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第二十二話 商談

お壱に引き剥がされたお高はそのまま木村蒹葭堂の屋敷を訪れて本を納めた後、座敷でお茶をご馳走になっていた。

「美味しい茶ですね。煎茶ですか。抹茶とはまた風合いが違って飲みやすいですね。」

「お高さんに気に入って貰えて良かったですわ。こちらこそ、ええ本仰山ありがとうございます。先頃は上方よりも江戸の方がええ本が増えましたからな。」

蒹葭堂はそう言いながら菓子を勧めた。

「いえいえ、蒹葭堂先生の出版される御本は本当に良い本が多くて、江戸へ持ち帰ると喜ばれるんです。おかげで商売繁盛です。」

お高は勧められた菓子を小さく切って口に運びながらお茶を口に含む。

「それは良かった。また新しい本を開版するので、その時はまたお知らせしまっさ。」

お高は軽く頭を下げて微笑んだ。

「時に蒹葭堂先生に引き合わせたい人がいるのですが。」

「それはどなたで?」

「目明かしなのですが、最近名を馳せている。」

「それってもしかして、おりょうさんておなごの十手持ちのことですかな?」

「あれ、ご存じでしたか?」お高は少し驚いた様子だった。

「実は御前から、本が大層好きなおなごの目明かしがいて、一度本を見せてやって欲しいと。」

「なるほど。御前とおりょうさんは交流がありますから。是非私からもお願いします。面白い子ですし、興味深い話しが聞けると思いますよ。」

「それはそれは。では近いうちにお呼びしましょうか?」

「その時は私も一緒に伺いますので。よろしくお願いします。」

お高は深々と頭を下げると座を辞した。

蒹葭堂の家を後にしたお高は、お壱と共にその足で御前の家へと向かった。

いざ御前の家に着いてみると、些かご機嫌が斜めな御前に出迎えられた。

「お高あんまりではないか!」開口一番叱りつけてくる御前にお高は面食らった。

「御前、何を怒っておいでです?少々来訪は遅くなってしまいましたが。」

「何故儂が一番最後なのだ?儂も本を楽しみにしておるのに、酷いではないか。」

まるで子供の様な言い草にお高は吹き出しそうになった。

「御前。いい加減になさいませ。子供でもあるまいし。」

おたえがたしなめるように声をかけながらお茶を出していた。

「しかしだな。」「しかしも何もありません!お高さんごめんなさいね。」

「おたえさんかまいませんよ。実際後回しにしてしまったのだし。」

「ほら見ろ。お高も認めておるではないか。」勝ち誇る御前を今度はお高がたしなめるように

「御前。御前を後回しにしたのは単に本をを届けする表向きのことだけではなく、本業絡みのお話があったからです。」

お高の言葉に御前は真顔になりおたえに一瞥をくれると、おたえも心得たもので、縁側に出て襖を閉じると、襖を背に外を見張るように座り込んだ。

一連の様子を見て静かに頷いたお高は、懐から小さく折りたたんだ書状を差し出した。

「老中からの書状です。」御前は書状を受け取ると静かに目を通して

「烏小僧が上方に現れた理由と目的を探って欲しいっと?」

「はい。老中様は只の義賊を気取っているとは思えないと言う見解に立たれておいででした。」

お高は真っ直ぐ御前を見据えた。御前も頷くと続けて

「これはおりょうが申しておったのだが、烏小僧は明らかに『何か』の様子を窺いながら逃げ回っていたと。」

「『何か』をですか?」

「うむ。『何か』については判らなかったと申しておったが、とにかく時を稼いで居たのは間違いなかったそうだ。」

「なるほど。おりょうちゃんがそんなことを。これは一度じっくり話を聞かなくては!」

お高は語尾を思いっきり上げて満面の笑みを浮かべていた。

「お高。おりょうが怯えるからほどほどにしてやってくれ。」

「何をおっしゃいます御前!おりょうちゃんにはいつも優しく接していますよ。きっと照れてるんですよ。可愛い子です。」

それは絶対に違うと御前は心の中で叫びたい衝動に駆られてはいたが、言うだけ無駄なのは悟っているので、それ以上は何も言わなかった。

「あと、これは口頭で老中様から言付いたのですが。」

「老中から口頭で?」御前は怪訝な顔でお高を見た。

「はい。口頭でです。『大坂城代の動向には注意を払って欲しい』と。」

御前は得心したと言う表情で、

「あい分かった。少し探っておこう。」

「お願いいたします。では私はこれで。」

お高は深々と頭を下げると、お壱と共に御前宅を後にした。





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