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第九十一話 お志乃の昔語りその七

「そういうことであったのか。」

僧正坊も話を聞いて難しい顔をした。

聞けば相当悲惨な話ではあるのが、当のお志乃がその様なことをおくびにも出さずに淡々としているので常日頃は意識することは無いのだが、父親の仇敵でもある内藤肥前守の状況を耳にして流石に心がざわつくようで、動揺を隠せずにいるのかいつものように冷静で居られないようだった。

それでも気丈に感情を抑えつけるようにしながら

「僧正坊様。私の修行はどの程度進んでいるのでしょうか?一独り立ち出来ますでしょうか?」

お志乃の真剣なまなざしに気圧されそうな力強さを感じながら僧正坊は答えて

「お主は真面目で優秀じゃからな。実のところ烏天狗として必要な技は無論の事、天狗としても基本はもう出来ておる。剣技や格闘も無論並の者なら相手にならぬほどの上達をしておる。」

「誠ですか?」

「うむ。嘘はつかぬ。今行っておる修行はまさに応用。天狗としてより高見を目指すためのものになっておる。人でありながら僅か三年でここまでとはのう。」

僧正坊は感慨深くそう語った。

「では改めて僧正坊様にお願いしたき議がございます。一旦修行を中座して父の無実を晴らし、敵を討ちとうございます。」

お志乃の覚悟を決めたような表情を見て少し考えていた僧正坊はやがて

「基本はもう出来ておる。いまでも充分に天狗としての技を使えるであろう。ただ、極めるためには今しばらく修行を続ける方がよいのだが・・・お主の決意は堅いようじゃな。」

僧正坊の言葉にお志乃は強く頷いてみせると

「相判った。しばしの中座を認めようぞ。」

「僧正坊様ありがとうございます。」

お志乃が嬉しそうに応えると

「僧正坊様、羅天様。私たちもお志乃殿に助太刀しとうございます。」

お志乃の背後に控えていた烏天狗達がお志乃への助勢を買って出たのだ。

彼等はお志乃に直接修行を付けていた者達であり、お志乃の力になりたいという者ばかりだった。

烏天狗達の申し出に僧正坊と羅天は顔を見合わせはしたが、僧正坊が向き直って

「おぬし達が後ろ盾になってくれるのであれば心強い。お志乃の事相頼んだぞ。」

羅天の続けて

「無論我々も助力を惜しまぬ。お志乃の本願、皆で叶えようぞ!」

力強い叫びに皆が応えると、その場は直ちにお志乃の為の評定の場へとかわったのだった。

お志乃の話を聞いていたおりょうは涙を拭って

「お志乃ちゃんホンマに苦労したんやな。うち何にもしてあげられへんかったんやって、改めて思った。」

「おりょうちゃん自分を責めないで。おりょうちゃんは知らなかったんだから。」

「けど・・・。」

「おりょうちゃんがいたから。もう一度会いたい気持ちもあったから、天狗の修行を頑張れたの。だからおりょうちゃんは私の力になってくれたんだよ。」

そう言ってお志乃はおりょうを抱きしめた。

「お志乃ちゃん・・・。」

月明かりが差し込む中、二人は抱き合って情を交わして夜を過ごした。

翌朝、早々に現れた継信におりょうはお志乃を託して番屋へと戻っていった。

おりょうを見送ったお志乃は、先程まで感じていたおりょうの余韻に浸りながらもおりょうには敢えて話さなかった修行を中座した直後の事を思い出していた。

「おりょうちゃん御免ね。本当に私は人には戻ることに出来なくなったの。人をあやめてまでも私は天狗として生きるしかないのだから。」

そう呟いて修行を中座し、下界に戻った日のことを思い返していた。

お志乃は密かに母の実家へ舞い戻っていたのだ。

その日は従姉妹のお笹の祝言が数日後に迫り、奇しくもあの時の三人が屋敷に居合わせていた日でもあったのだ。

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