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第五十七話 探索継続

御前の屋敷は早朝であったにも拘わらず、二人を待ちかねていたように迎え入れた。

「御前おはようございます。朝早くから申し訳ありません。」

「おはよう。こちらこそ報告をいち早く聞きたいが故に呼び立てて申し訳ないな。」

座が定まったところですぐさまおたえが簡単な朝餉の膳を運んでくる。

「実は朝餉がまだでな。良ければ相伴せよ。」

「ありがとうございます。そんなつもり無かったのですが・・・。」

お高は少し遠慮気味だったが、おたえから

「折角作ったんだから食べてちょうだいね。」

お冬も被せるように

「そうですよお頭、遠慮はいけない。」

そういって手を合わせると遠慮は無用とばかりに朝餉を搔き込み始めた。

二人が食べている姿を満足そうに見やりながら御前は

「そのまま食べながらで良いから聞いて欲しい。先日の蒹葭堂先生の一件だが、」

朝餉の手を止めたお高は頷いて

「私の筋からも情報が入っています。」

二人の情報をすり寄せたところ、次の事が解った。

今回の一件は肥前守が上申する形で訴え出た事を受けて、取り締まる大義名分を得たのだが、その事を奇 貨として木村蒹葭堂に罪を着せて、併せて甥に手柄を立てさせるという筋書きだったようだ。

正直なところ幕閣の大半はどうでも良い事と思って流してしまおうとすらしていたようだが、ただ一人老中の松平越中守だけは喰い気味に反応し、進んで受理しただけに留まらず寧ろ激励すらしたらしい。

「全く越中殿も余計な事を。」御前は渋い顔をして腕を組んだ。

「あの方は無駄に真面目というか・・・そのせいでこの度はまんまと肥前守の企みに利用されたのはあまりにも思慮が浅いと言うべきでしょうか。」

お高もやれやれといったいった表情を浮かべていた。

「して、平戸屋から烏天狗が奪い取ったという怪しげな人形(ひとがた)は何故蒹葭堂殿の元に?」

「それについてはお冬が。」お高に促されてお冬は

「蒹葭堂には泉州屋という織物全般をを商うものから譲り受けたようです。」

「譲り受けた?」御前は不可解だという表情を見せた

「はい。蒹葭堂殿には借金の形に受け取った物と言っていたようですが、元々の持ち主を知っている我々としては怪しい物言いかと。」

「なるほどな。それにしても良く泉州屋が持込んだと判ったな。さすが貸本屋と言うところかな?」

御前の言葉にお高はニッコリすると

「仰せの通りに御座います。加えてこのお冬の力量を持ってすれば容易い事です。」

まるで我が事のようにお冬の事を自慢した。

「まあ私にかかれば造作もありません。ただ、私でも判らないのは烏天狗と泉州屋との繋がりです。」

お冬の言葉に御前とお高は頷いた。

実際の所烏天狗が直接蒹葭堂へ持ち込めない以上、人に協力を仰ぐのは当然ではあったが、繫がりとなると皆目見当もつかなかった。しかも、人形が蒹葭堂に持込まれて以降烏天狗達が密かに蒹葭堂を護衛していた節もあり、謎は深まるばかりであった。

「そもそも何故人形を蒹葭堂に持込んだのであろう?蒹葭堂が異国の言葉にも堪能で有ったと言う事が理由かも知れないが、何を読ませようとしたのであろうか。」

「お冬は何か知ってる?」

「残念ながらお頭、暗闇で見るばかりだったので、形はともかく文字めいたものがあったかどうかまでは分りません。しかしながら何かしらの儀式が必要な様子だったんで、或いは異国の文字でも書かれてあったかも知れませんね。」

お冬の言葉を受けたお高は

「肥前守と平戸屋が何を企んでいるのかは判りませんが、何かされる前に企みを挫いておきたいところですね。引き続き探索を行います。」

その言葉に御前は深く頷いて

「手間を掛けるがよろしく頼む。此度の事、五年前の一件に連なるやも知れぬからな。」

「確かに。抜け荷の罪を犯していたのは肥前守と平戸屋であったとすれば、濡れ衣を着せて罪を免れたことを含めた今までの動きに説明もつきますね。」お高も御前の言葉を首肯した。

朝餉を終えた三人は今後の事を打ち合わせて、各々の成すべき事を定めるとお高達は御前宅を辞した。

翌日早朝、お高は五年前の事件についての調書を調べ直す為、一旦江戸へ戻る旅路についた。

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