨げになるって聞いたことがあるが、現代人でそれを律儀に守っている人ってのは果たして何%なのやら。


 そんな都合の良い言い訳を並べて寝る前のスマホを触っていると、やめなさいと言わんばかりにブルブルとスマホが震え出す。


 一瞬、ビクッとなったが、冷静になり通知のところに目をやると、《夏枝七海》と表示されていた。


 彼女様から電話が来たみたい。


「もしもし」

『もしもし、四ツ木? 寝てた?』

「んにゃ。寝ようとしてただけ。どした?」

『用ってほどでもないんだけどさ』


 電話先の夏枝は少しもぞもぞとしている様子であった。


『その、付き合ったら電話するもんだと思って』


 珍しく弱々しく言ってくるもんだから、ついつい意地悪なこと回答をしてしまう。


「あれ? 俺達ってガチで付き合ってる感じだっけ?」

『ガチ感を出すために電話したんですけど』


 さっすが夏枝様。この程度じゃ恥じらいもしない。可愛くないやつめ。


「そりゃありがたい。夏枝七海様の貴重な夜の時間を俺に頂けるとは」

『やっぱり四ツ木ってキモいよね』

「辛辣だな、おい」


 あはは。


 電話から聞こえる夏枝は、はしゃいだような楽しそうな笑い声を出した。


「ガチ感を出すための電話ってのはわかったけど、こっからどうするんだ?」

『ここは高校生らしく恋ばなでしょ』

「女子高生はほんっと好きだねぇ」

『好物でしょ。それで? 四ツ木の好きな人って誰?』

「おいおい。今カレに向かって好きな人を聞くなんて失礼な彼女様だな」

『あ、それもそうだね』


 失敬、失敬と謝りながら質問を変えてくる。


『四ツ木は誰に浮気するの?』

「浮気を疑う彼女にしたら、どえらいストレートを放り込んだもんだ」

『なかなかうまいでしょ』


 電話の向こうで誇らしげに、えっへんとしている姿が想像できちまうな。


『さ、白状なさい』

「いや、そう言われてもな……」


 好きな人の話ってのは男子も大好物なわけだが、俺のグループの男子はちょっと特殊だ。


 陽介は女の子にモテモテだから引くて数多だし、豪気は無駄に硬派を気取って彼女なんてできた試しもなし。いや、俺も彼女なんてできたことないけどな。


『加古川先輩?』


 痺れをきらした夏枝が質問形式で聞いてきやがる。


「なんで未来?」

『そりゃ赤ちゃんの頃から一緒なんてどこの漫画の世界って話になるでしょ』

「ま、まぁ、そうだな」


 それ以上にファンタジーなことがあるんだけどな。ばあちゃんが時の魔法少女で不老だったとか。


 ま、俺と未来には関係のないことだから実感はないのだけど。


『その反応怪しい』

「今の怪しかったか。あちゃちゃー」


 適当な答え方に夏枝が、『むぅ』とちょっぴり怒っているのがわかった。


『そうやって適当な答え方してるのは四ツ木的にガチな可能性が高いんだよね』

「根拠は?」

『勘』

「女の勘は怖いよねぇ」


 たはは、と笑うと夏枝は思い返すように言ってくる。


『最初は絶対美月とできてると思ったんだけどね。おたくらやけに仲良いし』

「付き合いが長いですからなぁ」

『でも、加古川先輩とそういう感じって聞いたら、あ、やっぱそっちかも、とか思うわけですよ』

「おいおい。ダークホースの聖羅の可能性もあるぞ」

『あの子はアイドルだから恋愛禁止。四ツ木がそこら辺の配慮もできずに突き進むタイプじゃないのはわたしでもわかるよ』

「あ、マジな返しなのね。あの子はチンチクリンだからって言われると思ったのに」

『あの子も見た目は抜群に良いからね。ほんと、わたしの周りは美女揃いだ』


 でも、なんて自信たっぷりに言い放ってくる。


『四ツ木の彼女が一番美人なのは間違いない』

「なんとも反論に困るな、おい」


 こちらの返しに、流石に電話越しのナルシスト発言は恥ずかしかったのか、ちょっとばかしの乾いた笑いを漏らしていた。


『ま、四ツ木の好きな人はまた日を改めて尋問するとしよう』

「きみ、やっぱりSだよね。ドSなの?」

『……って、やば。結構語っちゃってるね』


 彼女が時間を気にする発言をするので部屋にある壁掛け時計を見ると、既に0時を回っていた。


「いつの間に……。夏枝と喋ってると楽しいから気にならなかったな」

『ははーん。そうやって彼女様の機嫌を取ろうとしても尋問はやめないぞ』

「ん?」

『え? なに、そのガチな感じ』

「いや、ガチだろ。夏枝と喋るの楽しいに決まってんじゃん」

『……』


 ナチュラルに出た言葉を思い返すと、なんともまぁストレートな発言をしたものだと思う。


『そっか、そっか。うんうん。わたしも四ツ木と喋るの楽しいから良かったよ。両思いだね、なんちゃって』

「こんなんで夏枝と両思いになれたら、今まで散った男子共が可哀想だな」

『案外簡単に両思いになれちゃったりして』

「え?」

『なーんてね。ごめんねいきなり電話して、そろそろ寝るね』

「ああ。おやすみ、夏枝」

『おやすみ、四ツ木』


 電話の終わりは案外呆気なく、簡単に電話を切ってしまう。


 偽りの彼女と言えど、夜中に女の子と電話するのってすごい良いものだな。

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