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第七十六話 乱戦

お澄とお冬はまさに阿吽の呼吸で事を起こした。

二人ともお互いがどの辺りに居て、どういう状況なのか正確には分っていないはずなのだが、どう動くのかは理解が出来ているようで、側に居たおりょうですら何故上手くやれるのか不思議だった。

最初に動いたのはお澄だった。

「おりょう様、一旦この場でお控えいただきますか?(わたくし)が道を開きます。お冬殿にも脱出の時を与え無いといけませんから。」、

そう言ってお澄は、見張りがたむろしている中へ躍り出ると炸裂する煙玉を使って辺りの視界を奪った。

一瞬の閃光のあと、煙が立ちこめたのを見たお冬は『時は今』とばかりに隠れていた場所から移動すると

次の動きに備えた。

煙が晴れ始めるとお澄はわざと他の者達に姿を晒して追うように仕向けると、相手が追いかけやすく且つ追いつかれない程度の速さで本堂から離れるように逃げ始めた。

本堂周りに居た者達の大多数がお澄を追って持ち場を離れたのを見定めたお冬は、足を引きずりながらおりょうの潜む場所へと逃げ込んできた。

「お冬さん!大丈夫なん?」

おりょうが思わず声を掛けると

「あ、おりょうさんおひさです。」

暢気に挨拶で返してきた。怪我をしているはずだが慌てる様子も無い。

「取りあえずお頭に次の合図を送らないと・・・。」

そう呟いていそいそと何本かの筒のようなものを取り出すと、地面に突き刺して次々と火を入れ始めた。

途端筒からは次々と火の塊が飛び出して、夜空ではじけた。

「うわー花火や!綺麗やけど・・・」

「花火を組み合わせて今の状況を知らせたんですよ。」

「そうなん?ただの合図だけかと思ってたわ。」

おりょうは感心しながら上空を見上げていたが、我に返って

「そや、うちも突入せんと!」

「おりょうさん、ちょっと待って!」

お冬はおりょうを制すると、がやがやと騒がしくなり始めた入り口に小さな玉を投げつけた。

玉は地面で弾けると閃光を発して忽ち煙に包まれた。

「おりょうさん、今です!」

「よっっしゃ!」

おりょうが勢い本堂に飛び込むと、閃光で目をやられ煙にむせる者達が苦しそうにしていた。

苦しむ連中を容赦なく十手で打ち据えると、隠し扉から現れてきた賊を次々と打ち倒した。

お冬も離れた場所から小柄(こづか)を投げて援護すると、小柄は確実に賊を捕えていく。

他の場所に居た連中が騒ぎを聞きつけ戻ってくると、囲まれるのを避けるためおりょうは、一旦本堂から外に出て態勢を整えた。

しばらくするとお澄も戻ってきたので、3名うち揃って本堂へ突入を開始した。

その頃、お冬からの新たな合図を受け取ったお高は即座に動く。

御前に東町奉行所への知らせを頼むと、自らは市中に散っている隠密を天王寺へ向かうよう檄を飛ばすと共に、店に残していた配下を集めて万が一の策を講じる手筈を整えた。

一方、御前からの知らせを受けた東町奉行は、控えの隊として残していた与力の三田の指揮する隊を向かわせると共に、別の場所に派遣していた大石の隊を転進させるよう命じた。

「儀式の阻止には間に合わないかもしれぬが、為せることは出来うる限りやっておかなくては。」

一方、烏天狗たちは当初の予定通り二手に分かれて行動していた。

鬼道丸の守るほうへ派遣された者達は、一戦交える前に鬼道丸が鬼徹と闘い始めた為、事の成り行きを見守る羽目になっていた。

「大介いかがいたす?」江三郎が不安げに問うと

「これは手出しできそういないのう。忌々しいが手出しするなど、むざむざ討たれに行くようなものだからのう。」

「確かに・・・。」

「ここで儀式が行われるかどうかよく見極めた上で、違うとなれば直ぐに与一達と合流するのがよさそうだのう。」

大介の言葉に江三郎は頷いた。

他方与一は乱戦の最中に居た。

目明しの伝蔵親分が乗り込んだ甲三郎が守る屋敷に向かったのだが、伝蔵以下子分達を始め後から追いついた与力勢が鼬の一党に行く手を阻まれていたのだ。

人ならぬもの動きといい両手の鎌による攻撃といい、人には手に余る相手であった。

「これはいかんな、加勢せねば。」

ついてきた烏天狗達に目配せすると

与一は鼬たちの背後を突いて攪乱しつつ崩しにかかったが、次々と湧く鼬たちに辟易としていた。

すると奥から

「その烏天狗のうち目立っているそいつは俺に寄越せ!」

と声を掛ける者が居た。

与一が顔を向けると、甲三郎が抜き身を抱えて佇んでいた。



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