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第二十一話 お高

おりょうはお志乃と手を振り合って別れた後、番屋へ戻って町中のあちこちを歩き回って集めた情報を整理し始めていると

「御免下さい!本屋です。おりょうちゃんいる?」玄関先から大きな声が響いた。

「待って下さい!今行きます。」おりょうはバタバタしながら入り口の三和土たたきに出てきた。

引き戸を開けると戸口には大きな背負子を背負った女性が立っていたので、おりょうがその姿を認めて声をかけようとした瞬間、

「おりょうちゃん!おひさー。会いたかった~。」叫ぶやいなやおりょうに抱きついてきた。

「お、お高さん。ま、待ってえな。」

おりょうは抵抗むなしくお高と呼ばれる女に揉みくちゃにされていた。

おりょうを抱きしめたお高は

「ほんと久し振り。おりょうちゃん抱きしめると大坂に来たなって実感がわくわね。」

「お高さん苦しい。」

「あらごめんなさい。嬉しさのあまりつい。」お高は笑顔でおりょうを解放した。

「く、苦しかった・・・。で、お高さんいつ大坂へ?」

「ほんの三日前よ。上方にはもう少し早く来てたんだけど、ちょっと都の店の方で用を済ませてたから。その分おりょうちゃんに会うのが遅くなって、ごめんね。さみしかったでしょ?」

「いや、うちそこまでじゃないから。」手を左右に振っておりょうは否定するが

「おりょうちゃんの意地悪。でもそこがまた良いのよね。」とお高はいつもの調子で返してくる。

些か呆れた口調でおりょうは

「それよりお高さん。うちに会いに来るだけでわざわざ大坂来たんとちゃうよね?」

「えっそうだけど?」予想通りの答えがそのまま返ってきておりょうは目が点なった。

「ああ、一応ついでに商いの用向きもあって、蒹葭堂先生の所に注文受けていた御本を届けたり、大坂のお店の様子を見たりはあるけどね。」

「それ、ついでなんや・・・。」

「当たり前じゃない。おりょうちゃんに会う用以外はみんなついでよ。」

あまりにも清々しく言い切るお高に、最早何を言っても無駄だと悟ったおりょうは

「蒹葭堂さんとこへどんな御本持っていくん?」商い方向に話しを変えようとした

「蒹葭堂先生は読書家だけあって、この背負子の中全部蒹葭堂先生の本なの。すごいでしょ?」

「それ全部?流石蒹葭堂さんやな。」

おりょうは思わず感嘆お声を上げつつ、内心上手く話題を変えられたとほくそ笑んでいたが、

「まあ、蒹葭堂先生は上客だけど、おりょうちゃんに会う方が大事だから。」そう言っておりょうの手を握ってきたので話題の転換は失敗したと思っていると、お高は改まった表情で

「あと、源蔵さんのお墓参りも大事な用かな。」

「お高さん・・・。」

二人の間にしんみりした空気が広がった。そんなまじめで湿っぽい空気を振り払うようにお高は

「おりょうちゃんのそんな表情もまた良いわね。」おりょうを茶化した。

「もー知らん!それよりお高さん、こんなところで油売ってて商いは大丈夫なん?」

「大丈夫。私の店には才覚ある子が多いからお任せでいいのよ。」

自慢げに話すお高の背後から突然声がかかった。

「おかみさーん!才覚あるからって全部任せないで下さい。」

「わー!お壱いつの間に!」

「いつの間にじゃありません。何処で油売ってるのかと思えば。おりょうさんにも迷惑でしょ?」

お壱と呼ばれた女性は、艶やかな着物をさらりと着こなし、いかにも快活な表情と立ち振る舞いが様になっている粋な雰囲気で、大坂の店をお高から任されていた。

「おりょうさんごめんね。うちのおかみがお勤めの邪魔をしてしまって。」

「お壱、人聞きの悪いことを。おりょうちゃんそんなことないよね?」

「お壱さんの言うとおりや!うちも暇ちゃうねんから、貸してくれる本無いんやったらサッサと去

んでちょうだい。」

「おりょうちゃん冷たい!こーんなに小さかった頃は『お姉ちゃん、お姉ちゃん』って纏わり付いてきてたのに。あの頃の素直なおりょうちゃんは何処行っちゃったの?お姉さん悲しい。」

そう言ってお高は、わざとらしく泣いてみせた。

「おかみさん。泣き真似は良いのでサッサと行きますよ。ではおりょうさんこれで。」

お壱は深々と頭を下げた。

「おりょうちゃんまたね!好いてるわよ!!」お高はお壱に引きずられるように連れて行かれるのだった。

「お高さん相変わらずやな。でも元気そうで良かった。今度来たときはもうちょいだけ優しくしようかな。」

おりょうは懐かしい人との再会を心密かに喜ぶのだった。



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