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第八十話 剛霊武

その場にいた者は皆これで全てが終わったと思った。

その時だった

「平戸屋さんお待たせしました。今終わりましたよ。」

ずっと何かを書き付けていた『先生』が突然声を上げた。

続けて

「では、手筈通りお願いしますよ。後は頼みます。」

そう言って先生は先程書き付けていた物を咥えて祈るような仕草をすると、いきなり得体の知れないものがうごめいている祭壇へ身を躍らせた。

「先生!」平戸屋は思わず声を上げた。

「!」お冬達は何が起きたのか直ぐには理解出来なかった。

それは継信達烏天狗も同様で、呪文を封じた段階で相手の動きを止めたものと思っていたのだ。

祭壇は『先生』を飲み込んで一瞬凪のように静かになった。が、次の瞬間光が辺りを包み地下いっぱいに広がったのだ。

「眩しい!」

「一体何が起きているのでしょうか?」

しばらくすると光は収まったが、祭壇には得体の知れない黒い塊が、人のような形へと変容しつつあったのだ。

「あの人形(ひとがた)は一体・・・?」

「正体は判らないが、嫌な気を感じるのう。」

得体の知れなかったものが人の形を帯び、やがてその姿は明確になった。

西洋の鎧のような出で立ちながら、全体が褐色で石像のようにも見えはしたが、動きは見かけの割にしっかりとしており、その大きさも相まって尋常ならざるものと言うことは疑いなかった。

「おお、剛霊武(ゴーレム)が蘇った!我らの希望が・・・『先生』貴方の貴い犠牲は報われましたぞ。」

平戸屋が感極まった様子で剛霊武を眺めていた。

平戸屋自身『先生』が呪文を唱えられなくなった聞いた時、絶望していたのだがまさか呪文を書き上げて自ら生け贄になることで儀式を完成させるとは、思いもしなかったのだ。

「『先生』が語っていた奥の手とは、このことだったのですね・・・。」

感傷に浸る平戸屋をよそに祭壇の方は活性化し、最早何人にも止められない状況となり

剛霊武の姿が明確になると、この世のものとは思えぬような咆哮を上げ、それと同時に辺りが激しく揺れて天井が崩れ始めたのだ。

「まずいわね。お澄逃げるよ!」

「おりょう様がまだ動いていません!」

「うそ!」お冬は慌てておりょうに近寄ろうとしたが、崩れてくるものに阻まれて近づけ無い。

お冬は是が非でも助け出そうと崩れる瓦礫の隙間を縫って近づこうとしたが、お澄に止められやむなく地下から離脱した。

天井が崩れると同時に、真上にあった本堂も崩れ落ちて濛々と埃が舞って視界はすっかり覆われて、一体何事が起きているのか判らぬ有様だった。

途端、本堂のあった辺りか大きな火柱が上がり、火柱の中から剛霊武が姿を見せる。

地上にその異形を現した剛霊武は寺の庫裏を破壊しながら移動し始めた。

その傍らにはいつ脱出したのか平戸屋が控えていたのだ。

「我らが悲願、まさに今叶えられん!!」

両手を大きく開きながら平戸屋が叫ぶ。

剛霊武もその叫びに応えるかのように、付近を破壊しながら大坂の町へと向かい始めたのだ。

本堂のあった辺りは激しく崩れ、しかも火の海となっていた。

誰もがおりょう達の最期を覚悟するような状況ではあったが、瓦礫の下敷きとなり、炎に飲み込まれて亡き者とならんとした二人の窮地を救ったのは継信だった。

一蹴りで二人に迫ると、おりょうとお志乃を両脇へ器用に抱きかかえて落ちてくる瓦礫を上手く避けて助け出したのだった。

「継信!無事かの?」

「ごらんの通りです。お二方共無事ですよ。」

そう言って気を失っている二人を大介へと向けた。

「あっぱれだの継信!」

「とにかく何処か安全な場所へお二人を置いてきます。」

飛び去る継信を見送りながら大介は、今起きている状況を羅天達へと知らせながら

「さてさてどうしたものかの?ひとまず与一達と合流するしか無さそうだの。」

目の前に起きていることに戦慄しながらも、現状の報告を認め使い烏へ託した。


何とか脱出したお冬とお澄もすぐさまお高へと知らせを送り、怪我の無いお澄は奉行所の役人がいると思われる場所へ赴いて、事の次第を知らせるのだった。





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