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第三十話 悪巧み

「あの娘は一体何者だったのだろう?拙者の背後を取るとは。気付いた時には本当に肝を冷やした。」

そう呟いていたのは高々と空に上がっていた烏天狗だった。

「これだけ上がっておればまずは気付かれまい。ここから遠見の術を用いれば、内藤肥前の向かう場所を見定めるのは造作も無い。」

烏天狗は何やら口の中で経文のようなものを唱えると、小手をかざして肥前守の乗る駕籠を目で追った。

「むっ?あれは・・・。」

見ると先程屋根裏で遭遇したくノ一が駕籠を追っているようで、上手く気配を殺しながら駕籠について行っているようだった。

「ほう。流石だな。拙者に気取られず間近まで寄ってくるだけはある。」

烏天狗は駕籠の行方を見定めると、

「ほほう。あの屋敷か。では拙者の役割はここまでじゃな。後はえんの殿にお任せするとしよう。」

烏天狗は狼煙のようなものを上げてどこかへ合図を送り

「さて、あのくノ一も上手く潜り込んだようだが。」

そう呟くと、踵を返して何処かへ飛び去った。


内藤肥前守の駕籠はとある屋敷までやってくると、人目を避けるようにの裏口へ回った。

「お殿様、お待ちしておりました。皆も集まっております。」

迎え入れたのは平戸屋の主人だった。平戸屋は何か手短に話すと

「うむ。」肥前守は静かに頷き平戸屋に続いて奥へと進んでいった

屋敷の外見は良くある商家の隠居所のような造りで、表の座敷はそれなりの広さがあり茶室なども備えられてはいたが、奥まった一角には隠し部屋のような場所があり、密談をするための場所となっている。

家の表向きの持ち主は平戸屋の妾と言う事にはなってるが、美人と評判がある平戸屋の妾の姿を見たものは居なかった。

通された部屋は蝋燭の火が辛うじて人影を映してはいるものの誰がいるのかは分からず、五~六名の気配を感じるだけだった。しかしながら、肥前守にその場に居る者が何者か分かっているらしく、何人がこの場に居るかを誰何すいかすることは無かった。

「で、平戸屋首尾の方は?」

「はい、用意は出来つつありますが、やはりその・・・。」

「何者かに奪われたあれか?」

「左様でございます。先日忍び込んだ賊の仕業ですが、何故目明かしを呼ぶような真似事をしたのか、皆目見当も付きません。」

平戸屋は先日自分の店に忍び込んだ賊の動きに戸惑いすら感じていた。

「まあ良い。それよりもまた長崎から取り寄せねばならぬのか?」

「それには及びません。あれは写し故代わりはご用意出来ます。ただ、」

「ただ何じゃ?」肥前守が訝しげに尋ねると

「所詮写しでは力を充分には発揮出来ぬようで。」

「それについては私が。」

周りが仕切られ、昼間とは思えぬほどの暗い部屋の奥から陰気な声が響いた。

「先生。殿様にも説明をお願いします。」平戸屋が促すと先生と呼ばれた人物は胸を反らして

「南蛮の妖術はなかなかに厄介なもので、術式が正しいだけでは十全の力を発揮出来ません。」

「十全の力をと申すか?」肥前守は興味深そうに聞き返した。

先生は得意げに

「ええ、この術式はあの獣の皮で作られた紙でなければいけないようなのです。」

「紙がか?たかが紙などどうとでもなりそうでは無いか?」肥前守は承諾しかねる表情を浮かべた

「実はその紙が肝でありまして、ただの紙では無く、獣の皮を紙にする際にも何か不思議な術を使っているのではないかと思われます。」

「で、その不思議な術とはどのようなものなのだ?」

「いえ、そこまでは残念ながら・・・。」

「何じゃ肝心な事は分からぬのか?」

「し、しかしながらあの紙であれば間違いなく十全の力を発揮出来ますぞ!」

先生と呼ばれた男は目一杯強がって見せた。肥前守は些か呆れ気味ではあったが

「何にせよ、あの南蛮渡りの紙を使いさえすれば目的が果せるのであればよい。」

「では、芯になる人形ひとがたがあるこちらへ紙も移しましょうか?」

「そうじゃな平戸屋。ここならばひとまず安心じゃな。」

「では早速手配を。」そう言って平戸屋は席を外した。

「甲三郎!腕の立つものを選って集めよ。」

「御意。」部屋の隅に居た浪人風の男が静かに応えると、素早い動きで部屋を後にしようとした。

その後ろ姿へ肥前守が重ねるように

「ここの警護を、なるべく目立たぬようにな。」

甲三郎は振り返ると静かに頭を下げ、再び踵を返した。







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