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第七話 烏再び

一瞬自失茫然としたおりょうだったが、すぐに気を取り直すと飛び込んできた子分に声をかけた

「伝七、案内して!」

「姉御わいらも!」同調して一緒に行こうとする定吉達をおりょうは制すると、

「二人は一旦番屋に戻って、他の連中も番屋に集めといて。もしかしたら総出でお呼びがかかるかもしれへんから。」

「わかりやした!ほな鬼徹行こか。」鬼徹も大きく頷くと、飛ぶように店を出た。

「ほな、うちらも行くで。女将さんごめんやけどお勘定は付けといて。」

おりょうは言い終わるやいなや一陣の風のように店を後にした。

「親分さんは相変わらずやね。」

女将は苦笑いしながらおりょう達を見送った。

道すがらおりょうは、伝七に烏小僧が現れたというあらましを聞いていた

「烏小僧の奴、いきなりやってんな。」

「はい、店の中庭にいきなり黒装束の男が現れて『こいつは頂いた。』ちゅうて銭袋を持ったまま屋根に飛び上がったそうですわ。」

「銭袋?あれ相当重いで。大の男でも抱えて飛び上がれるやろうか?」

「そこですわ親分。」「そこ?」

「はい、黒尽くめでそんな真似事出来る奴は、きっと江戸を暴れ回った烏小僧しかおらんやろと。」

「それが決め手になったちゅうねんな。けど只の真似しいの仕業ちゃうの?」

「まるで飛ぶかのように屋根屋根を飛び回れる奴はそうおりまへん。」

「確かにそうやけどなあ。」

さすがに江戸で烏小僧と相対した人間は、大坂にはそうそういないだろう。

おりょうは今ひとつ納得がいかなかったが、自分の目で確認すれば全てが分かるだろうと考え、道を急ぐことにしたが、急ぐとなる肝心の場所は知らせに来た伝七にしか分からない。

伝七も決して足が遅い方では無いが、おりょうに比ベるべくもないだけに、おりょうは伝七の後ろをもどかしげに追っていくしかなかった。が、

「伝七まだ?先行ってもええ?」とうとうしびれを切らして伝七に呼びかけた

「親分申し訳ないです。賊が出たのは高麗橋近くの泉州屋です。先行って下さい。」

「ガッテン。」おりょうはそう言い残して伝七を置き去りにして先に駆けていく。

おりょうは自慢の快足を飛ばすと、程なく高麗橋とその辺りに群がる多数の捕り方達の提灯の明かりが見え始めた。

捕物達が手にする龕灯がんどうが照らす先にには、黒い人影のようなものが動き回っているようだった。

その動きは時には鋭く、時には舞うかの如く優雅でありながら隙が無く、流れるような動きを見せる様は美しい舞いのようでもあり、烏小僧に合わせて袖絡みや刺股の影が動く様は何かの儀式のようにも見えた。

一流の舞い人の様な烏小僧におりょうは目を奪われた。

「きれい・・・。」思わずつぶく。

おりょうが見とれている間にも、捕り方と烏小僧の戦いは続いていた。

捕り方達は地の利を活かして追い込もうとするのだが、あと一歩というところで烏小僧に上手くすり抜けられて、どうしても捕えるまでには行かない。

「噂に違わぬ手強い奴。江戸の同心達が手玉に取られるわけだ。」

十手を握りしめながら、捕り方達を指揮していたのは三田の同僚で切れ者と評判の大石平次郎。

「皆のもの、烏を捕えて大坂東町奉行所の名を上げようぞ!」

「おお!」

上手く士気を上げながら捕り方達を巧みに動かして対応する。

「所詮大坂と思ったけど、なかなかどうして手強い。」

烏小僧はつぶやきながら、しきりに北東の天神橋の方を窺っていた。

「もう少し時を稼がないと。」

烏小僧は再び捕り方達の方へ向き直ると、挑発するかのように彼らの鼻先に降りて見せた。

突然のことに驚いて固まってしまった捕り方達に対して。

「何をしている!賊は目の前ぞ。勝機は我らにありだ!!」

平次郎の声が響き渡ると、捕り方達は立ち直って眼前の烏小僧に飛びかかった。

その刹那、烏小僧は飛びかかってきた捕り方の肩を踏み台にして屋根の上に上がると、南の方へ駆けていった。

「小癪な、各々方逃すな!」

平次郎は上手く捕り方を動かして烏小僧を巧みに追い込んでいった。烏小僧は天神橋の方角を時々見ながら逃げ回っていたが、天神橋の方角から松明の明かりのような灯りがが降られたのを認めると、

捕り方へ向かって

「捕り方の衆、今宵はなかなか楽しかった。名残惜しいがこれにて御免!」

烏小僧は何か玉を投げつけると、たちまち辺りが煙りだらけとなり、捕り方達が煙を払っている間に何処かへと逃げ去った。

「あれが烏小僧か・・・。」

烏小僧の姿を追いながら、結局そばに近づくことさえ出来ずにいたおりょうは、烏小僧が去って行ったとおぼしき方角をしばらく眺めていた。


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