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第三十五話 高揚

平戸屋の別邸を探索していたお冬は、内藤肥前守と平戸屋が共に別邸を去ったので、一旦経過を復命すべくお高の元へ戻った。

「お頭。ただいま戻りました。」

「お冬お帰り。無事だった?」

「して、首尾の方は?何か掴めたか?」

お高と共にお冬の帰還を待ちわびていた御前は、お冬の顔を見るやいなや様子を知りたがった。

「そうせっつかないで下さい御前。今から見た事を話しますので。」

御前の気を知ってか知らずかのんびりした口調のお冬は、平戸屋の別邸で見聞きした事を簡潔に語った。

あらましを聞いた御前は

「うーむ。どうもうつつの話しとは思えぬな。西洋とは奇っ怪な物に溢れておるのか?」

本当に起きようとしている事とは俄に信じがたい様子だった。

「さすがに西洋のすべてがそうとは思えませんが、平戸屋が良からぬ事を企み、手はずを整えつつある事だけは間違いないようですね。」

お高は隠密らしい見立てをしていた。

「で、平戸屋が別邸を出てからの足取りは追えたの?」

「はい。一度店の方に戻った後、駕籠に乗って天王寺方面へ向かいました。店に戻った折りに何か与力と揉めてたみたいですが。」

「与力と?何故かしら?」お高が問うと

「さあ、与力は表向き何か買い求める品定めを急いでいた平戸屋に無理矢理させていたみたいですが、別の目的があったのかもしれません。」

「なるほど、で天王寺は何処へ行ったか判ったかしら?」

「途中暗くなってきたのと、身を隠す場所も無くなったので、追い切れませんでしたが、おそらく寺の集まっている場所では無いかと。」

「そこまで判れば大丈夫ね。あとは・・・。」

「烏小僧が一枚噛んでいる可能性か?」御前が問うと

「はい。とは言っても仲間というよりは『(かたき)』と言った方が良い感じですが。」

「敵か・・・。なるほどのう。」

「もしかすると烏小僧は肥前守の事について、我々が知らない何かを掴んでいるのかも知れません。.あくまでも.推測ですが。」お高はそう言ってお冬へ視線を送るとお冬は心得たとばかりに頷くと

「とにかく今宵烏小僧が現れるというなら、私が探ってみます。が、あまり期待しないで下さいね。」

お冬はそう言い残すと二人の前から姿を消した。

「おお、さすが伊賀組。見事!」御前が愉快そうに声を上げた。

「では御前、私もお暇します。もう少し平戸屋の方も探ってみますね。お冬の方とも併せて何か判ればまたお知らせします。」

「お高頼んだぞ。肥前守の方は儂の方からも探りを入れてみる。」

「よろしくお願いいたします。ではこれで。」

お高は深々とお辞儀をすると優雅な仕草で御前の元を辞した。

「御前、お楽しそうですね。」

お高と入れ替わるようにおたえが部屋に入ってきた。

「そう見えるか?」

「はい、はしゃいでおられるように見えますよ。」

おたえは茶碗を片付けながら御前の姿を微笑ましく眺めていた。

「やはりか?とにかくわくわくしておる。さあ、忙しくなるぞ!!」

御前は嬉しそうに声を上げながら、拳を天に突き上げた。


御前の屋敷を辞したお高をお壱が待ち受けていた。

「お頭。西町奉行所は今回相当力を入れて烏小僧を迎え撃つようです。」

「肥前守が相当発破をかけたのかしらね。」

「おそらく。」短い言葉で肯定すると続けて

「今回は東町にも声をかけたようで、西町からの要請を受け次第出張るようです。」

お壱はお高にこれまで得た情報を手短に報告した。その中にはおりょうが西町の目明しの応援で行動を共にしている事も含まれていた。

「え、おりょうちゃんが西町の応援に入る?嘘!やだ、どうしよう?早速励まさないと。」

「お頭!落ち着いて下さい。おりょうさんも今はお忙しいはず?邪魔をすると嫌われますよ。」

お高は悲しげな目でお壱を見たが、睨まれてしまいしゅんとしてしまった。


浪速の町は徐々に暮れ始め、何か熱気のような空気をはらみながら黄昏時を迎えるのだった。







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