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第三十六話 黄昏時前

山間の人里離れた古い社の本殿に黒ずくめの人物が佇んでいた。

眼下には大坂の街が暮れかかかる空の下に広がっている。

やや右手にはうっすらと大坂城の櫓群があり、その左手に大阪の町家が広がっている。

暮れる陽の光を浴びる大坂の街を眺めていが、おもむろに手にしていた面を顔に付けた。

「そろそろ出立かな?」奥より野太い声がかかると、面を付けた人物は静かに頷いて

「この姿になる方が落ち着くようになりました。」

「仮初めの姿のはずがのう。因果な事よ。」

その言葉に烏の面が振り返った。

「私は後悔しておりません。では参りましょう。」

烏小僧の言葉に付き従う烏天狗達は

「エイッエイッオー!」と鬨の声を上げた。

その姿を見た烏小僧は片手を上げて応えると

「先行している者達の手筈は?」側に居た烏天狗に声をかけた

「既に持ち場に控えております。人は飛べませぬが、その分人の間に紛れる事は容易いですからな。」

「確かに。では我々は近くまで飛んだら姿を隠して目的の場所へ行きましょう。」

「御意。ところで今宵は西町の連中が何時になく構えているようですが?」

「心配には及びません。元々こちらから今宵の襲撃を告げたようなものですから。」

「確かに。それにしてもちと鼻薬を効かせすぎたのでは?」

「まあこの位耳目を集めておいた方が、作業がやりやすいでしょ?」

烏小僧の言葉に烏天狗達は納得して頷いた。

陽は更に沈み行き、黄昏時を迎え始めた頃合いに狼煙を上げた.天狗衆が出立する合図を潜んでいる人々に知らせたのだ。

「では参りましょうか。」

「くれぐれも無理せぬようにのう。ご武運を!」

烏小僧は振り返って声の主に軽く手を挙げて応えると、向き直り烏天狗達を促すようにそのまま手を振り下ろした。

合図を受けた烏天狗達は夕闇迫る大坂の街を目指して飛び去った。

烏天狗達を見届けた烏小僧が何か呪文様な言葉に口にすると、背中から漆黒の翼が現れてひと煽ぎすると烏天狗達の後を追うように飛び去っていった。

烏小僧の後ろ姿を見届けていた者の後ろから

「役の殿も心配性ですな。」

「何、僧正坊殿に比べれば大したことはござらぬよ。」

「確かに、かも知れません。何しろ大事な馴染みから預かった者故、身命を賭して守らねば天狗の矜持に関わりますからな。しかし役の殿こそ行きずりのようなもの、捨て置いても誰も責めますまい。」

「なになに、単なる気まぐれのようなもの、年寄りの気まぐれ故気に召されるな。」

僧正坊は笑みを浮かべて

「あの御仁どうも捨て置けなくてな。ここで手を差し伸べなければ、何か悪鬼に取り込まれるのではないかとすら思えてなりませぬ。」

役のも大きく頷いて。

「いかにも。故にここから動けぬ。事の成り行きがどうなるのか見届けねばならんし、もし、剣呑な事が起きた時に押さえる力を持つものが必要とは思わぬか?」

「ご配慮痛み入ります。」僧正坊は深々と頭を下げると、役のは手をふって応えた。

「まあとにかく、今宵も烏殿の無事なる帰還を祈りましょうぞ。」

そう言って二人は黄昏時を迎えた大坂の街を背に社の中へと消えていった。


黄昏時を迎えた時分に烏小僧達は大坂の街の外れ、大きな天井川の片岸へと降り立った。

「鴫野という所は、僅か川一本を隔てただけでかなりえらく鄙びていますな。」

烏天狗の一人がそう声をかけると

「もう少し城に近い所は荷の上げ下ろしで人気はあるけど、少し離れれば農村だからな。」

もう一人の烏天狗が答えた。

「あの納屋でしばし身を潜めましょう。」

烏小僧を先頭に納屋に入っていくと、そこには既に人の協力者が到着を待っていた。

「烏小僧様。狼煙を受けて皆配置についております。」

一見百姓風の男が、待ちわびたように烏小僧へ声をかけると

「ご苦労様です。では今宵の手筈を確認しましょう。」

烏小僧達は広げられた街の地図を囲んで密議を始めた。




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