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第三十九話 初対峙

突然屋根の上に現れたおりょうの姿を認めた烏小僧は、一瞬動揺したようにも見えたが、直ぐに気を取り直して何事もなかったかのように

「これはこれは勇ましいお嬢さんだ。噂の女親分とお見受けしました。」

「うちの事知っとるとは殊勝やな。このおりょう、恩賜の十手に賭けてあんたの好きにはさせへんで!おとなしゅう縛につきや!!」

おりょうは烏小僧に十手を突きつけて啖呵を切った。

烏小僧はおやおやと言った仕草を見せながら

「お気持ちに添ってあげたいのは山々ですが、こちらにも成すべき事があるので申し訳無い。」

そう言っておりょうに背を向けてその場から飛び去ろうとした。

その刹那

「逃がさへんで!」おりょうは叫びながら烏小僧の背中に迫った。

気配に気付いた烏小僧は間一髪おりょうの一撃を凌いだが、飛び立つ機会を失ってしまった。

「これはなかなか。」口では余裕があるかのように呟いてはいたが、正直なところかなり厳しくなると感じていた。気を抜くなど論外、相手はつけいる隙も逃げ出す隙もそう簡単には与えてくれそうには無かった。烏小僧は屋根伝いに走り抜け、引き離そうとするが、おりょうはしっかりと付いてくる。

屋根から屋根へ飛び移れば同じように飛び移りながら追跡を止めないおりょうに烏小僧は、かなり辟易としていたが、足を止めれば追いつかれるだけで無く、他の捕り方達まで呼び込む事になるだけに、味方と合流する事は元より合図を送る事すらままならなかった。

おりょうは単に追うだけで無く捕り方達に直ぐ判るように鈴を付けて追っていたのだ。捕り方達は鈴の音を頼りに烏小僧を追う事が出来た。

いつもなら逃げながら相手を翻弄しつつ、味方とやり取りをして目的を果たすのだが、今回は味方との連絡を付けられないまま逃げ回るのが精一杯の状況が続いた。

一方のおりょうも烏小僧を追う事の大変さを感じずにはいられなかった。

これまでなら追った下手人は確実に捕える事が出来ていた。少なくともこれほど巧みに逃げ回るものなど居なかった。

「なかなかやるやん烏小僧。流石江戸の街を席巻して捕まれへんかっただけはあるわ。」

おりょうはこのまま追っても埒が開かないとみるや、わざと隙を作って烏小僧を油断させる事にした。

烏小僧との距離を詰めていたおりょうは、足を滑らせて体勢を崩した。かに見せた。

烏小僧はその様子に気付き、この機会とばかりに飛び上がろうとして片足に力を込めて踏み込んだ。

その刹那烏小僧の踏み込んだ足に激痛が走る。

「なっ何?」烏小僧は思わずその場にしゃがみ込んだ。

体勢を崩したかに見えたおりょうは、烏小僧が飛び去ろうと片足に力を込めた瞬間を狙って十手を投げつけたのだ。

十手はものの見事に足を捕え烏小僧の動きを止める事に成功した。

「よっしゃ!狙い通り。」おりょうは勝ち誇った。

しかしながらおりょう自身も体勢が崩れていて素早く起き上がりはしたが、烏小僧も痛みを堪えながら再び走り出していた。

おりょうは捕り紐を引いて手元に十手を引き寄せながら烏小僧の跡を追った。

さしもの烏小僧も足を負傷したらしく、先程までの速さはなく、みるみるうちにおりょうが追いすがってくる。烏小僧は覚悟を決めると、おりょうが捕えようとした瞬間、すり抜けるように身を躱して軒下に降りて路地に入り込むと、闇に紛れた。

「そんなとこ逃げても無駄や。直ぐに捕り方が取り囲むで。」

おりょうの言葉通り、瞬く間に得物を手にした捕り方達が取り囲み、龕胴の灯りで忽ち辺りは昼間のように明るくなっていった。

普通ならこのまま捕えられる流れの筈であったが、相手は烏小僧。烏天狗の術を持つ者でもある。

闇に文字通り紛れると、まんまと包囲から逃げおおせた。

「なんなんこれ?嘘やろ!」

辺り一帯を取り囲み、誰一人逃さない包囲を敷いて猫の子一匹逃げ出せぬようにしたにもかかわらず、烏小僧の姿は何処にもなかったのだ。

路地裏だけではない、建物の中や防火桶の中や植え込みに至るまで探し回ったが、闇に消えるかのように姿を消したのだった。

おりょうは烏小僧が再び屋根の上に現れた時に備えてそのまま頑張っていたが、烏小僧が姿を現す事はなかった。

「確実に足に一撃を加えたんや、そう遠くには簡単には逃げられへん筈や。」

西町奉行所だけでなく待機していた東町奉行所の捕り方まで動員されて町中を夜通し探索したが、烏小僧を見つける事は出来なかった。

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