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第二十四話 蒹葭堂

翌日、おりょうの番屋へお高がお壱を伴ってやって来た。

「おりょうちゃんごめんね!忙しくて来れなくって!!」

戸を開けるなりお高はそう叫んでおりょうに抱きつこうとすると

「わ、何すんの!」おりょうは間一髪お高を躱すと、お高はそのまま前につんのめって倒れ込んだ。

お高は身を起こしながら

「もーおりょうちゃんのて・れ・や・さ・ん。」

お高は笑顔を向けると、間髪入れず付き添ってきたお壱が

「女将さん。おりょうさんは本気で嫌がってますから止めてあげて下さい。」と言って突っ込んだ。

「お壱酷い。貴方は誰の味方?」

「誰の味方というか、女将さんがバカな事をして人様(主におりょうさん)に迷惑かけないよう監視しているだけです。」

スンとした表情でお壱は言い放った。二人のやり取りの前にどうすれば良いのかおりょうがまごついていると、お高は予測不可能な動きでおりょうに抱きついてきた。

「おりょうちゃん隙あり。」

「ひっ!」おりょうは怯えた表情で叫び声を上げたが、お高から耳元に

「蒹葭堂先生と会う機会ってそう無いと思うけどな?」と囁かれてしまうと、抵抗を止めるしか無かった。

「うんうん良い子良い子。」お高は満足そうにおりょうに抱きついてなで回していた。

しばらくそのままにしていたお壱だったが、頃合いを見てお高の頭を思い切り叩いた。

「いったーい。お壱何するの!邪魔しないでよ。」

お高はお壱を睨みつけるとお壱はすまし顔で、

「おりょうさんが迷惑しています。直ぐに頭をはたかなかっただけ有り難く思って下さい。」

「お壱さんおおきに。」おりょうは頭を下げると、お壱は手をひらひらして笑顔を向けた。

「この子ほんとーに腹立つわね。上方のお店を切り盛って無ければ暇を出してやるのに!」

お高は苦々しいと言った表情でお壱をにらんだが、

「大坂と都のお店ご自身で面倒見るのでしたらどうぞ。」それがどうしたとばかりにすまし顔で答える。

「あーほんと腹立つ。この有能め。」

「お高さんそれ褒めてるで。」

おりょうの突っ込みにお高は顔を赤らめた。

お壱は何も無かったかのように

「では、早速蒹葭堂先生のお宅へ参りましょう。道々おりょうさんには蒹葭堂先生のお宅へ伺う事になった経緯をご説明いたしますので。」

「ちょっとお壱勝手に話を進めないでよ!」

「女将の娯楽に付き合っていては話しが進みませんので。では参りましょう。」

そう言ってお壱は番屋を出ると、スタスタ歩き始めた。

「あ、お壱さん待ってえな!」

「お壱。私を無視するなんてどういう了見!」

2人は慌ててお壱の後を追うのだった。

「ホンマ相変わらず賑やかやで。それにしても嵐みたいやったな鬼徹。」

「確かに。」

残された定吉と鬼徹は、3人が去った後を呆然として見つめていた。


慌てて番屋を飛び出してきたおりょうは、道すがら急遽蒹葭堂に和える事になった訳を聞いていた。

「昨日蒹葭堂先生のとこ行きはったんや。」

「そうなの。その時は近々おりょうちゃんをお連れしますっていう話をして蒹葭堂先生のお宅をお暇したんだけど。」

「店に戻りましたら、追いかけて来るように蒹葭堂先生の所からお使いの方がお見えになって。」

「うんうん。」

「息を切らせながら『旦那様が是非見せたい物がお二方と入れ替わるように届いたので、是非お見せしたい。ついてはおりょうさんも誘って是非拙宅へお越し下さい。』って」

「おお、楽しみやわ。どんなもん見せてもらえるんやろ?」おりょうは興味津々という風で尋ねると

「蒹葭堂先生と言えば『貝殻』を集めた物がよく知られていますが、他にも珍しい物を沢山お持ちとか?わざわざ使いの方を寄せられるくらいですから、余程の物では無いでしょうか?」

答えたお壱も冷静を装いながら、やや興奮が隠せないようだった。

お高も楽しげに

「今ある物でも充分眼福なのに、わざわざ自慢するために呼びつけるなんて、蒹葭堂先生余程良い物を手に入れられたのね。本当に楽しみ!」声を弾ませていた。

おりょうはこれまで話しにだけは聞いていた憧れの人物に、会わせて貰えるというだけでも心が踊った。

「どんなお方なんやろう?」

ほどなく3人は「知の巨人」木村蒹葭堂の自宅へとたどり着いた。


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