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作者: おれっ!

私は炎の中で生まれた。


酒瓶を投げつけられ、周りの他人に母乳をもらい、当然のように暴力を振るわれ、私はその瞬間まで生きていなかった。


その人は、自分の子供や妻だけでなく、見ず知らずの通り人にまで悪態をついていた。


だからだろうか、いや、きっとそうなる運命だったのだろう。


私が居た馬小屋のような醜い場所は炎に包まれた。


すぐにくるはずの火消しも全く来ない。


通行人は見事に皆、日頃の罰だと思い、誰も助けようとしなかった。


ただ私は助かった。


その時の私は7歳で、生まれてきたことを自覚もしていなかった肉の塊だった。


だけど。


もう一度言う。


私は、炎の中で生まれたのだ。


なぜ、私だけが助かったのだろう。


なぜ、この放火の犯人が捕まらなかったのだろう。


なぜ、私はこの瞬間に生まれたと自覚できたのだろう。


いつまで考えても出ないその答えは、私が16の時に出会った本に書いてあった。


神。


遠く海の向こうの地では、神という存在がいると言う。


そこでは私のような貧しい暮らしを強要することもなく、人々は平等であり、罪を犯した人間は神によって救われると教えられていた。


私は救われたような気がした。


私の生まれは農民の娘で、ひどい父親に自分の子の責任も取れない母親がいて……


死にたいと願うことすら許されない、そんなことを考える猶予もないくらいの生活で……


ただ私は、年貢がきついだとか世間の身分制度がおかしいとか、そんなことはどうでもよくって。


救われるべき魂は救われる、罪を犯した人間はその報いを受けると言うことにひどく涙を流した。


その考えが私の探していた答えになった。


私は……


神様に救われたのだ。


私は真面目に誠実に、とは言えないけれど、それでも心に闇を移さなかった。


だから私は助かった。きっと神様がそれを見ていたから。


彼らは自分の正義に従い、悪を捌いた。


だから放火の犯人は捕まらなかった。私の父は悪だった、私は放火に感謝をしている。


私は……私が生まれたと自覚できたのは……


神様が、そう、気づかせてくれたから。


絶大な、感謝。


本には信じれば、神が救うと書かれてある。


でも、信じるだけで救ってくれるなんてことは思わない。


ただ、真面目に生きた人間が、悪態をついて暴力を振るった人間と同じような終わりを迎えるなんてこと、絶対にないと思う。


それを誰が決めるのだろうと、おもったときに。


私は神を信じる、宣教師になろうと思ったのだ。




私は私の考えをみんなに伝えた。


目の前で行われる悪事は日常的なものにしていいのか。


いつか天罰が降るだろうと放っといて、なんの罪もない子供を殺すのか。


私は奇跡的に助かっただけだ。神が助けてくれただけ。


みんながそうなるためには、みんなが自分の侵した罪に対して罪悪感を持たなければならない。


信じれば神様が助けてくれるわけじゃない。


何もしなくてもいつかきっと良くなるなんてことは、ありえない。


私はそれに気がつけた。


みんなも気がつくためには、救われるしかない。


だけどそんなことは不可能に近いと思う。


今苦痛に悩める人に、私の言葉は届かない。


だって私は、その苦痛を耐えて、真面目に、真面目に生きて、赦せるようになろうと言っている。


叛逆を起こそうとか、誰かが救ってくれるとか、そんなことは言えない。


ただ、絶対誰かがその行いを見ている。


見ているから、報われる日が来る。


真面目に生きるあなたを見ている、ひどいことを言いつける彼を見ている。


その、すべてを見ている人が神様なんだ。


でも、神様だけじゃない。


周りにいる人も見ている。


でも、なんだろう、これは独り言なんだけど。


他人の目があるって言われるより、神様がその行いを見ているって言われたほうが、なんだかやる気が出ない?


少なくとも私はそう。


だから私は神様を信じる!


そして、みんながそう思えば、きっといい方向に進んでいく。


制度を変えようとか、生き方を変えようとか、そう思うのは当人次第。


みんなの思想が変わった時、きっと時代が動くと思う。


だから、私の声に、耳を傾けてください!!





私の声はみんなに届いた。


ちっぽけな村だけど、みんなどこかで神様が見てくれていると思って、真摯に生きていた。


あの黄金の船がやってくるまでは。



醜悪で凄惨で極悪で賊心で下司で低劣で邪気で卑劣で無慈悲で冷酷で残忍で苛虐で酷烈で甚大で凶悪で無惨で暴虐で残虐で非道で非情で鬼畜で冷徹で無情で陰惨で壮絶で



悪魔。


にんげんじゃない。


温もりのない。


人間性に乏しい。


血も涙も無い。


見るに…………耐えない……


結局。


彼らは全てを奪って行った。


海賊だった。


それどころじゃ無い。


彼らはこの、私の生まれた土地を占拠し、拠点とし、住み着いた。


本当に酷いものだった。


人の気配に怯えて暮らし、食事も喉に通らない。お偉い様は遠くに逃げて、誰も私を守る人なんかいない。


だけど。


私は信じた。


あんなに悪を塗り固めた奴らがなんの罰も喰らわずに生きているのはおかしい。


結納間近の女を攫い、夫の前で犯し、廻し、皮を剥いで内臓を食い、夫と共に焼いて潰して、意味のない拷問の末捨てるように殺す。


死にそうな男を見つけ惑わし、その孫を自分の手で殺させ放置し、同じようなもの同士を互いに競わせ勝ったものを海に投げる。


何時間人間が腹を膨らませられるか、何時間人間が針を飲み込めるか。


毒、蟲、霧、酒、油、土、岩、肉。


炎。


必ず彼らには天罰が降る。そうでないと……あまりにも理不尽だ。


早くどこかへ行ってくれ、ここではないどこかへと願うことしかできなくなった我々は、彼らの奴隷のような状態にな

った。


私もまた、逃げていたが捕まった。


そして、彼らの長の目に触れた。


彼は…………


信奉者だったのだ。


神を信じ、愛するが故にその神に会いたいと願う異常者。


彼らは天罰を望んでいた。


私は同じ信奉者ということで赦された。


赦されてしまったから……この地に生きる人々に恨まれた。


やがて幕府が宗教を禁じ、私の教えも弾圧され始めた。


船の彼らはずっと浜にいるわけではない。


彼らのいない間に私は……


住民に追いやられ、怒りと恨みと理不尽を叩きつけられた。


だから……


私は、私の信じてきたものと共に、洞窟の奥の奥で死んだ。


信じた本を燃やし、残そうと思った資料を燃やし、そして自らも炎へと向かった。


私は……


炎で生まれ、炎で死んだ。


燃えて燃えて。


何が残る?


なんだこの人生は。


あんな邪智暴虐を尽くす彼らが生き延びて、善良で皆のために生き方を教えた私が死ぬのか?


神よ。


ああ神よ!!!!!!!!!


誰が裁くんだ!!!!!


生きていても悪しか生まない彼らを!!


善良で真面目に生き、皆を導いた魂を!


なぜこのような形で終わらせるのだ!!!


神は……いないのか……?


ならばなぜ!!!私は生き残ったのだ!!!


「私が生まれた意味は…………」



燃えて燃えて。

燃え尽きた後に残ったものは。

炎という名の怨念だった。

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