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第十九話 町探索

おりょうは昼餉を済ませると、銀三から貰った地図を手に一人で町中へ出て行った。

午後の町は昼餉前の喧噪とは裏腹にどこかのんびりした空気が漂い、連日烏小僧が現れて夜の町を騒がせているとは思えない程だった。

懐から貰った地図を取り出しては眺めつつ町を歩くと、

「あら、おりょう親分!どうしたんだい?」

とあちこちから声がかかるので、世間話がてら烏小僧の出た日のことを聞いてみるのだが、それほど有用な話を聞くことも無く、刷り物に毛の生えた話しを耳にする程度だった。

「まあしゃーないな。」おりょうは半ば達観したかのようにつぶやいた。

烏小僧が現れた場所を丹念に歩き回っていると、

「おりょうちゃーん!」

おりょうが声のする方に顔を向けると、そこにはお志乃が手を振っていた。

「お志乃ちゃん!どうしたん?」おりょうは驚いたと言う顔をして訪ねた。

「今、お作法を教えに行った帰りなの。おりょうちゃんこそどうしたの?」

「あ、ちょっとぶらぶらしてただけや。」

「ほんとに?」お志乃から疑いの目を向けられたおりょうは、何度もうなずいた。

「一応信じてあげる。」おりょうはほっとしながら、

「お志乃ちゃんこそお作法って?」

「うん。武家の行儀作法を、商家のおかみさんや娘さん達に教えているの。」

「へーそうなんや。でも何で?」おりょうは不思議だと言う顔を向ける。

「最近武家との取引が増えてるから、粗相の無いようにって言うこともあるけど。」

お志乃は頷きながら聞いているおりょうに続けて

「最近は娘さんを武家に奉公に出したり、武家に嫁いだりすることもあって、その時に困らないように武家の行儀作法を教わりたいって言う人が大店を中心に増えているの。」

「で、お武家でおばさんの実家が大名というお志乃ちゃんの出番ってことやな。」

「そういうこと。」お志乃は笑顔で答える。

「ところでお志乃ちゃんは、まだどっか行く用はある?」

お志乃は視線をあげて少し考えるような仕草をしたが、直ぐに答えて

「ううん。今日の指南はもう終わったから、帰ってゆっくりするくらいかな。」

「じゃあ今からあんみつ食べにいかへん?」

「あんみつ?どうしようかな?」

「えー。あかん?」

勿体ぶるお志乃におりょうは情けないような顔を向けて聞き返すと

「いいよ。久し振りにおりょうちゃんとゆっくりお話ししたいし。」

「もーお志乃ちゃんの意地悪。」

「ごめんごめん。」頰を膨らませるおりょうに、お志乃は舌を出した。

おりょうは気を取り直して

「昔よー行った甘味屋に行けへん?」

「甘み屋さんだったっけ?」

「そうそう、そこ。まだお店のお婆さん元気にしてはるで。」

「そうなんだ。懐かしいな。っていってもまだ五年だけど。」

「ううん。もう五年や。」

二人の間にしばしの沈黙が流れた。

道すがら、たわいのない昔話をしつつ道々にある棚店を冷やかしながらしばらく歩くと、二人が行きつけにしていた甘味屋「甘み屋」へたどり着いた。

「おばちゃん、こんにちわ!」おりょうが暖簾をあげながら元気に声をかけた。

「あら、親分さんいらっしゃい!」

「親分は照れくさいからおりょうでええでっていうてるやん。」

「そう?じゃあおりょう親分って呼ばせて貰うわ。」

「まあそれでええけど。それよりおばちゃん。お志乃ちゃん帰ってきてるんやで。」

そう言ってお志乃を店の中へ引っ張り入れた。

「わ、おりょうちゃん痛いよ。」お志乃は蹴躓きながら店に入ってきた。

店のおばさんは一瞬驚いたが、お志乃の顔を認めると

「あらーお志乃ちゃんやないの。驚いた。久し振りやん。元気にしてた?」

「は、はいお久しぶりです。」お志乃はぺこりと頭を下げた。

「綺麗になったな。昔も綺麗な子やったけど、どっちかいうたらかわいい感じやったんが、今はすっかり別嬪さんになって見違えるようやわ。」

「そんなことないですよ。昔のままですよ。」お志乃は照れながら否定したが

「おばちゃんの言うとおりや。お志乃ちゃんはホンマ綺麗になった。」

おりょうは力強くおばちゃんの言ったことを肯定した。

するとおばちゃんは

「そう言うおりょう親分も美人さんやで。男のなりしてるのが勿体ないくらいや。」

「え、おばちゃん何言うてんの?キモいこと言わんといてや。」

顔を真っ赤にして照れながら否定するおりょうを、お志乃とおばさんは笑いながら見ていた。

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