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第百六話 備え良し

鬼道丸の奮闘は、おりょう達に綸旨を淀へ届けるのに充分すぎるほどの刻を与えてくれた。

烏天狗に導かれた一行は淀の城下町の外れに降り立つと、すぐさま牛車を整えて威令を保って木戸番へ使いを遣った。

他の烏天狗達は三々五々山へ戻っていったが、烏小僧・・・いやお志乃はおりょうとの別れを惜しんで、すぐには飛び立てなかった。

それはおりょうにとっても同じだったようで、掴んでいた手を絡めた指を離せずにいた。

お互い一言も発しはしなかったが、互いの思いは通じ合っていた。

「そろそろ参りましょうか。」

出立を告げる舎人の声に促されるようにして二人は、名残惜しそうにしながら指を解いて別れた。

最初に口上を受けた木戸番は始め胡散臭そうに小屋から出てきたが、立派な牛車と威令をもって対する舎人達の姿を見て本物だと悟るや、腰も抜かさんばかりに自ら城門へと走って行った。

城門の方でも門番が、慌てふためく木戸番を叱りつけて追い返そうとしたが、木戸番が預かってきた書き付けを手渡すと、一読するや否や血相を欠いて宿直の侍の元へ駆け込んだ。

宿直は取るものも取りあえず到着次第使者を広間に通すように言い渡すと、国家老の元へ使者を走らせたのだった。

まだ明け切らぬ中、御殿では慌ただしく帝からの使者を迎え入れていた。

早々にたたき起された国家老は不機嫌ではあったが、

『帝の綸旨でも出たら協力してやる』言った手前もあり、

また、帝がわざわざ中納言を使わして綸旨を届けてきた。という事の重大さを鑑みても無視することは絶対に出来なかった。

大納言は威厳を保ちつつ、敢えて居丈高に振る舞って動こうとしない淀城方を叱責しつつ綸旨に則って速やかにおりょう達へ協力するように申し渡した。

平身低頭しつつ大納言の言葉に従うことを約束した国家老は、江戸へ急使をを立てると共に、藩士をすぐに参集させるように下知した。

「これで重い腰を上げるであろうな。」

大納言が満足そうにすると

「ほんまにありがとうございます。大納言様のおかげで思ったよりええ具合に行きそうです。」

おりょうも嬉しそうに礼を述べた。

淀の藩士は号令一下の元、直ちに堀を掘って土を盛り忽ち簡単な砦のようなものを作り上げて街道を塞ぐようにすると、城より大筒や火縄を持ち出して各々配置について剛霊武を迎え撃つ準備を整えた。

もっと早く動いてくれればとおりょうは思わずにはいられなかったが、それでも都に到達される前に迎え撃てることには安堵した。

「さて、奴さんは何時来るんやろうな?腕がなるわ。」

おりょうが腕を鳴らして待ち受けている頃


剛霊武の元へ駆けつけていた平戸屋達は、改めて変わり果てた剛霊武の姿に愕然としていた。

両の腕を失い、あちこち斬られた痕だらけ。しかも再生はされず胸からは核を傷つけられたのか刀の突き刺されたとおぼしき場所から黒い霧のようなものまで吹き出している有様に

「これは拙い。やはり核が傷つけられていたか・・・。」絶望した表情でいると

仲間の一人も不安を隠せない様子で

「どうしましょう。このままでは都に攻め込むどころか謀が頓挫してしまいます。」

「本当なら一旦退いて再召喚したいところだが、同士の多くはもう動き出しているから今更止めるわけにもいかぬ。」

黒い霧のようなもの吐き出し続ける剛霊武を再び動かすように呪文を唱えると、剛霊武は再び動き出しはしたのだが、様子がおかしかった。

突然大きな叫び声を上げたかと思うと、巨大化したのだ。

大きくなれば闘う力は増す分、歩く速さは大幅に落ちる。

それ故大きさを闘うに困らない程度まで抑えて、都に着く直前に大きくする予定であったのだが、ここに来ていきなり大きくなったのだから、平戸屋達は呆然とした。

「一体何が起きたのだ?」

平戸屋は慌てて呪文を唱え動きを抑えようとしたが、剛霊武は従わず腕を振り回して平戸屋達を追い払ったのだ。

「これは拙い。剛霊武が暴れて手が付けられなくなった・・・。」




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