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第三十三話 分かれ道

おりょう達は今宵あるであろう捕物に向けて、道具の手入れに余念が無かった。

「捕り縄ヨシ!十手もしっかり磨いておかないと。」

「姉御えらい気合い入ってますな。」

定吉から声をかけられると

「当たり前やん。やっと烏小僧と正面から相対せるかもしれんからな。」

おりょうは何処かしらウキウキしているようだった。

そこへおりょう達の番所を訪ねる者が居た

「御免下さいまし。おりょうちゃんはいますか?」

「あれお志乃ちゃん!いらっしゃい!どうしたん?」

入り口にはいつもながら清楚な空気を帯びたお志乃が佇んでいた。

「おりょうちゃんこんにちわ!お忙しそうね?」

「忙しいけど、お志乃ちゃんのご用に比べたら大したことあらへんよ。」

おりょうが笑顔で応えながら、同じく今晩の準備をしていた鬼徹を振り返ると、鬼徹はニコリとして、大きく頷いた。

「鬼徹堪忍な。お志乃ちゃん甘味屋さん行こか?」

おりょうは当然のようにお志乃を誘って番屋を出た。

道すがらお志乃は

「おりょうちゃん御免ね、忙しかったのに。」

「ううん大丈夫や。もう大体の支度は終わったし。それよりお志乃ちゃんちょいご無沙汰やったけど、師範のお勤めは忙しいん?」

「それほどでも、って言いたいけどご贔屓が増えたからそれなりに忙しいかも。」

お志乃は笑って見せると、おりょうもつられるように笑顔になった。

甘味屋へ連れだった二人はいつものように奥の卓に陣取ると、四方山話に花を咲かせていた。

「そういえばおりょうちゃん、確か東町奉行所の目明しさんだよね?月番明日からなのにもう支度し始めてるの?」

「ちゃうよ。今夜烏小僧がまた出てきそうやから、その支度や。」

おりょうが笑顔で答えると、お志乃は怪訝な面持ちで

「おりょうちゃんて西町の人に変わったの?」

「まさか~うちは東町の人やで。」

おりょうは即座に否定したが、お志乃はまだ理解出来ないといった風なので、

「実は今夜は西町の親分さんの手伝いで捕物に加わるんよ。」

「そうなんだ。ちょっとびっくりしたけど・・・。」

「まあ明日からは大手を振って捕物はやれるんやけど、どうしても烏小僧と対峙しとうて。」

「おりょうちゃんはそんなに手柄が欲しいの?」

「そら手柄は欲しいけど、今回はちょっとちゃうような気がすんねん。旨い事言われへんけど・・・。」

お志乃はおりょうを真っ直ぐに見つめると

「おりょうちゃんは烏小僧を捕まえてどうしたいの?」

「どうしたい・・・んやろ?うち・・・。」おりょうは少し考て

「話してみたいんやと思う。何で市中を騒がせて居るんか。目的が知りたいねん。」

「お話すれば気が済むの?」お志乃はたたみ掛けるように問いかけてくる

「ようわからへん.その後どうしたいとか。でも、どういうんかな、なんか訳ありやろって事だけはうちにもわかる。その訳をうちは知りたい。その後の事はそんとき考えるわ。ってあかんかな?」

お志乃は一瞬だけ寂しげな表情を浮かべたが、それを隠すかのように少しはにかむと

「ううん。おりょうちゃんらしいよ。こっちこそ困らせて御免ね。」

少しの間気まずそうな沈黙が辺りを覆ったが、すぐさまお互いとりとめの無い話しをし始めてなんとなくその場は収まった。

「じゃあおりょうちゃん。頑張ってね。あ、でも無理はしないでね。怪我とかしたら許さないから!」

「お志乃ちゃんおおきに!怪我だけはせんようにして、うち頑張るわ!」

店の前で二人は手を振り合って別れた。

おりょうの後ろ姿をお志乃は振り返って見送った。

「おりょうちゃんごめんね・・・。」お志乃は寂しそうに呟くと、その後は振り返りもせずスタスタとおりょうとは反対の方向へ歩き始めた。

その表情からは何かしらの決意を帯びた、所謂不退転の決意すら見てて取れるような、常日頃のお志乃からは到底想像すら出来ないよな厳しい表情だった。

浪速の町を照らす陽は傾き始め、その影は徐々に長くなり始めていた。

夜の帳はもうそこまで近づいているのだった。


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