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第七十一話 臨戦

お冬は身を隠すのに頃合いの良い場所を見つけて身を潜めていた。幸い銃弾は足をかすめただけだが、咄嗟に無理な動き方をしたせいか足を痛めたようだった。

「お冬様とあろう者が焼きが回ったわね。」

撃たれた場所の応急処置をしたものの、身を刺すような痛みは残り、挫いた為か上手く足を運ぶことも出来ず、動き回ることは諦めた。

とはいえ探る気持ちは衰えてはおらず、人の動きや会話をつぶさに観察して半日もかからぬうちにあらゆる事を突き止めて見せた。

儀式を行うために本堂の地下に祭壇を設けたことや、地下への出入り口までしっかり探り出していたのだ。

「あの感じだと一両日中に儀式がありそう。下手したら今晩かも?」

お冬としてここまでのことを報告したかったが、あと一つ決め手が欲しかった。

「平戸屋さえ現れてくれたら・・・。」

お冬の願いはさして刻を経ずに叶えられた。

そろそろ申の刻を迎えようとした頃、平戸屋が先生と共に現れたのだ。

お冬の潜んでいる場所は少し身体をずらせば人の出入りが分る程度に外の様子も見ることが出来た。

「それにしても人の出入りが多いわね。どうやら今日辺りが実行日だったのかも?」

お冬がそう呟いてチラチラと外の様子も見つつ、儀式場への出入り口を見張っていると

「あっ、あれは・・・。」

門をくぐってくる平戸屋と『先生』と呼ばれる男の姿を認めた。

「平戸屋がこっちに来たって事は、やっぱりここが本命なのかな?」

平戸屋が現れたと言うことはここで儀式が行われるのは明らかではあったが、もしかしたら単なる様子見で、直ぐに別の場所に行くかも知れないと思ったお冬は、もうしばらく監視した上で連絡を入れるのかを決めることにした。

その後半時ほどしてから今度は本堂の方へ平戸屋が現れたのだ。平戸屋の方は来た時のままの格好であったが、お冬が目を見張ったのは先生と呼ばれている男の方だった。

「あれって、山伏?にしては模様の入った襟とかは違うのか?」

先生は襟元に刺繍の入った黒っぽい服に布を肩に掛け、頭には修験者が頭に被る頭襟(ときん)のようなものを身につけ、腕にも黒い紐を巻いてまでいて、少なくとも何かの儀式を行うことは間違いなかった。

何やら言葉を交わしながら、二人はそのまま隠し扉から下へ降りていった。

「間違いない!ここなんだ。急いでお頭に知らせないと。」

お冬は急いで合図を送ろうとしたが、負傷した足が簡単に治る訳も無く、いつものような動きが出来ず、思わず大きな音を立ててしまったのだ。

「しまった!」小さく呟くと身を沈めてやり過ごそうとしたが、配下の者達が物音に気付いて様子を見に集まってきた。

薄暗い本堂をロウソクなどで照らし回っていたが、幸いお冬の姿を見られては居なかった。

とは言うものの、本堂からなかなか去ろうとはせず、寧ろ数人が警戒のため本堂に残りさえしたのだ。

「仕方ないね。もう少し暗くなるのを待ってから連中を何とかした上で合図を送るしか無さそう。」

お冬は身を潜めて刻を待つことにしたのだ。

そうこうしていると、何やら本堂の下が慌ただしくなり、人の出入りも激しくなってきた。

外に目をやると篝火のようなものを焚き、櫓を組んだ上から松明を振っている者さえいて、明らかに何かを行う空気になっている。

お冬はジリジリしながらも、打つべき手立てを頭の中で反芻し始めていた。


時を同じくして合図を受け取ったのか、手練れ達が集められていた二カ所も動き始めていた。

伝蔵が張り込んでいた先は、敷地内から突然団扇太鼓の大音声が複数鳴り響いたので、驚いた伝蔵達が慌てて敷地に飛び込むと、武装した(イタチ)が現れて捕り方達の前に立ちはだかった。

肝の据わった伝蔵ですら鼬の妖が多数現れると一瞬怯んだが、ただちに自身の怯懦を叩き出すと、気合いを入れて他の捕り方達と共に立ち向かっていった。

おりょう達の方は、初めのうちこそ何やら慌ただしく動いていたようだが、いざ飛び込んでみると誰一人姿が無く、篝火だけが静かに焚かれているだけだった。

何か殺気めいた空気だけが辺りを包み込む。

「お嬢、お気を付け下さい。厄介な奴が潜んでいます。」

鬼徹はそう言うと自ら鍛えた細身の金棒を握り直し、おりょうの前に立った。

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