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第六十話 下準備

平戸屋は過日の大立ち回りの舞台となった屋敷とは別の屋敷に肥前守を招いていた。

「これはこれは肥前守様お忙しい中お運び頂きありがとうございます。」

平戸屋は作り笑いを浮かべて出迎えると

「ふん、回りくどい物言いも作り笑いも入らぬ、用件を申せ。」

不機嫌そうに肥前守が吐き捨てるように言うと

「肥前守様のおかげで人形(ひとがた)が戻ってまいりましたので、近々剛霊武(ゴーレム)を召喚させようかと思っおりますが、如何でしょうか?」

平戸屋の申し出に肥前守は機嫌が悪いまま

「確か次の満月は西町の月番になるでは無いか?また烏小僧も邪魔してくるであろうし、これ以上甥の無能をさらけ出す訳にはいかん。」

「では、その次の満月ならば如何でしょう?丁度東町の月番ですし、彼等にも存分に烏小僧の相手をして貰えましょう。」

「良かろう。ひと月以上刻が出来たのだから、万全の体制を整えよ。先のような失態は許さぬぞ?」

「心得ております、囮の場所も幾つか用意致しますし、真の儀式を行う場所には例の鬼を配する心づもりです。先日のような不覚はとりませぬ。」

平戸屋の自信に満ちた様子に肥前守は

「その言葉しかと忘れる出ないぞ。」

そう言い残して大坂城へと帰って行った。

肥前守を見送ると早速儀式を行うための準備を始めた。

「先生をこちらへ。」

平戸屋に促された使用人は別室に控えている先生と呼ばれる人物を呼びに行くと、ほどなく学者風の男を伴って戻ってきた。

「先生いよいよ剛霊武を召喚致します。お力を存分にお振るい下さい。」

平戸屋がへりくだると傲然とした様子の男は

「うむ。私に任せておれば問題なく召喚する事が出来よう。大船に乗った気でいれば良いですぞ。」

男は胸を張った。

人形(ひとがた)や同時に使用する羊皮紙に記載されている文字についての内容などの知識は皆無に等しく、平戸屋別邸で肥前守に問われた時にも何一つ答えられずにはいたが、儀式そのものについての知識についてはそれなりにあるようで、この男が中心となって儀式の準備が進められるようだった。

「平戸屋殿の用意されている場所から最も良い卦が出たのはこちらでありますな。」

男はまず卦を立てて儀式を行うべき場所を定めると、満月の正確な日を調べ始めた。

「直近はこの日で次となるとこの日ですな。本当ならこちらの日の方がより儀式日和ではありますが、肥前守様からの申し出とあれば無下には出来ますまいな。まあ、あれの召喚自体は日を選びませぬがな。」

先生の言葉に平戸屋は頷いて

「確かに、まあそれなりの作法を行う方がらしく見えますし、何よりあの御仁にはまだまだ役に立って頂きたい方ですからね。ここは顔を立てて差し上げるのが上策でしょうから。」

明らかに利用価値があるから立てているのだと言わんばかりの物言いで返した。

その後、儀式を行うべき時と場所が定まると屋敷の中は慌ただしく動き始め、次々と呼ばれた者が忙しげに現れると細々とした指示を受けては立ち去っていった。

しばらくすると甲三郎と鬼道丸も姿を現すと

「仕事と聞いたが何処へ赴けば良いか?」

「此度こそ腕の振るい甲斐のある奴と闘えるのか?」

それぞれの性格そのままの言葉を平戸屋にかけてきたので

「儀式の時と場所が決まったので、儀式の日までの間神具の護衛と儀式当日の守備を任せたい。」

「ほう、いよいよか?手下はいかほど必要か?」

「腕の立つものが一人でも多く欲しいところだが、当日については腕を問わず集めておいて欲しい。」

「腕を問わず?さして役に立ちそうにもない者でも良いと言う事なのか?」

甲三郎が平戸屋の真意を理解出来ないという表情を浮かべると

「如何にも。本当に腕の立つ者達は選りすぐって貰って、それ以外の者も何組かに分けて用意して貰いたいのだ。」

「なるほどな。そういうことなら相判った。護衛の方の人選から進めておこう。」

甲三郎は平戸屋の狙いを悟ったらしい返答をすると、そのまま何処かへと去っていった。

「では俺は護衛の方から引き続きの精鋭に加われば良いのか?」

鬼道丸は刀の柄に手を掛け、うずうずした様子で問いかけると

「此度はそれ以上の働きを求めたいのだが、構わないか?」

「是非も無い!」

平戸屋からの言葉に鬼道丸は満足げに応えた。


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