第四十四話 朝餉
烏小僧と連絡の取れないまま平戸屋の別邸を引き上げた与一達は集合場所へと無事戻ってきた。
「羅天様今戻りました!」与一が声を掛けると、羅天よりも先に納屋で留守番を言い渡されていた継信が真っ先に駆け寄ってきた。
「与一殿も大介殿、江三郎殿もお疲れさまです!ご無事でしたか?」
「おお、継信!息災だったか?」与一が笑顔を向けると
「息災も何も留守を守っていただけですので。」少しむっとした表情を見せた。
「これはこれは守備隊筆頭殿はご機嫌斜めのようだの。」
その表情を茶化すように大介がからかった。
「大介殿は何を申される。私はただ留守番に回された事を不甲斐なく思っているだけです。」
「不甲斐ないから留守番に回したわけじゃないぞ?儂らは只の武辺者じゃがの、お主には知謀もある。そう言う者が後方で我々の背後に控えてくれれば、儂らも安心して事が行えるというものじゃ。」
「江三郎の言うとおり。留守の守りご苦労であった。」
江三郎や与一にそこまで言われて継信は機嫌を直した。
与一は続けて
「そういえば烏小僧殿は?」
「それがまだ戻ってはおらぬ。お主らが戻ってきたら手分けして探そうと思っておったのだ。」
羅天は不安げな面持ちでそう答えた。
「とりあえずの、捕えられたという声も聞かんのだから朝餉でも採りながら暫し待とうかの。」
「朝餉とは暢気な!お主は烏小僧が心配ではないのか?薄情な奴じゃ。」
「もし捕まっておれば今頃大騒ぎしているはずじゃの。そうでないと言う事は捕まっておらぬと言う事では無いのかの?」大介は江三郎にそう返すと
「それはそうじゃが・・・。」江三郎は言いよどんでしまった
大介は続けて
「それにもし動けずにいるのなら、助けに行かねばならぬからの。その為にも腹ごしらえしなくては動けなくなってしまっては意味がないからの。」
「確かに・・・。あい判った。飯を食っている間に戻らねば探しに行くぞ!」
江三郎はそう叫ぶと急いで朝餉をかっ込んでいた。
与一は握り飯を急いで食べ終えると、持ち帰った木製の人形を羅天達に見せていた。
「うーむ奇っ怪ではあるが、正体が掴めぬな。周りにはどうも異国の文字がしたためてあるようなのだが・・・。」
「羅天様、取りあえず烏小僧が戻ったら、祠に帰って役の様に検分して貰ってはいかがでしょうか?」
「与一の申すとおりだな。我々の浅学では諮りがたい。」
その場に居たものが一通り朝餉を済ませ、いよいよ烏小僧を探索しようかとしていたところ
「羅天様、烏小僧様が戻られました!!」
彼等に協力している農夫風の者が知らせに来た
「真か?」羅天は思わず叫ぶと、ほどなく烏小僧が姿を現した。
「羅天様ただいま戻りました。」
「おお、良く戻ったな!大義だった。大事ないか?」
「ありがとうございます。人の姿に戻ってなんとかやり過ごしました。」
その姿はいつもの黒装束ではなかったが、羅天の労いに礼を述べると、懐から出した烏の面を身につけた
「それは大変であったな。まあそう急いて面を付けなくても良のではないか?」
「いえ、私にとってはこの姿こそ真の姿。今や人の姿は仮初めのものでしかありません。」
「そうか・・・。」
羅天はそう呟くように返すと目を閉じた
「与一殿、援護出来ず申し訳無かった。時にそちらの方の首尾は?」
「詫びには及ばぬぞ。残念ながら全て上手くとは行かなかったが、戦果はあったからな。」
与一は礼の人形を烏小僧へ見せた。
「これはまた・・・。異国の文字が書き込まれているようですが、よくわかりませんね。ただ、何か得体の知れない禍々しさを感じます。」
与一は袱紗に包んで懐にしまい込むと、
「皆が揃った事でもあるし、祠に戻りましょう。」
「完遂とは行かなかったが皆無事に戻ったしの、まずは上々かの。」
「よっしゃ、戻ろうじゃないか!」
江三郎が叫ぶと、烏小僧と継信は頷いて帰路へついた。




