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終末  作者: ED
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第一章『つまり塩辛いってことだな、うん。』



           一人称(B)




 家から学校までは直線距離にして1kmくらいある。だからまぁ、50m10秒のペースで走り続けたとして、どれくらいかかるだろうか。1kmはメートルに直すと1000mなわけで、それを50mで割ってやったら20になって、そんでもって……。

 うん、分かんねぇや☆

 さて、俺がなんでこんな計算をしていたかというと、実は今、非常に遅刻しそうなのだ。まだ家から出たところなのに、学校が始まるまであと5分。……無理じゃね?


 案の定無理だった。かなり頑張って走ったわけだが、全然間に合わなかった。


 「遅刻だぞー黒谷ー」


 「はいすいませんー」そんなこと分かってんだよクソ(心の声)


 さて、学校に到着して一息ついたところで、今日のスタメン(時間割)を紹介しよう。

 1時間目! ドゥルルルルルル、ドゥン! 国語!

 2時間目! ドゥルルルルルル、ドゥン! 理科!

 3時間目! ドゥ(中略)社会!

 以下、数学、体育、英語となっております。

 ……うーん、あんまだな、今日の時間割は。58点満点でいったら13点くらいだな(?)。


 ってことで1時間目!


 「やっぱさー、漢字とかの知識系はしゃあないけど、古文とかは解けといて欲しいじゃん?」


 教壇に立ち生徒に対して優しい口調でそう話しかけているのは、国語教師の神路先生(センター分け)。話が面白くノリが良いため、生徒からの人気も高い。


 「ちょー聞いてる? 黒谷君」


 「聞いてますよ」聞いてないです(心の声)


 授業時間は50分。1時間弱。やっぱ長いよなーなんて考えたり先生の話聞いてたりしたらいつの間にか時間はすぎていった。


 『キーンコーンカーンコーン』


 チャイムが鳴る。ちなみにこのチャイムはロンドン発祥らしい。以上どうでもいい豆知識でした。


 「きりーつ、れーい」


 「「「ありがとうございましたー」」」


 授業終了の詠唱を唱える一同。


 休み時間が始まった。10分だ、俺達に与えられた猶予は10分しかない。……短くね?


 「よっす黒谷〜」


 友人の中島が俺の背中を軽く殴ってそのままどっかへ行ってしまう。……男子中学生って何なんだろう? 何考えて行動してるんだろう? あぁそうか、何も考えてないのか(名推理)。


 「ふぁ〜眠〜」


 次に話しかけてきたのは高杉夢斗。黒縁の丸眼鏡をかけ、髪はきれいに横に流している。


 「いやー聞いてくれよ黒谷」


 「何だね」


 「今日宿題出さなきゃいけないじゃん?そんでさ──」


 その後も高杉は話を続けた。宿題が終わっていなかったこと。宿題を一夜漬けでやったはいいものの一睡もできず今すごく眠いこと。最近彼女ができたことなどだ。彼は時折、自分の前髪をいじりながらそれらを話していく。こうやって休み時間に友達と話してられるのもあとちょっとかもしれないと考えたら、寂寥感がこみ上げてくる。もっとも、彗星が降ってくる確率はかなり低いわけだが。


 「ホントに降ってくるのかねー」


 俺は小さく呟く。


 「なんかいったか?」


 高杉が首を傾げて尋ねてくる。


 「いやー、別に?」


 3年3組、33人。3~4人のグループをつくって今も談笑を繰り広げている彼らのなかに、彗星が降ってくると信じている人は一体いくらいるのだろう。

 多分、誰も信じてなどいない。

 教室の木の匂い。窓の隙間から吹き付ける少し冷たい風。揺れるカーテン。大体等間隔に並んだ机。所々まだ文字が消えていない黒板。

 それらがあとちょっとで跡形もなく消えてしまうなんて考えてる人は、一人もいない。無論、俺もそんなこと考えてないけど。


 ……ってちょっと待て!? 高杉さっき、彼女ができたとかいってなかったか!?


