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第百二話 対峙

それは昨日のこと。

夕闇せまる中、剛霊武(ゴーレム)に襲いかかったのは鬼道丸であった。

鬼徹の元に匿われて傷の養生をしていたはずではあったが、剛霊武出現の報を聞いて居ても立ってもいられなくなり、鬼徹に対して書置きを残すと、傷の癒えぬ体に鞭打ち、愛刀を手に飛び出していったのだ。

彼の中にある「強い者と闘いたい」という気持ちが彼を駆り立てたのだろう。

「より強い者」

呼び出された剛霊武は、圧倒的力の持つ強い存在(強い者)であると言うことは間違いない。

また、自身の怪我はまだ癒えてはおらず、今闘えば命を削ることになるだろう事も理解していた。

「我ながら業が深いのう・・・。」

剛霊武と相対しながら鬼道丸は呟くと、抜刀の構えを取った。

剛霊武は行く手を阻まれていったん止まりはしたが、間合いなど気にするそぶりも見せず、何事も無かったように鬼道丸へと向かってきたのだ。

「所詮木偶人形か。」

鬼道丸は少し気落ちはしたものの、強いと言う点において問題は無い。

気を取り直して集中を高めると、剛霊武が間合いに入るや否や閃光一線、刀を振るった。

剛霊武は腕を上げて防ぎはしたが、かなり深めの刀傷が付けられていた。

無論、感情もなければ痛みすら感じない人形ではあるが、行く手を阻まれた上に腕を傷つけられた事にとまどっているようなそぶりを見せて動きを止めたのだった。

「全くやりにくいのう、感情が無いって言うのは.。殺気も何も無いから打ち込んでも手応えはないし、いきり立って来るでも怯えるでも無いから攻めどころが分かり辛いのが難点じゃ。」

相手が動きを止めたことで、鬼道丸も動きを止めて剛霊武を観察したが、つけいる隙は無いようにも見えるし、隙だらけのようにも感じる。

「このまま動かずに時を稼いでやるのも良いが、儂としては・・・。」

鬼道丸は改めて刀を握り直すと、抜刀の構えを取るや否や間髪入れずに切り込んでいった。

先程よりも踏み込んで切り付けはしたものの、胴を捉えはしたが致命傷を与える事は出来なかった。

「洒落臭いのう。手がしびれるだけか。」

剛霊武の胴にはくっきりと刀傷は残ってはいるのだが、動きは鈍る様子は見せず、何事も無く再び動き出そうとしていた。

「こいつは切るって言うよりは・・・。」

鬼道丸は抜刀の構えは止めて刀を構えて大きく振りかぶると、殴るように足をめがけて刀を振り下ろしたのだ。

大きな音が辺りに響き渡り、刀が叩きつけられた部分に深いひびが入る。

思いの外深手だったのか、剛霊武は均衡を崩したのか片膝をつく。

その様子を見た鬼道丸はニヤリと笑った。

すぐ立ち上がりそうに無い剛霊武へめがけ、鬼道丸が息も尽かせぬ様子で連打した。

剛霊武は腕を振り回して刀を避けるようにしてはいたが、激しい打撃の前に為す術は無く、体中にひびが入り始め、一部は崩れ落ちるほどだった。

激しい打ち込みの前に、剛霊武は打たれるがままになっている様子からして、押し切れそうに思えた次の瞬間、剛霊武は目の色が変わると雄叫びを上げ、鬼道丸へ遅いかかってきたのだ。

鬼道丸は間合いを取るためいったん距離を置くと

「こう来なくっちゃな。」

嬉しそうな表情を浮かべて刀を握り直すと、再び打ちかかっていくのだった。

猛り狂う剛霊武の攻撃を上手く捌きながら鬼道丸は、痛恨の一打を浴びせる機会を窺っていたが

「これは思いの外てこずるな。なまじ木偶人形な分、動きが読めぬし何より疲れというものを知らんから呼吸すら乱れぬ・・・.厄介な事よ。」

手数こそ多いものの、なかなか決定的な一打を浴びせる機会を見出せなかった。

一方の剛霊武も操るものが間近にいれば、またやりようはあったかも知れないが、今可能なことは進むことと妨害を排除すること、そして破壊しようとするものに対し攻撃を加えることだけだった。

高く上がった陽が徐々に傾く中、対峙した者達の決着は(よう)として着きそうには無かった。

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