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第二十八話 本業は探索

月の晦日の日という以上に、烏小僧が現れるのではという事が町中の喧騒と高揚感を嫌でも高めていた。

陽がまだ上がり切っていない早朝から水場に集う長屋のおかみさん達や朝仕事に向かう職人、店を開ける準備をしている丁稚達の話題は烏小僧の事で持ち切りだった。


ー西町奉行所の月番最終日に烏小僧が現れる。ー


数日前から市中で広まり始めた噂であったが、いつ、どこから聞こえてきたかと言えばいささか謎であっり、当日の朝には知らぬ者が無いほど噂は広まっていた。

お高の店にも、貸本を背負ってお得意回りをしていた者から日を追うごとに、烏小僧絡みのあらゆる噂が耳に入り始めていた。

「幾ら何でもここまで広がるのはおかしいわね。」

「確かに。誰かが意図的に噂をバラ撒いてるとしか思えません。」

お高とお壱は噂の広がる早さにきな臭さを感じていた。

「とにかく、商売は二の次。噂の出所を総出で探しましょう。」

「承知しましたお頭。」

お高の言葉にお壱は隠密の顔になっていた。

隠密のお頭でもあるお高の号令一下、店の者達は聞き込みの為市中に散らばった。

常日頃から貸本の行商人として家々の戸口や勝手口に入り込み、水場でおかみさん達の話し相手にもなっているだけあって、情報収集に特化して動けば忽ち有用な情報がお高の元に集まった。

「ふむ。噂話を撒いて歩く行商人か。確かにありそうね。」

お高は配下の者達が聞き書きした紙束を眺めながら呟いた。

「雑魚場売りや青菜売りがもっぱらのようですが、読売の刷り物でバラ撒いてるのがそもそもの始まりのようです。」

お壱は自ら掴んだ話しとして刷り物を差し出した。

「なるほど、とはいえ皆が皆これを買うわけでは無いけど。」

「この刷り物を見たと称して噂話をして回れば。」

「噂はじわじわと。しかも確実に広がっていくっと。」

お高はお壱に刷り物を戻すと、近くにいた雑用の少女に声をかけ

「帳場にいるお冬を呼んでちょうだい。」

「はい!」少女は元気な返事を残すと店表へと駆け出した。

しばらくすると、表から少しけだるそうな表情をした若い娘がやって来た。

「お頭。何か用?」

「店に出ている時は女将って呼ぶようにっていつも言ってるでしょ?お冬。」

「そうでしたか?」お冬と呼ばれた若い娘は悪びれもせず答えた。

「まあ良いわ。それより、大坂城代屋敷へ月の集金に行ってくれない?」

「集金ですか?私じゃ無くてもいいのでは?」

「良くない。集金は口実。城代屋敷を探って欲しいの。」

「ああ、なるほど。それならば確かに私の出番。」お冬は納得した様子だった。

すると今度はお壱が疑問を呈してきた。

「烏天狗を追うのでは無く城代屋敷を探る理由は?根拠が希薄なようですが。」

「もちろん根拠はあるわよ。まず、西町奉行は大坂城代の甥であると言う事と、その西町の月番を狙ったかのような烏小僧の動き。何かあるとは思わない?」

「いささか強引な理屈ではありませんか?」

「そうかな?私の勘は怪しいとみているんだけど。」

お高は疑う余地すらないといった態度で答えると

「そうですか。理屈としては説得力はありませんが、お頭の勘は結構当たるので、納得はしていませんが承知しました。」

お壱は不承不承といった感じではあったが、お高に従う事にした。

「ではお冬。頼んだわよ。」

「承知!」お冬は消えるようにその場を立ち去ると、

「流石甲賀の出のくノ一ね。伝統の技を仕込まれただけはあるわ。」お高は感嘆の声を上げた。

お冬はいかにも商家の使いといった風体で大坂城代屋敷にたどり着くと、屋敷の周りをさりげなく見回して警戒の具合を見極めた。

「外から見る限りはそれほど警戒している様子は無いわね。」

お冬はそのまま常日頃の調子で商人達が出入りする門へと至り、門番に一言二言無駄口をたたくと奥へと通っていった。

「ごめんください!本屋です。集金にきました!」

お冬は屈託の無い声色で勝手口から呼びかけた。

見れば勝手口はいつになく使用人達が忙しげに立ち回っていて、戦場の様にすら思えるほどだった。

当然一度呼びかけたくらいでは気付いてすら貰えず、二度三度呼びかけてようやく

「あら、本屋さん来てたんや。ごめんやけどもう一寸だけ待ったってや。」女中の 応答があった。

お冬はぼんやりとしたふりをしてあちこちを観察していたが、使用人たちがいつも以上に忙し気に立ち回っている他は特に変わりがないようにも見える。

「じゃあ何でこんなに忙しくしているのかな?」お冬は探るべき事柄を頭の中で組み立てた。


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