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第四十五話 復命

昨夜からの喧噪がまだ町の中を支配していた朝方、お高はお壱やお冬と共に御前の屋敷へと訪れていた。

腕いっぱいの刷り物を手土産に

「おはようございます。御免下さい。」

「あら、お高さんおはようございます。お壱さんやお冬さんもご一緒ね?どうぞお入り下さい。御前がお待ちかねですよ。」

門前で出迎えたおたえに促されて三人は、屋敷の中へと入っていった。

奥には御前が待ちわびていたように

「おお、遅かったではないか!待ちわびたぞ!!」

「御前、おはようございます。お待たせいたしました。というかお待ちになっていたのはこちらでしょ?」

そういってお高は腕いっぱいに抱えていた刷り物を目の前に広げて見せた。

「おお、これじゃこれじゃ!おぬし達、朝っぱなから済まなんだな。」

そう言いながら御前の目は刷り物に向けられていた。

お茶を運び込んだおたえは呆れた面持ちで、

「まあまあ御前、お客様をほっぽり出して何ですか!あきませんよ?」

「ああ、済まない。」

顔を上げた御前が頭をかきながら謝罪すると

「いえ、構わないですよ。これだけ喜んで頂けたらこちらも市中走り回って刷り物を買い集めた甲斐がありました。」

「いや、本当にありがたいと思う。これだけの数良く集めたな。」

「この子達の力を借りればさほどの事もありません。午後にまた探しに行くつもりです。」

する横合いからお壱が

「午後は私一人で参ります。女将はお冬と今後の事を決めて下さい。刷り物を買い集めたらまた戻って参りますので。」そう言ってお茶をすすった。

「そうだな、刷り物は後でじっくり読むとして、昨夜の件話を聞いても良いか?」

お高は静かに頷くとお冬の方へ視線を遣った

「それでは僭越ながら私お冬が昨夜の件、お話いたします。」

お冬は畏まった様子で昨夜の事を語り始めた。

「御前の前を辞した後、再び平戸屋の別邸に忍び込んだのですが、結局朝まで平戸屋は戻ってきませんでした。その代わり不思議なものに出くわしたのです。果たして(うつつ)の出来事であったのか・・・。」

お冬は別邸の中の出来事を詳しく語った。屋敷の中には用心棒に混じって鬼がいて大きな剣を抱えて侍っていたが、どこからか不思議な風体のものが姿を見せると、その鬼が目にも留まらぬ速さで近づいてその不思議なものに斬りかかった。その剣の速さ強さは並のものでは無く、常人ならば受ける事すら難しいものではあったが、その不思議なものは軽々と剣を受けると鬼に負けぬ剣技で対しつつどこかへ誘い出す風だったようだ。

「で、その鬼はその不思議なものを追っていったのか?」御前は興味深げに問うと

「はい、鬼の方も誘いであるとは判ってはいるようでしたが、強敵と戦える事を優先したような印象でした。根っからの剣豪なのかも知れません。」お冬の言葉に御前は頷いた。

お冬は続けて、鬼が誘い出された後黒い影が突然現れてその場に板用心棒の二人を切り倒し、残った用心棒達と戦いつつ、平戸屋が隠し持っていた何かを奪い去って行ったと言う事だった。そして

「その影というのが烏天狗であったと?」

「はい、間違いないかと思います。」

「お冬の見間違いじゃないの?」お高は鬼のくだりを含めて信じがたいという風だったが

「お頭、私は夜目には自信があります。万が一にも見間違いではなかったと断言出来ます。」

「そう。お冬がそこまで言うのなら間違いは無さそうね。それにしても鬼に烏天狗とは・・・。」

お高としてはお上にどう報告すれば良いのか頭の痛い事だった。

「確かに。幕閣のお偉方に鬼と烏天狗が戦ってましたと言っても信じては貰えんだろうな。」

御前は苦笑いをした。

「ところで、その烏天狗達は一体何を奪って何処へ消えたの?」

「奪った物は人形(ひとがた)?のような物に見えました。何処へ行ったのかは残念ながら私でも追えませんでした。流石に飛び去られては・・・。」

「飛び去った方角とかも?」

「そのまま真っ直ぐ飛んでくれればですが、上手く闇に紛れられたので果たして飛び去った方角へ逃げたのかは判らないです。」お冬の言葉にお高は残念そうだったが

「そういえば、烏天狗達は飛び去る前に他の場所にいる仲間の事を気にしていました。」

「仲間って?」お高が尋ね返すと

「烏小僧です。」

「烏小僧!?」お冬の言葉に御前とお高は同時に声を上げた。



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