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第六十九話 策謀

肥前守は大層ご機嫌な様子で平戸屋と相対していた。

「いよいよ大事を成す時が来たようだな。して、首尾の方は?」

「はっ、抜かりはございませぬ。各所に囮を配しており、東町の者共を翻弄しております。」

肥前守は満足げに頷く

「呼び出してからの手筈の方であるが・・・。」

「まずは道頓堀界隈で暴れ回り、そのまま御堂から堂島へ動いて町人衆に印象づけた上で、京に向かうように見せて蒲生辺りで待ち伏せる大坂城代衆と西町奉行衆で倒す。というのは如何でしょうか?」

平戸屋は肥前守に自らの策を披露すると、肥前守は膝を打って

「流石は平戸屋!見事な策であるな。儂だけで無く、甥に名誉回復の機会がある辺りも有り難いくらいである。主は商いだけで無くかような方面にも長じておるとはな。武士でないのが勿体ない。」

「これは過分なお褒めありがとうございます。私が商いに邁進出来るのもお殿様あってのこと、これは今迄のお引き立てのご恩返しのようなものです。」

平戸屋が満面の笑みで答えると、肥前守も相好を崩して

「おぬしの誠心相判った。此度の策が上手く行けば儂もいよいよ幕閣の中枢に入ることも叶うだろう。その折りには今以上目を掛けるつもりであるから、期待して良いぞ。」

「有り難き幸せに存じます。お殿様が幕閣に加われた暁には平戸屋も今以上に繁盛致しましょう。」

「時に儀式の場所は何処を使うのだ?儂にも知らされておらぬが?」

肥前守がふと思った疑問を口にしたが、平戸屋は

「それは万一事が破れた時に、お殿様に迷惑を掛けぬ為です。無論しくじることなど無いとは思いますが、事がこと故、念には念を入れてのことです。」

もっともらしげに返すと

「確かにな。さすが平戸屋、慧眼である。」

肥前守も納得したようだった。

後は他愛の無い雑談を半時ほどして密談は終了した。

「では、事を行う日が正式に定まったら知らせるように。城兵の支度も在るからな。頼んだぞ。」

終始ご機嫌であった肥前守は満足げに城代屋敷へと戻っていった。

裏口まで見送った平戸屋は息を吐き、いかにも疲れたという表情で肩に手をやっていると『先』』が声を掛けてきた。

「これは平戸屋殿、お疲れでしたな。」

「いやはや愚物の相手は疲れますな。」

「これはお口の悪いことを?引き立てて下さる恩人に対してあまりのお言葉。」

先生は平戸屋を咎めたてるような物言いをしながら、その顔は笑っていた。

平戸屋もつられて笑顔になると

「下にも言葉が過ぎましたな。反省反省。愚物故煽てればいくらでも役に立ってくれますからな。」

「その通りです。あれの権力はギリギリまで利用させてもらうに越したことはありませぬからな。」

お互い顔を見合わせて声を上げて笑った。

「時に『先生』、支度はどのくらい進みましたかな?入り用なものがあれば遠慮無く仰って下さい。」

「ほぼ完了したと申しても良いでしょう。儀式については入り用なものはありませぬな。強いて言えば同士をなるべくこちらに集めて、(いたち)破落戸(ごろつき)を他の場所で使うようにしたいですな。」

「そこは問題ございません。儀式の準備が出来たのでしたら、余計な連中は他の守りに回ってもらいましょう。何なら囮を増やしても良いかもですな。」

平戸屋の言葉に『先生』も頷くと

「召喚の儀式は我々にとって神聖なものです。異教徒は立ち会うことすら許されぬもの。」

「確かに。その点は抜かりはありませぬ。当日は守りを含めて同士のみで大事を行う事が出来ましょう。ご安心を。」

「平戸屋殿の言は千金に値しますからな、大船に乗ったようなものですな。」

二人は当日の具体的な取り決めを細かく定めるべく、図面を広げ始めるのだった。

「件の寺の方は如何ですか?坊主共は始末したものの、怪しまれてはいませんか?」

平戸屋が問うと

「元々うらぶれてうち捨てられたような寺でしたから、其所にいた僧がどうなったかなど誰も気には留めますまい。私の見立てでは僧が入れ替わっていることに気付かれることは無いでしょうな。」

『先生』は心配ないとばかりに答えて見せた。

その後、月や星の動きなども考慮して上で儀式の日が定められた。


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