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第五十五話 静かな決意

蒹葭堂が伊勢長島へ去った後も西町奉行所を名乗る者が詮議と称して蒹葭堂宅を訪れていた。

部屋で何かを探し回っているようではあったが、きちんと元に戻して帰った為、使用人達は気にも留めていなかった。

しばらくして、使用人の一人が何か失ったのではないかと騒いだ。どうやら蒹葭堂が奉行所の役人が来た日まで熱心に調べていた物が沢山の書置きと共に消えたというのだ。

蒹葭堂から文を貰った泉州屋が駆けつけて露見したのだが、結局その時は何処へ消えたのかは判らないままだった。

念のため西町奉行所へも問い合わせたが、その様な者達を使わした事は無いという返答だった。

その後の西町奉行所の動きも無責任極まりなく、奉行所を騙った者を探しすらしなかった為に、当然のことながら失った物が戻る事も無かった。

失望した泉州屋も為す術も無く、取るものも取りあえず天狗達に一報を伝えたのだった。

「泉州屋殿には手数を掛けてしもうたの。」僧正坊は申し訳なさそうに呟いた。

「おそらく連中が手を回して取り返したに違いありません。それにしても・・・。」

継信としては万全の体制で蒹葭堂を守っていたはずだったが、まさか権力を振りかざしてくるとは思いもしなかったのだ。

「こうなっては仕方あるまい。継信が悪いのでは無いのだからな。」

与一は慰めるように声をかけた。

「しかし、どうしたものかの?再度奪いに行こうかの?」

大介はそういって周りを見たが、誰も賛同はしなかった。

「馬鹿を言うな、先日は不意を衝けたが今度はそうも行かんだろ?そもそも一度奪われた場所にまた戻そうとするか?猪突猛進の俺でも判るぞ。」

勇猛さを自認する江三郎ですら慎重論を唱えたほどだ。

「さてさていかが致そうか。事が起きるまで待つしか無いか。」

役のも悩ましげな表情を浮かべて諦め気味だった。

「下策かも知れませんが・・・。」

沈黙を破るようにそれまで静かに皆の話を聞いていた烏小僧が声を上げた。

「烏小僧殿いかがいたした?なんぞ良い策でも?」羅天が問いかけると

「はい。西町や肥前守の悪事について東町奉行所に関わる者に直に示唆してみるのはどうかと。」

烏小僧の提案に皆は顔を見合わせた

「示唆すると言うてもな、そもそもどのようにして接触するのじゃ?まして天狗がのこのこ現れて言う事に信をおいて聞き入れてくれるものかな?」

僧正坊は懸念を示してみせた。

「人の姿で話してみるのか?そうすると話の出所を詮索されて返って不味い事にはならないか?」

与一も明らかに賛同出来ないといった様子だった。二人とも烏小僧の提案が自ら行う前提である事を理解しており、敢えて虎口に入るような真似をさせたくは無かったからだ。

「正体は晒しません。あくまでも烏小僧としてです。それに話をする相手も信に足りこちらの話に耳を貸してくれる者を選ぶつもりです。」

「とすると東町奉行所に関わる者で、耳を傾けてくれそうな相手というのは、やはりあの女人かな?」

役のの問いかけに烏小僧は静かに頷いて

「役の様の仰るとおりです。あの女親分に直にこれまでの事を話してみるつもりです。」

「やはりか。しかしそれは別の意味で危険では無いか?その場で捕えられるやも知れぬぞ。」

「かも知れませんね。しかしこのまま手をこまねいているよりは、警告なり示唆なりしておいた方が良いと思っております。」

烏小僧はきっぱりと答え続けて

「私怨で始めた事ではありますが、思いの外大きな事が起きておりました。知ってしまったからには捨て置くわけにもまいりません。私怨を大坂の町やそこに住む人々を犠牲にしてまで果たそうとは思ってはおりません。」

「烏小僧・・・。」

「私にとって良い思い出のある町なのです・・・それをあの様な者共に穢される事が許せないのです。」

烏小僧は決意に満ちた表情を浮かべて話すと、決意の固さをくみ取った他の者は黙って烏小僧の提案に従う事にした。

その日の夜、一日の勤めを終えて休むまでの間の憩いの時を本を手に過ごしていたおりょうの元に一通の文が届けられた。







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