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第五十六話 誘い文

いつものように自宅でおりょうが休むまでのひととき、読書をして過ごしていると不意に

トントン

と戸を叩く音がした。

「ん、こんな夜更けになんやろうな?なんか起きたんかな?」

慌てて戸口まで行くと、文が差し入れられていた。戸を開けて外を見てみるが人影は見当たらず、夜の闇が広がり夜回りの拍子木を叩く音が時折響くだけだった。

「誰か来た筈なんやけど・・・。」

改めて差し入れられていた文を開くと

『内々に伝えたき議有 明日夕七つ 蒲生若宮八幡にて待つ くれぐれも余人交えぬように 烏』

と達筆な筆遣いに簡潔に書かれた一文があり、目を惹いたのは『烏』の署名だった。

「烏ってまさか・・・。」

おりょうは混乱した。そもそも烏小僧とは先日の捕物の現場で初めて相対しただけだ。

「うちの事なんで烏小僧が知ってんの?この前の一回対峙しただけやで。」

おりょうとしたは本当に烏小僧の文なのか、それとも何かおりょうを陥れようとする企みなのかも知れないという疑惑もあり、簡単には決することは出来なかった。あわよくば、会話の成り行きによっては烏小僧を捕える機会になるかも知れない。

『余人交えぬよう』の一文を見る限り、相手は邪魔の入らぬ状態で一対一の対面を望んでいるのは明らかだった。

「とすると、他の人に相談はでけへんな。ほんまやったら定吉か鬼徹には話をしておきたいとこやけど・・・。」

おりょうはしばらく逡巡していたが、意を決して烏小僧と単独で対峙する事にした。

何より単純に烏小僧と話してみたいという欲求が何よりも優先した結果ではあるのだが、捕える機会なり捕える為の手掛かりなりを掴めればという気持ちも多分にあった。

取るものも取りあえず指定の刻限は昼下がりではあったが、英気を養う為に休む事にした。

ところがいざ眠ろうとすると明日の事があたまにちらつき始めてしまい、何度も目が覚める有様で結局ほとんど眠れぬまま朝を迎えるのだった。

朝になって仕方なく体を起こし、井戸で顔を洗っていると

「おりょうちゃんおはよう!」

「ひゃあ!」

お高が現れておりょうに思いっきり抱きついてきたのだ

「お、お高さん朝から何すんねん!」

「あら、挨拶したのに返してくれないの?」

「え、あ、おはようさん」

「おはようおりょうちゃん、今朝も元気そうね。」

「いや、お高さんがいきなり抱きついてくるからびっくりしただけや。」

おりょうは眠れていない事もあって不機嫌に返した。

「おりょうちゃん怖い~。」

「はいはい。で、なんか用事?」

「もうおりょうちゃん冷たすぎよ?とりたてておりょうちゃんには用は無かったんだけど、見掛けちゃったらつい、ね。」お高は笑顔で答えた。

「何それ?うちも暇ちゃうよ。で、何処へ行くつもりやったん?」

「実は朝一番に御前に呼ばれちゃって、お冬と一緒にお伺いするところ。」

「お壱さんは一緒やないん?」

「お店を開ける支度も在るし、今そこそこ忙しくなってるから。」

そう聞いておりょうは盾となってくれるお壱が居ない事で、いつも以上に警戒した。

「おりょうちゃん、そんなに警戒しなくても・・・。」

「うちのことはええから。はよ行かんと御隠居が怒るで。」

そういってシッシッと追い立てるような仕草をして見せた。

「もー意地悪。まあ御前もお待ちだからもう行くわね?おりょうちゃん寂しいとは思うけど、ごめんなさいね。」

そういってお高は手を振りながら去って行ると、おりょうはお高の背中にむかって

「誰もさみしがってないちゅうねん。」と叫んだ

「あーゾクゾクする。」

おりょうの叫び声にうれしげなお高に対して

「きもいです・・・。」

お冬はぼそっと呟いたが、お高は聞こえないふりをした。

「なんなんあれ・・・。」

おりょうは立ち尽くしながら、お高達を見送った。





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