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第七十二話 刃と鋼

鬼徹が金棒を構えると、闇の中から大柄な影が姿を現した。

「久し振りだな、貴殿に打ってもらった刀は良く手に馴染んでおるぞ。」

篝火の側までやって来るとその姿ははっきりしてきた。

ボサボサの頭から伸びる角が、この大男が何者かを雄弁に物語っている。

鍛え上げられた太い腕に鋭い爪、手は刀の柄に乗せられてはいるが、その刀自体二尺はある大太刀で、どうやって抜くのかすら解らないほどだ。

最も話しかけられていた鬼徹の方はとっくに誰か判っていたらしく、構えを解かず平然としていた。

「相変わらず無口だのう、もう刀は打たないのか?いや、抜かぬのか?」

「あいかわらず口数が多いな鬼道丸。刀は最早打つ専門だ。」

鬼徹が素っ気なく答えると、鬼道丸はニヤリとした。

おりょうは内心(こいつが二強の一角か、厄介やな。)と思いながら固唾を呑んで見守っていると

「それにしても烏天狗の手練れと手合わせ出来るかと楽しみにしていたら、まさかそれ以上の大物が待ち構えているとはな。おじょうちゃんはこの場に居合わせられて眼福だな。」

己の存在を認識されてすら居ないと思っていた相手から、いきなり話しかけられておりょうは驚いたが、

(こいつ私の事を牽制してるんか?)おりょうは心の中で呟く

鬼道丸がおりょうに話しかけることによって『居ることは分っているぞ、邪魔をするなよ。』と圧をかけていることは明白だった。目の前に強敵を迎えながらも油断はしない、豪放な外見とは裏腹に神経質なほど繊細で周囲への警戒は全く怠らない。

おりょうは目の前の相手がどれだけ厄介なのかを、思い知らされるのだった。

鬼道丸は鬼徹が話に乗ってこないと分ると、刀の柄に手を掛けてゆっくりと構え直した。

抜刀術を心得ているのであろう、鬼徹をしっかりと見据えて静かに構えをとる。

対して鬼徹は微動だにせず、先程から同じ構えで鬼道丸を見据えている。

にらみ合う時が恐ろしく長いものに感じていたおりょうだったが、実際はさほど時間は経ってはいない。

それでもピリ付いた空気は、時の流れすら遅らせるようだった。

しばらくすると諦めたような表情で鬼道丸が抜刀の構えを解くと、改めて刀を抜いて構え直した。

「流石鬼徹、抜刀術で切りつける隙が見当たらぬな。正攻法で打合うしか無さそうだ。」

鬼道丸が再び話しかけてきたが、相変わらず鬼徹は無言だった。互いに得物を構えた二人は間合いを計りながら、お互い少しづつ動いて相手の隙を誘おうとする。

二尺にも渡る大刀を操る鬼道丸の方が間合いの上では有利そうに見えるのだが、敢えて間合いの有利を活かそうともしないのは、ひとえに鬼徹の剣技が卓越していて迂闊に打ち込めないということだろう。

己の技量が優れているが故に鬼道丸は鬼徹の力量を見誤ることは無かった。

お互いが睨み合うような形で間合いをとりつつ、相手を釣るような動きを見せてはいるが、共に簡単に釣られる様子も無く、張り詰めた空気だけが辺りを包んでいた。

このような状態が何時までも続くかと思われた刹那、鬼道丸が動いた

「うおー!!」

叫び声を上げて突然鬼徹の間合いに飛び込むと、猛然と切りつけてきたのだ。

飛び込まれた鬼徹は完全に受け身になってはいたが、鬼道丸からの鋭い切っ先を落ち着いて捌いていた。

薄暗い中、鋼と刃の打合う音と同時に飛び散る火花が魂の輝きの如く光る。

鬼道丸は時折叫び声を上げながら、息もつかせず猛烈に切り込んでいくが、鬼徹は淡々と受け流して崩れる素振りすら無い。

おりょうは二人の打合う姿を、ただただ見守っていた。

鬼徹に加勢など到底出来る様子では無く、鬼道丸の相手は鬼徹にしか務まらないのは明らかだった。

しばらくは勢いで押し込んでいた鬼道丸だったが、徐々に鬼徹に押し返されていた。

(不味いな、出端に押し切れなかったのが痛いのう)鬼道丸は心の中でつぶやき

後ろに飛び退いて少し間合いをとると刀を構え直した。

「鬼徹よ、相変わらずじゃな。それほどの強さを持ちながら刀を捨てるとはな。」

「元々剣の道を究める気はない。良い刀を打つために修行していたに過ぎぬ。」

鬼徹はそう返すと金棒を下段に構え直すと、態勢を低くした。

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