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第十五話 烏乱舞

お高が箱根を出発した頃、大坂では烏小僧が暴れ回っていた。

初めて大坂に姿を現した後は、一時は鳴りを潜めていたが、大坂西町奉行所の月番になった途端、待ちわびていたかのように烏小僧が再び姿を現したのだ。

西町月番初日の夜、淀屋橋界隈に現れた烏小僧は商家から銭袋を盗み出すと、後はお決まりの捕り方との鬼ごっこを始め、夜明け近くまで捕り方を翻弄した後は、あざ笑うかのように姿を消した。

烏小僧は翌々日も現れると、西町奉行所の鼻先で盗みを働くとそのまま東横堀川沿いに逃走。

更に次の日にも現れて北浜辺りの商家を襲撃して見せた。

「また逃げられたな。」捕り方の軽輩が烏小僧が逃げおおせた方角を見ながら呟いた。

別の軽輩の男は忌々しげに

「昨日来たばっかりやんけ、烏小僧何考えとんねん。」

「それはともかく、またお奉行はカンカンやぞ。」

「カンカン言うても、あの人何もしてへんやん。わめいてるだけや。」

「確かに。叔父の大坂城代の引き立てだけで奉行になったお人やからな。何も出来はらへん。」

「貴殿ら、何油を売っておるか!岡っ引きでもあるまいし、奉行所へ戻るぞ!!」

機嫌の悪そうな現場指揮の与力に急き立てられるように、刺股や袖絡みを手にした軽輩達は奉行所へ戻っていった。

「はっ俺ら岡っ引きがおらんかったら罪人一人見つけられへんくせによお言うわ。」

与力の台詞にその場に居合わせていた岡っ引き達は気を悪くしていた。

連日の烏天狗捕縛に駆り出されるだけで無く、探索のための聞き込みまでさせられて居るのだから、寝不足に疲労も相まって岡っ引き達の機嫌は悪くならざる得なかった。

「それにしても奉行は何で東町に助け求めへんねやろ。」

「そこや、どうせ変に気位だけ高いから、よー頭下げられへんのちゃうか。」

「奉行所の連中もふらふらやで?そのうち烏小僧追っかけてる最中にバタバタ倒れて逝きよるんちゃうか?」

「俺らもな。」岡っ引き達は大笑いして頷きあった。

大笑いする岡っ引きを横目に、別の真面目そうな男が

「親分どう思います?あいつらの冗談はともかく、このままやったらじり貧ですわ。」

親分と呼びかけられたのは年の頃五十過ぎ、中肉中背の男で、白髪の交じる頭に眼光鋭い目が特徴的な男だった。

「そうやな。与力の旦那には言うてんのやけど、奉行がな。」半ばあきれた様子で答えた。

「変な意地捨てへんとホンマ大変なことになりますで。」

「俺に言われても。まあ、もういっぺん頼んではみるけどな。」

「よお!銀三!景気の悪い面してどうした?」

銀三親分が声の方を振り返ると、そこには松蔵が立っていた。

「ほっといてくれ。それよりもそっちこそ、こんな朝っぱなからどうしてん?大方女房にでも逃げられたんやろ?」

「残念やな。女房は俺にベタ惚れや。」

「さよか、それはよかったな。用ないんやったらんでくれ。」

そういって銀三は犬でも追い払うような仕草で松蔵を追い払おうとした。

「冷たいやっちゃな。せっかくええこと教えたろうと思ったのに。」

「なんや、烏小僧の居場所でも教えてくれるんか?」

「なんでやねん。知ってたら自分で捕まえにいくわ。」

松蔵は銀三につっこみながら

「ええ助っ人紹介したるで?」

「ええ助っ人?」

「ああ、ええ助っ人や。同じ東町の岡っ引きやから表だっては手伝っては貰えんけど、とにかく勘働きのええ奴でな。」

「勘働きのええ奴か・・・。」銀三は少し考えたそぶりを見せたが

「ほなお願いしようか。他に手立てもないし、何より幼馴染みの悪童がどういう風の吹き回しか助けよう言うてくれんねんから、ここは素直に従っとくわ。」

「早!即決か?でもまあ素直でええ心掛けや。話しは通しといたるから。」

「それより、その勘働きのええ助っ人って誰や?」

「女十手のおりょうや。」

「おりょうって源蔵の娘か!親父の後継いだとは聞いていたけど。」

銀三はかなり驚いた様子だった。無論評判は銀三の耳にも届いてはいたが、それは『女だてらに十手持ちが大立ち回りをやった』という刷り物で書かれている程度のことだった。それだけに『勘働きがいい』と言う印象が無く意外でしか無かった。だが、

「つまりは源蔵の娘やちゅうことか。」銀三は納得したようだった。

「そう言うこっちゃ。」松蔵はにこやかに去って行った。

その後ろ姿に深々と頭を下げる銀三だった。




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