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第十六話 大坂西町奉行

連日の烏小僧の活躍の前に大坂西町奉行所は無力だった。

しかも、奉行所の目と鼻の先で好き放題されていたのでは、面目丸つぶれでもあった。

当然のことながら大坂西町奉行 内藤讃岐掾さぬきのじょうの機嫌は頗る悪いものだった。

とはいうものの、叔父である大坂城代の引き立てで町奉行になれた程度の人物なので、元より統率能力など期待するだけ無駄と言う力量で、とかく叔父の威光を笠に着て威張り散らすしか能の無い、人望の欠片も無い人物だった。

西町奉行最大の不幸はかような人物が奉行として頂いていることで、今朝も奉行所の者達を相手構わず怒鳴り散らしていた。

「一体与力共は何をやっていたのだ!どいつもこいつも役立たずが!!」

奉行の怒鳴り声にその場にいた記録方の面々は『またか』といった感じで辟易としていた。

また、昨夜出張っていた連中にいたっては、夜を徹して烏小僧を追いかけてきたのに、労いどころか罵声を浴びせられた挙げ句、未だ我が家に戻ることすら許されていなかった。

「自分は陣頭指揮はおろか、奉行所に詰めもせず、料亭で出入りの商人共の接待を受けて遊びほうけていたくせに、鬱陶しい限りだ。」

「そうだよな。なんで我々だけがこうも責められねばならんのだ?奉行が無能だから烏小僧に舐められるのではないのか?」

特に与力達は、日頃から奉行に謂われの無い叱責を受けていただけに、顔を合わせれば奉行への不平不満が口をつくのだった。

あからさまに不満顔の与力達などお構いなく西町奉行の罵声は続いていたが、

「お奉行、城代様より書状が届いております。」恭しく差し出された書状に一瞥をくれると

「叔父上から?身内としてか?」書状を差し出していた役人は首を横に振り

「大坂城代として。お奉行宛の公の文でございます。」

西町奉行は奪うように書状を受け取ると、勢いよく広げて目を走らせていた。

「城代様から公の文とはただ事では無さそうだな。」

「だな。また荒れ散らかされるぞ?」「おお怖。」

与力達がヒソヒソ話をする間、書状を読み進める奉行の顔色はみるみるうちに青くなり、震えだしていた。

一通り目を通し終わるとガックリと肩を落とし、無言のまま部屋に戻っていった。

「あれ?怒鳴り散らかすかと思ったのに?」

「意外だったな。まあ静かで良いが。」

「お奉行!お待ち下さい。」

落ち込んだ様子の奉行の後を追って、補佐役の役人も奉行の部屋へ向かっていった。

部屋に戻った奉行は脇息にもたれ掛かるようにして頭を抱えていた。

「どうすれば良いのじゃ?もうおしまいじゃ・・・。」

「お奉行どうなさいました?」心配げに覗き込んだ補佐役に奉行は黙って先程の書状を突きつけた。

「読んでもよろしいのですか?」奉行はこくりと頷いた。

補佐役は一礼して書状を受け取ると、静かに目を走らせ始めた。

「これはまた・・・。大層手厳しいですな?」

「大層手厳しい?それがその様に生やさしいものか?儂はもうおしまいだ。」

奉行は髷がゆがむほど強く頭を掻き毟った。

「お奉行、落ち着いて下さいませ。確かに厳しい内容ですが、まだ終わったわけではありません。気をしっかり持って下さいませ。」補佐役は訴えるように話しかけた。

「で、っでは何か良い策でもあるというのか?」

補佐役の襟元を掴み寄せ、すがるように奉行は問いかけた。

「名案は特には・・・。」

「なんじゃ無いのか。」奉行は心底がっかりした表情を浮かべた。

「ここはまず、東町に助勢を求めてはいかがでしょうか?」

「それはならん!」即答で補佐役の提案を却下した。

「何故でございますか?」「面子がたたん。東町に頭を下げるなど儂は嫌じゃ。」

「面子など気にされている場合ですか?大坂城代からの書状を拝見する限り悠長に構えては居られないはずですが?」

「そ、それはそうじゃが・・・。」

「名案はともかく、奉行所の上役、軽輩から岡っ引きなど集めて策を練ろうと存じます。」

補佐役の迫力に気をされて全てを任せる奉行だった。

「とにかく、よろしく頼むぞ。」

「はっ、お任せ下さい!」

補佐役は力強く答えると、与力達に集合をかけた。

しかしながら、いざ集まったところでそうそう名案が浮かぶわけも無く、まして奉行に反感を持つものも多いせいかこの機会に奉行が失脚すれば良いとさえ思う連中が大多数だった。

「分かってはいたにせよ、ここまでお奉行に人望が無かったとは。」

補佐役は頭を抱えた。

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