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第二話 女親分

 烏小僧が江戸より消えて三ヶ月後

上方大坂

活気に満ちる浪速の町には

江戸とは違う賑わいが溢れていた。

活気のある町とは何かと騒がしいものである。


「やい、盗人待ちやがれー!」

「ひっ!まだ追って来やがる。」


 人混みの中を掻き分けるように男が逃げ回っている。

「ヤバい奴に目え付けられてもうた。」

 そう呟きながら必死に逃げ回ろうとしている男を、的確に捉えて追う小柄な岡っ引きの姿は俊敏な猟犬のようでもある。

 岡っ引きは天水桶の上に軽やかに飛び乗ると、人混みの先を見渡した。

「はーん、あそこか。うちから逃げ切ろうなんて千年早いわ!」

天水桶を足場に軽業師のように屋根に飛び乗ると、男の逃げる方へ甍の上を駆けていった。

 先ほどの男は辺りを見回して岡っ引きの姿が見えなくなったので、人混みの中に身を潜めると。

「はっ、やっと巻いたか。しつこい奴やったけどあのちんちくりんではこの人混みに埋もれとんな。」

そうほくそ笑んで先に進もうとした矢先、鼻っ面に突然十手が現れると目から星が飛んだ。

「うぎゃっ」

不意を突かれた男は豪快にひっくり返った。

強烈な一撃を食らった男は、なんとか起き上がろうとしたが、目の前に突きつけられた十手の前に再びへたり込むしか無かった。

おびえきった目で顔を上げる男に向かって

「この盗人が!神妙にしいや!!」

「お、おなご?」

「おなごが岡っ引やっとったらあかんのか?兄ちゃん。」

 岡っ引きはにやりとして男を見下ろした。

 黒い髪を根元で結び、出で立ちこそ男そのものではあったが、胸元にしっかりと巻かれたさらしやすらりと伸びた手足には艶めかしさすら感じるが、全体的に見れば美少年と言った方がしっくりとくるようでもあり、やや切れ長な瞳に桜色をした唇などは、岡っ引きでなければなんとか小町と呼ばれてもおかしくない程ではあるが、当の本人には岡っ引きこそが天職だと感じているのだった。

「鬼徹お縄!」

 鬼徹と呼ばれた大柄な男がのっそりと現れると、

「お嬢、仰せの通りに。」

 そういって鬼徹と呼ばれた大男は、ぽかんとして放心する盗人にお構いもせず、荒縄でぐるぐる巻きにし始めた。

 盗人が簀巻きのような状態になったのを見届けると

 おりょうは大声で

「盗人召し捕ったり!」と雄叫びを上げた!

 すると周囲の野次馬から賞賛の声が上がる。

「いよっ!さすが浪華の女親分!」

「十手のおりょう姐さんは伊達や無い!!」

「姐さんカッコええで!」

 やんややんやの喝采におりょうは照れくさそうな表情を浮かべ、

「たいしたことあらへんって」頭をかいていた。


「流石だね、おりょうちゃん!」

「またあんた達?勘弁してよ。」

 賞賛の声と迷惑そうな声が同時におりょうへかけられた。

 おりょうが顔を向けると、

 やや離れたところから押っ取り刀と言う様子で同心が二人近づいてきた。

 一人は若い爽やかな雰囲気のイケメンで、もう一人はその上役らしく、中年に差し掛かった面持ちでやや疲れたような空気をまとった男だった。

「おっ、進之介いいところへ。」

「いいところへじゃありませんよ、全く。こんなにぐるぐる巻きにして。」

「これは三田様もお元気そうで。」おりょうがからかうように中年の同心へも声をかけた。

 三田と呼ばれた同心はブツブツ言いながら捕り縄で盗人を縛り直しながら、

「いっつもだけど、こんなにぐるぐる巻きにされると縛り直すのが大変なんだから。」

「流石のお手並みですね三田様。私も早くこの域に達したいです。」

「何のんきなこと言ってんの進之介?一日も早くおなりなさい!」

「は、はあそうです・・・ね。」即断のダメ出しにうろたえる進之介を半ば無視しながら、三田は盗人をきれいに縛り直した。

 「いつもながらきれいに縛り上げるよね。」

 ひたすら感嘆しているおりょうに向かって、三田はどや顔を向けた。

「伊達に罪人を縛り上げる流派の家元の家に生まれたわけじゃ無いわよ。さ、進之介行くわよ!」

 縛り上げた盗人を引っ立てて三田は去って行った。

「三田様!待ってくださいよ~。あ、おりょうちゃん、またね!」

 おりょうに愛想を振りまきながら、進之介は三田の後を追っていった。

「どっちが騒がしいんだか?」

 おりょうの一言に集まっていた連中も笑い声を上げた。


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