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第二十三話 兆し

お高が蒹葭堂や御前の元を訪れていた頃、おりょうはと言えば銀三の元へ調べ歩いて判った事を知らせに行っていた。

「頂いた地図を元に烏小僧に入られたところに印をうってみたんやけど、正直これだけでは狙いは全く見えてけえへん。」

「確かに、明確な狙いが全くない感じやな。」銀三は顎を触りながら地図に目を落としていた。

おりょうは続けて

「しかも江戸の時と違うて全ての店が評判の悪い商人っちゅう訳ちゃうんです。」

「そら余計意味分からんな。江戸では専ら悪徳商人懲らしめてちゅうのがはっきりしてたからな。」

「そうなんです。烏小僧が大阪に現れてから八軒の店がやられたけど、少なくても最初に烏小僧が現れた泉州屋さんと三日前に襲われた錦屋さんはむしろ評判がええお店ですわ。」

「うーん。」銀三は難しい顔をして唸った。

「そこで、うち思ったんですけど。」おりょうは銀三を見据えると続けて

「江戸での動きは、『烏小僧』を目立たせるのが狙いやったんやないかと。」

「烏小僧を目立たせる?」

「ええ。『烏小僧』は目的を眩ませる為の存在や無いかと。」

「ちゅう事は本星はこっちか。」

「多分そうやと思いますけど。ただ」

「肝心の目的が見えへん。」

おりょうは静かに頷く。

「大坂での動きが真の狙いやっちゅうのは分かったところで、何しに来たんかが問題なんです。」

「何しに来た。か。烏小僧ってそもそもなんやろうな?」銀三が思案顔で呟いた。

「烏小僧が何なんかは判れへんけど、何狙ってるんかこの地図で見えてくるかも。」

「ほんまか?おりょうさん!」銀三は驚いておりょうの顔を見た。

「まあこれ見て。」そう言って広げていた地図に印を付けた場所を指さし始めた。

「一番最初に姿を現した泉州屋さんはここ。その後しばらくは悪名高い店に現れてたけど・・・」

銀三が身を乗り出して指さすところを目で追っていた。

「この錦屋さん。今までの所からかなり離れてて、烏小僧も何かを気にするちゅう風でも無く思い存分暴れ回ってた感じやったんちゃうかな?」

「そう言われたらそうやな。確かに好きに動いてた感じやったな。」銀三は大きく頷いた。

「やのに何にも取らずに逃げてった。もしかしたら他に手伝いが来るかどうか試したんやないかと。」

「つまり東町奉行所の面子が出張ってくるか試したと?」

「そうですわ。おそらく間違いない思います。」

おりょうは銀三の言葉を肯定して更に

「おそらく西町の当番最後の夜に奴は来ます。」

「なるほど。となると後は何処に現れるかやな。」

「それなんですけど、ここやないかっていうアテが無い訳や無いんです。」

おりょうはそう言って地図を再び覗き込んで指さした。

「なるほど。お奉行は聞く耳持たんかもしれんけど、声かけれる連中を集めて今度こそ捕まえたる。」

銀三はにやりとした表情をおりょうに見せた。

「ほんなら気張って。ええ知らせ待ってます。」

「おりょうさんおおきにな。大阪の意地烏小僧に見せたるわ。」

「銀三親分その意気です。うちも影ながら手伝えそうやったらこっそり力貸しますから。」

「そら、心強いわ。でもまあ色々あるやろから無理はせんといてな。」

おりょうは笑顔で手を振りながら銀三親分の元を辞した。

おりょうが表に出たところに、丁度定吉と鬼徹が現れた。

「なんや来てくれたんかいな。番屋出待ってくれたら良かったのに。」

「良い知らせがあったんで、いち早く姉御に知らせよ思うて。」

定吉の言葉に鬼徹も頷く。

「ええ知らせ?って。」おりょうは首をかしげた。

「実はさっきお高さんのとこから使いの子が来て。」

「え、お高さん?」おりょうは露骨に嫌そうな顔をみせる。

「そない嫌わんでも。まあ聞いて下さいよ!」

定吉の言葉に渋々といった感じでおりょうは耳を傾けた。

「ほら、前から姉御が会ってみたいって言うてた蒹葭堂先生?明日良かったら会わせたるって。」

「な、何それ?ホンマ?嘘やったら承知せえへんで!!」

おりょうは興奮して定吉の襟元を締め上げると定吉は苦しげに

「あ、姉御落ち着いて下さい。し死んでしまいます。」

「あ、ごめん。堪忍。つい興奮してしもたわ。でも、その話しホンマなん?」

定吉は咳き込みながら疑いの目を向けるおりょうへ

「嘘ちゃいます。明日昼前に迎えに行って言うてました。今日蒹葭堂先生に会うた時に話が出たそうで、

蒹葭堂先生から是非ちゅう事らしくて。」

「明日ってまた急やけど、善は急げ言うしな。」おりょうは満面の笑みを浮かべた。

番屋への帰り道。上機嫌のおりょうが二人にご馳走した事は言うまでも無い。




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