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第八十二話 嵐の前の・・・

剛霊武(ゴーレム)が猖獗を極めて居た頃、おりょうとお志乃は烏天狗の継信に間一髪の所を救われて、天王寺の外れにあった空き家に身を潜めた。

突然の出来事に呆けていたおりょうであったが、何とか持ち直してお志乃の看病に努められるほど回復はしていた。

「おりょう殿かたじけない。入り用なものがあれば用立てて参ります。」

「こちらこそ。助けてもろうただけで無く、何かと気をつこうてくれてありがたいです。」

おりょうは深々と頭を下げた

「お手をお上げ下さい。我々にとって大事な者とその縁者故お世話をするのは当然なことです。」

継信は烏天狗なので、はっきりとした表情こそ分らなかったが、語り口調や仕草から笑顔を向けてくれているだろう事はおりょうにも理解出来て、少しほっとしたようだった。

おりょうの表情が少し柔らかくなったのを感じたのか、継信は続けて

「彼女をまだ動かせそうにはありませんし、私はこれから入りようなものを取りに行きがてら仲間に一報を入れに参ります。宜しければおりょう殿の仲間の方にも知らせを送りますが?」

「是非お願いします。今一筆しますから。」

おりょうはそう言って懐から筆立てと紙を取り出すと、さらさらと一筆書いて折り畳み、継信へと託した。

継信は辺りを見回して危険が無いことを確認すると、白み始めた空に向かって翼を広げて瞬く間に明るくなる方角へと飛び去った。

「まさか烏天狗様とお近付きになるなんてなあ・・・。」

おりょうは明け始めた空を見上げながら呟いた。


おりょうの一報は、程なく道頓堀の後片付けに駆り出されていた定吉の元へともたらされた。

「定吉っあん!何か文が来てまっせ。」

「文?なんやろなぁ?こないな時に綺麗どころからッてわけでも無いやろうに。」

定吉はおどけた様子で文を受け取って裏を見ると、表情を引き締めて一字一句を確認するかのように目で追った後、

「姉御は無事やったか・・・良かった!」

そう言って安堵しきった様子で座り込んだ。

「おう、どうした定吉!急にへたり込んで。だらしないで。」

「あ、伝蔵親分!姉御から無事やって知らせが届いたんでつい。」

そういって定吉はおりょうからの文を差し出した。伝蔵も一読すると

「居場所がはっきりせんのはちょっと心配やけど、おりょうやったら大丈夫やろうな。」

そう言って伝蔵も安堵の表情を浮かべるのだった。

一方鬼徹は、鬼道丸を彼の隠れ家まで運んでやって手当てをしていた。

「儂を痛めつけた奴に介抱されるとはおかしなものじゃ。」鬼道丸が自嘲気味に呟くと

「勝負は捕り方として不逞の輩を成敗したまでのこと。介抱は友としてやっている。」

鬼徹は一言そう語るだけで、あとは黙々と手を動かしていた。

「相変わらずだのう、お主らしくて良い。」

鬼道丸は笑みを浮かべて目を閉じた。


突然現れ、そして道頓堀界隈を荒らし廻った挙げ句、忽然と消えた剛霊武に対して戸惑いを覚えていたのは東町奉行所の面々だけでは無かった。

月番で無かった西町奉行所にとっても寝耳に水の出来事で、奉行である讃岐掾(さぬきのじょう)も右往左往していた。

「一体何が起こっておるのだ?東町の無能共の尻拭いを我々がやらねばならぬのか?」

讃岐掾は苛つきながら当たり散らしていると

「お奉行、落ち着いて下さい。今人をやって事を確かめております。」

「し、しかしのう。もし西町の月番の時に再び現れて暴れ廻られては先の失態もある、もう叔父上に顔向けが出来ぬ・・・。」

例え東町の手柄になろうとも、極力面倒事には関わりたくないと心底思っていた讃岐掾の元へ肥前守から

の文が届けられた。

「おっ叔父上は何を・・・怖くて見られぬ、お主後読んでくれ。」

「お奉行様・・・。」

そう言われて無理矢理手紙を押しつけられた与力は、自分の仕える奉行の有り様を情けなく感じながらて文を開いた。

「こ、これは」

そこには肥前守の直筆で

『先の怪異の討伐の目処がついた安堵して我に従え。西町の捕り方を率いて大坂城兵と共に退治し、手柄にせよ.』

記されていることを讃岐掾に読み聞かせてやると

「叔父上は私を見捨てていなかった!今すぐ捕り方達を集めよ、叔父上から知らせが来たら出陣じゃ!」

讃岐掾は急に元気になって、いつもの姿を取り戻したのだった。


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