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第六十八話 特命

おりょうと伝蔵は奥の部屋に通されると座って待つように言われ、所在なさげにしていると、奥から東町奉行本人が現れた。

思わず平伏しようとした二人を奉行は制すると

「そのままで良い。」

と言って二人と向かい合うように座った。

「堅苦しい挨拶は抜きだ。二人に折り入って頼みたいことがある。」

奉行からの言葉におりょうと伝蔵は顔を見合わせた。

戸惑う二人に対して奉行は続けて

「今回の件と違うことを頼むのではない。実は八方に探索を進めてはいるが、特に怪しいところのある場所が二カ所あり、その怪しい場所をそれぞれ見張って欲しいのだ。」

「相判りました。で分担はどないしましょうか?」伝蔵が問いかけると

「それは二人に任せる。どちらが担当するか決まったら教えてくれるだけで良い。」

奉行がそう答えると、おりょうが続けて

「もし、この二カ所以外で実際の儀式が行われた時はうちらどうしたら?」

お高と話をしていた時にお冬が語っていたことを念頭に置いていた。

「その時は持ち場を離れてそちらに向かってくれれば良い。とは言っていざという時に合図が送れない時もあるので、目安としては平戸屋が現れた場所こそ儀式を行う場所と考えて間違いないだろう。」

「お奉行は平戸屋が怪しいと?」伝蔵が問いかけると奉行は静かに頷くと

「おそらくあれが今回暗躍しているのであろう。黒幕は別に居るやも知れぬがな。」

奉行は匂わせるような物言いをしたが、おそらく大坂城代の肥前守のことを言っているのだろうとおりょうは察した。

「今回、その黒幕は現れると思いますか?」おりょうが尋ねてみると

「まあ出ては来まい。あぶり出せれば良いのだが、おそらく姿はおろか尻尾も見せぬだろうて。」

奉行はさも残念そうな表情を見せた。

伝蔵は改まるとしっかと奉行を見据えて

「ともかく、お奉行からの下命しかと承りました。あんじょう気張ります。」

と力強く答えた。

その後具体的な決め事が話し合われ、おりょうが鬼徹を連れて大男の方へ向かい、伝蔵が危険な男が仕切る方へ向かうこととなった。

奉行所から帰る道すがら

「親分、大層なことになりましたね。どないなってまうんやろう?」

おりょうが不安げに問いかけると

「どないもこないも、今はがむしゃらに動くしか無さそうやな。まあ、動く言うても持ち場決められてしもたから、じっと見張ってるだけ何やけどな。」と笑顔で返す。

伝蔵は心配そうなおりょうの気持ちを解そうと、おちゃらけて見せたのだ。

おりょうも伝蔵の心遣いを有り難く思い

「そうやな、うちも目の前のお役目に集中するわ!」

満面の笑顔を伝蔵に見せた。

おりょうは番屋に帰ると早速見張るための手筈を整えた。

定吉が仕切って子分衆を数班に分け、班ごとに交代で屋敷の周りを見張り、何か動きがあれば番屋に詰めているおりょうと鬼徹に知らせを遣って、駆けつけた二人を先頭に屋敷に乗り込むという手筈となった。

「姉御なかなか大変なお役目でんな。正直本命は伝蔵親分のとこかうちらの方くらいちゃいまっか?」

「確かにね。でも、もしかしたどっちも違うて全く別の場所へ走らなあかんかもしれんで?」

「そんなことありまっか?あれだけ厳ついの集めといて、実はどっちもちゃいましたって、笑えん冗談ですわ。勘弁して欲しいわ。」

定吉は愚痴めいたことを言っておどけると

「我はどちらかといえば大男の方が都合が良い。どうも見知った男のようだから。」

鬼徹はボソリと呟いた。

「見知った男かもって、もしかしてそいつ『鬼』なんか?」

定吉に鬼徹は頷いた

「しかも剣の腕は確かで、そいつの持っている刀は、おそらく我が鍛冶をしていた頃に心血を注いで打った業物だろう。」

「鬼徹の心血を注いだ業物って洒落ならへんやん!」

定吉は鬼徹がかつて腕のいい鍛冶師であり、名工であったことも知っていたので、思わず叫んでしまったのだ。おりょうも不安そうに鬼徹を見つめている

「我とてむざむざ切られに行く気はない。いざとなれば元の姿に戻って全力で打合う所存だ。お嬢のこともしっかりお守りする。でなければ恩人の先代に顔向け出来ぬからな。」

そう語る鬼徹の表情には、決意が表れていたのだった。








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