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第八十八話 お志乃の昔語りその四

お志乃は進三郞に何度も犯されただけで無く、小四郎にまで汚されてしまったのだ。

最初のうちは目をしっかりと閉じ身をよじりながら足掻いていたのだが、次第に絶望してしまったのか目を開いて、何を見でも無く無表情でされるがままになっていった。

事が終わった後、目を見開いてあらぬ方向を見て身じろぎはおろか瞬きすらせずにいたので

「おっおい、こいつ死んでるんじゃ無いのか?不味くないか・・・。」

進三郞が怯えたようにしていると、お笹は鼻白んだようすで

「何怯えてるんだい情けないわね。私の許婚ならもっと堂々としな!」

と一喝するとお志乃の元へ近づき、思いっきり股間を踏みつけた。

「痛っ。」さすがのお志乃も小さく叫んだが、また元の様子に戻った。

「ほら生きてたでしょ?まあこれで思い知っただろうから、もう二度と舐めた目で私を見下してくることは無いでしょ。」

お志乃につばを吐きかけてお笹立ちはその場を去って行った。

どれほどの時が経っただろう。日がだいぶ傾いた頃漸くお志乃は身を起こした。

けだるそうな動きで襟を整えてはだけた胸を何とか隠すと、ゆっくり立ち上がって裾を整えたものの帯や髪は乱れたまま裸足で、よろよろと裏門から外へ歩き出した。

裏手には直ぐ間近に川があり、土手上の道を何処へ向かうと無く歩いて行く。

時折すれ違った人が驚いたように振返るのだが、お志乃は気に留めるどころか人とすれ違ったことにすら気付かぬ様子で夕日に変りつつある土手道をとぼとぼと歩き、何かに気付いたかのような表情を浮かべて川の方に目をやると、そのまま斜面を下り降りて川岸へたどり着いた。

お志乃の中には絶望しか無い状態で、何とか保っていた心も折れ最早父の元へ逝くことでしか救いを見いだせないでいたのだ。

お志乃は河原に佇んで、今生に別れを告げるかのように陽が傾き夕日が川面を染める様を目に焼き付けていた。

すると一瞬黒い影がお志乃の真上を遮ったかと思うと、何か大きなものが真横に佇んで声を掛けてきた

「其方は何処へ行こうとしておるのだ?」

お志乃は興味なさげに視線を向けると

「これは・・・天狗様ではありませんか?何かご用でしょうか?」

と弱々しく答えた

「其の方はお志乃というものでは無いのか?」

「はい・・・確かに私の名ですが、もう今生に別れを告げますので、何のご用かは存じませんが応じかねます・・・。」

「くそ、全く儂と居いうやつは何をやっておったのだ?恩人の願い一つ叶えられぬと言うのか」

天狗はそう叫んで拳を握った。お志乃の様子とこの遣り取りで彼女が不幸な目に遭っているのは明らかだった。

「では、私はお暇いたします。今生の最後に天狗様にお会い出来て、良い餞別となります。」

お志乃は深々と頭を下げて、川へ向かおうとすると天狗が引き留めた

「あいや待たれよ、今生に別れを告げるほどの不幸に遭い絶望しておるのは分るが、お主を死なせては恩人に顔向けが出来ぬ。」

「はあ・・・?」お志乃は力ない瞳を天狗天狗に向けると

「その覚悟があるのならどうじゃ、天狗の修行を受けてみぬか?」

「天狗の・・・?」

お志乃は何を言われたのか理解出来なかった。そもそも理解を必要とすらしなかった。この世に未練は無いのだから。

しばしの間沈黙が流れた。

隼人坊は何か言いたげではあったが、今のお志乃の姿を見て慚愧の念しか湧かなかった。

陽は沈みかけ辺りが夕日に包まれ始めた頃、お志乃が漸く言葉を発した

「・・・その修行お受けします。」

「まっ誠か?あの・・・その大丈夫なのか?」

隼人坊としては突然現れた天狗に対し、驚くどころか警戒心すら見せず、生きる気力すら感じない少女が、いきなり誘われた修行に応じる姿に誘っておきながら戸惑いを隠せずにいたのだ。

「はい。」

お志乃は真っ直ぐな瞳を隼人坊に向けていた。

隼人坊は死んでいると思われた瞳の奥に、微かな炎のようなものを感じたのだった。

お志乃はその時の気持ちをおりょうに語った。

「正直あの時の私は、この世に未練も無かったし、このまま消えても良いと思ったのだけど、いきなり天狗が現れたものだから、何かその・・・可笑しくなって来ちゃって、どうせあの世に行くならその前に天狗の修行でもすれば面白いかなって思ってしまって。」

お志乃はそう言って微笑んだ。





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