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第百話 京入り

与力の三田からの知らせを受け取った書肆は、お高達の本屋だった。

知らせを受けたお壱は

「今すぐ京の店のお頭に連絡を。鳩を使いましょう。」

鳩に文を付けて京へと飛び立たせた。

次いで店に侍るお庭番を二手に分け、一隊は大坂の町の警固に充てて、もう一隊は剛霊武(ゴーレム)の後を追うべく京街道を辿らせることにした。

「お壱殿、手筈通り致しましたが、後はいかが致しましょうか?」

「天命を待つとしましょう。きっとおりょう様がやってくれます。」

お壱はそう答えて帳場に戻ると、表向きの業務に勤しんだ。

一方知らせを受けた京では、お高を中心におりょう参内の準備に追われていた。

「おりょうちゃんいよいよ十手を使うのね。お姉さんがしっかり支えてあげるからね。」

「お頭。浮かれるのは構いませんが、火急の時だって分っておられますか?」

配下の一人に突っ込まれると

「あー分っているわよ。お壱みたいな口きくんじゃないわよ!」

お高はそう言って軽く睨みつけた

その頃淀から今日へ急いでいたおりょう達が、ようやく京に入った頃合いにお冬が合流してきた。

「おりょうさん待ってましたよ。」

お冬が相変わらず気の抜けたような口調で話しかけてきた。

「お冬さん!こっちに来てたんや?」

京に着いて若干心細い気持ちになっていたおりょうは、知った顔を見てホッとしたのか満面の笑みでお冬に応えた。

「おりょうさんおつかれさまです。これよりは私たちが御所へお連れ致します。」

そう言って丁寧にお辞儀をした。

「あ、ありがとう。けどそう畏まられるとうち照れくさいわ。」

「私もです!」

お冬は照れくさそうにするおりょうへ元気な返事を返した。

おりょうを引き連れたお冬は、取り急ぎ抑えていた宿屋へ立ち寄ると湯浴みするように言いつけた。

「曲がりなりにも帝に会うのですから身ぎれいにしないといけません。」

「え、けどうちそんな暇は・・・。」

おりょうは何かを言いかけていたが、有無を言わせずに身ぐるみを剥ぐと、風呂に押し込んだ。

おりょうを湯浴みさせている間に昇殿する際の衣装を用意したのだが、事前に衣装を用意する際にもお冬達の間でひと悶着あり、何を着せるかでかなり揉めたのだ。

当初は町娘の晴れ着でもという話だったが、おそらく似合わないという点については一致していたので、除外することに問題はなかった。

では何を着せるかで意見が割れて揉めに揉めたのだ。

昇殿するのだから宮中女官の格好で良いのでは?と言う意見にはお高が全力で反対。

曰く、「おりょうちゃんの持ち味が消える。」という言い分だった。

じゃあいっそ男装で良いだろう、元々男みたいな者だし裃でも着せておけば?と言う意見を出した者もいたが、お高がぶち切れたので不許可。

紆余曲折の末、お冬が

「大人しめの振り袖か小袖に袴をはけば良いのでは?」

と折衷案を出してきたのだが、他に案も無いと言うことで振り袖に袴という格好に落ち着いたのだった。

用意された衣装におりょうは最初着ることに難色を示したが、まんま男の格好か振り袖のどちらかよりはと諦めた様子で従った。

おりょうは髪を無理矢理まとめられ、着付けをされるなど本人がげんなりするほど散々いじり回された挙げ句、漸く準備が出来ると迎えに来た妙に立派な駕籠に押し込められるように乗り込むと、お冬に付き添われて御所へと向うのだった。

慣れない格好と、常日頃乗ることもない駕籠の中でいつになくおりょうは緊張していた。

今になって京までやって来て帝に会おうとすることに後悔していたが、今更引き返すことも出来ず、目の前の危機を解決するための我慢だと自身に言い聞かせて、気持ちを落ち着かせようとしていた。


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