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第五十三話 祠の守人

謎の人形(ひとがた)を調べていた木村蒹葭堂から泉州屋に文が届いたのは、人形を託してから十日ばかり経った昼八(14時頃)の事だった。

「旦那様、壺井屋さんからお使いの方がお見えになってます。」

「そうかい、奥に通しておくれ。」

壺井屋の使いは主人からの分厚い書状を手渡した。

「主人からの文です。お納め下さい。」

泉州屋は使いの者に心付けを渡し、

「ご主人に返信を渡したいので少し待っておくれ。」

そう言って矢筒と紙をを取り出すと、さらさらと一筆したためて使いの者に託した。

使いが帰った後、自室で蒹葭堂からの書状を熟読しつつ時折手控えに何やら書き付け、一通り読み終えると蒹葭堂の文だけを文箱に仕舞い、人目を忍びながら厠の方へと歩いて行った。

陽が傾き西日が射している中、厠の側までやって来た泉州屋は再度辺りを見回し、誰もいない事を確かめると懐から呼子のような物を取りだして、思い切り吹いた。が、音は鳴らない。

それでも泉州屋は構う事無くもう一度思い切り吹くと、音こそ鳴ってはいなかったが、どこからともなく烏天狗が姿を現した。

「これは継信殿ご足労をおかけします。」

泉州屋が親しげに話しかけると

「いやいやこちらこそ厄介な仕事をお願いして申し訳ありません。」

継信と呼ばれた烏天狗の方も丁寧にお辞儀をした。

「早速ですがこちらを。」

そう言って泉州屋は油紙で丁寧に包んだ例の書状を継信へ手渡した。

「おお、かたじけない。」

「蒹葭堂さん曰く、まだ完全に訳したわけではありませんが、大まかな事は書き付けてあるとの事で、完全に解明出来れば改めてお伝えするとのことです。」

「左様ですか。本当に有り難い。それにしても蒹葭堂殿は大した御仁ですね。」

「誠に、ほんま凄い人です。ところで、蒹葭堂さんの身辺はかなり剣呑な状況ですか?」

そう問われると継信は頷いて

「最初に破落戸を集めて蒹葭堂殿の屋敷を襲おうとしていた時は、集まったところを一網打尽にしてやったので諦めるかとも思ったのですがその後も。」

「そんなに頻繁ですか?」

「はい、夜陰に紛れて忍び込もうとした奴らを物の怪の類いを含めて相当排除しましたが、連中なかなか諦めてくれなくて。」

「それはなかなか・・・。お疲れさまです。」

「恐れ入ります。ただ、ここ数日はパッタリと動きがやんだというか、ネタが切れたのかはたまた次の手立てを考えているのか、大人しすぎて返って怖いです。」

「そうなんですね、蒹葭堂先生にも念のため注意を促しときましょう。」

「それが良いですね。こちらも訳し終わるまでは警戒を強めておきましょう。」

「よろしくお願いいたします。」

泉州屋が深々と頭を下げた。

泉州屋から蒹葭堂からの書状を受け取った継信は地面を一蹴りして空高く飛び上がると、一目散に祠のある場所へ飛び去った。


一方祠の方では継信の帰りを待ちわびており、遙か遠方に姿が見えるとその場にいた者が居ても立ってもいられず我先と祠の外へ飛び出して総出での出迎えとなった。

「継信待ちわびたぞ!ささ、早うこちらへ。」羅天は継信を抱えるように奥へと招いた。

祠の奥では僧正坊と役小角が身を乗り出して待ち受けていた。

そこへ継信が躍り込むように奥へ入ると勢いそのままに書状を手渡した。

書状を受け取った僧正坊は役のと共に書状を開くと、額を擦り付けるようにして文字を追っていた。

一通り目を通した二人に向かって継信は

「泉州屋殿によると、これはまだ大まかな訳であって全てを明らかにするには今しばらく時が必要であり、蒹葭堂殿が詳細を訳次第改めて知らせるとの事です。」

「大まかとは言えこれだけでも充分全容が知れようものですな。」

「まこと、海の外というのは信じがたいものがあるものよ。かなりの長命であると自覚はあるが、かように面妖なものは聞いた事が無い。」

「南蛮の妖術、石や土で造られる式神とはな。」

「大きさは山のようなものから狸程の大きさまで自在、ダイダラボッチのようじゃな。」

僧正坊と役のは書状を眺めて驚嘆の声をあげるしかなかった。

「これで連中の野望を打ち砕いておればよいがな・・・。」羅天がそう呟いて祠の外へ目をやった。



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