 「おっおま! 彼女!?」


 「……? そうだけど?」


 不思議そうな目で見つめてくる高杉。


 「だっ、誰?」


 「4組の西浦さん」


 「へっ、へっ、へぇ〜そうなんだ。まぁ別にお前に彼女できてもなんも思わないし素直におめでとうっていうか決して悔しいとか思ってるわけじゃないっていうか」


 「おっ、おう……」


 地球滅亡の危機などガン無視で、今日も騒がしい青春の日々が繰り広げられていく。



 『キーンコーンカーンコーン』


 4時間目。睡魔が限界に達したところでチャイムが鳴った。急に意識が覚醒する。


 「「「ありがとうございましたー」」」


 毎度のごとく詠唱完了、そして皆昼食の準備に取り掛かる。


 「トイレ行こーぜー」


 と俺を連れションに誘ってくるのは高杉ことリア充。


 「おーそうだないくかー」(棒)


 「何怒ってんの?」


 怪訝そうに聞くリア充。これでいて恐らく一切悪意がないのだから恐ろしい。


 「別になんもねーよ」


 教室のドアを開ける。途端冷たい外気に襲われる俺とリア充。「寒っ」と身震いする俺に対し、リア充は「そんな寒い?」と平気な様子。あぁそうかいてめーは彼女とアツアツだから寒くないのかい。

 トイレには数人が蔓延っていた。本来の目的で使っている奴は少なく、ほとんどは世間話の場みたいな感じでトイレを利用している。

 トイレは毎日掃除されているおかげか、かなり綺麗な状態を保っている。この鏡もピカピカに光り、俺の全体像をそこに体現させている。


 「顔はそんな悪くねーと思うんだがなー」


 負け惜しみの独り言。きっとこんなこと思ってるから彼女できねーんだろうな、俺は。



 弁当の時間だ。


 「お前は愛妻弁当かーよかったなー」


 リア充に向かってグチグチ言う俺。そんなことやってるから駄目なんだぞ、俺。根には持っても女にはモテないんだぞ、俺。


 「悪かったよ。お前も早く彼女できるといいな」


 高杉は何の気なしにそう返してくる。


 「世界が終わるまであと3日なんだろ。じゃあ早く彼女つくんなきゃやべーんじゃね?」


 そう言うのは中島。弁当の蓋がなかなか開けられなくて苦戦している最中である。


 「終わんねーだろ。この世界は」


 高杉が中島の弁当を取り上げ、蓋を開ける。返ってくる弁当を左手で受け取り、空いた右手を前に出し感謝の気持ちを示す中島。


 「終わったらやだよなー」


 「全くだ」


 エビフライ、卵焼き、ミニトマト。俺の弁当にはいい感じに普通の食材がギュウギュウに敷き詰められている。色合いなども考えられた実によくできた弁当だ。


 「うむ、おいしい」


 こんな良い弁当を作ってくれた母に感謝しつつ、俺は弁当を堪能する。


 「黒谷、エビフライくれよ」


 「100円」


 右手を受け皿の形にして、エビフライを要求してきた中島に差し出す。


 「金とんのかよ」


 「冗談だ」


 エビフライが入っている部分を中島から見て手前の位置に移動させる。

 中島が箸でエビフライを掴み、そのままむさぼる。


 「えんびフライうめー」


 国語の教科書で出てきた単語を活用してエビフライの美味しさを表現する中島。


 「ほい」


 「? なんだよ黒谷」


 「エビフライやったんだからお前もなんかよこせ」


 俺は中島に見返りを要求する。


 「何がいいんだよ?」


 「なんでもいいぞ、別に」


 「じゃあこれで」


 「……ブロッコリーじゃねぇか。まぁいいけど」


 濃縮されしブロッコリーをありがたく受け取る。


 「うーん、55点」


 「あぁそうかい」


 辛口評価する俺に対し塩対応する中島。つまり塩辛いってことだな、うん。




       ◆




 「で? 透子彼氏いるの?」


 「えぇ? いないよ?」


 クラスメイトの佐川さんと霧島さんがいきなり恋バナを始めた。俺これ聞いていいのか……?


 「じゃあ好きな人は……?」


 「……いるけど」


 これ聞いていいのか????


 「えー、誰?」


 とりあえず机に突っ伏して寝たふり。賢明な判断だ。


 「えーっとねー……」


 …………緊張の一瞬。


 「黒谷くん」(ボソッ)


 え…………………………………………!?




      地球滅亡まであと2日

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