聖なる夜に私は恋をした
私は夢を見ていた……。それはそれはなつかしく、せつなく、とても悲しくて苦しくて、そして楽しく、幸せだった思い出。
「おーい、聖夜。おーきーろー。もう放課後だよ。」
「んあ。」
聖夜は私に起こされ、やっと目を覚ました。
「よう、美咲。おはよう。」
と、無表情で言う。
「うん、おはよう……って、もうこんばんはの時間なんだけどね~。」
と、私はその言葉に笑顔で返す。学校はすでに終わり、もう放課後の時間だ。
「細かい事は気にしない、気にしない。迎えに来たんだろ。じゃあ、帰るか。」
と、聖夜は鞄を手に取りスタスタと歩きだす。
「ちょっと、まってよー。」
私は慌てて聖夜の後を追う。
―――――なんてことない日常。いつもと同じ毎日。ずっとこんな毎日が続くと思っていた。ずっと、ささいだけど平和で幸せな毎日が続くと私は思っていた―――――
「まってー。聖夜ー。」
私はさっさと行ってしまう聖夜を追いかけていた。すると聖夜は校門の所で私を待ってくれていた。
「遅いよ。」
美咲の幼馴染であり、彼氏である聖夜は相変わらずぶっきらぼうだ。
聖夜の言葉に私は「ぷう。」と頬をふくらませる。
「聖夜が速いの。私は普通なの。」
と、私はぷいっとそっぽをむく。
「ハハハ。わかった、わかった。そんなに頬をふくらましていると、ほっぺがでかくなるぞ。」
聖夜は美咲を茶化す。その姿に私はますますムカついてきて聖夜を睨みつけると、聖夜はフッっと微笑んだ。
「ほらっ。」
と、聖夜は美咲に手をさしのべる。
「手、つないでたら離れないで歩けるだろ。」
と、普段は無愛想な男は優しく微笑んでいた。聖夜のその姿に私は「うっ。」っとなる。私は聖夜のこの微笑みや笑顔に弱いのだ。そして、その不器用ながらも優しい所が……、私はとっても大好きだった。
「しょうがないなぁ。」
と、私は聖夜の手をとり、2人はゆっくりと歩きはじめた。
なんてことない、いつも通りの日常がここにはあった。
「そういえば、後一週間で聖夜の誕生日だねっ。」
一週間後はクリスマスイブ。それが聖夜の誕生日だ。聖なる夜に生まれたから聖夜という名前がつけられた。
「今年もおじさん達と一緒にみんなでわいわいお祝いだね!」
と、私は一週間後が楽しみでニコニコだった。聖夜の両親と私の両親は仲がとても良く、クリスマスイブは一緒に2家族でお祝いをするのが恒例になっている。
「あー……。親父たち今年こそはよっぱらいにならないといいな……。」
と、いささか遠い目をする聖夜。
「フフフ。もうあきらめなよ。からまれるのは聖夜のさだめだよ。」
ころころと美咲は笑う。その姿に聖夜はため息をつく。
「そうだな……。」
―――――平和な日常。疑ってなかった未来。2人はずっとこれからも一緒。そう思っていた―――――
クリスマスイブの夜……。
「ガハッッ。」
ゆっくりと倒れていく聖夜。私はわけも分からずその光景を見ていた。
「聖夜っっ。」
「聖夜君っっ。」
私たちは例年通り、聖夜の家でパーティーをしていた。その途中にいきなり聖夜は吐血をし、倒れたのだった。
病院に運ばれた聖夜は検査を受けた。検査結果は大腸がん。もうがんは全身に転移しており、手遅れな状態だった。
私は毎日病院に、聖夜の元へ通った。ずっとそばにいた。一瞬の時間を惜しむほどに……。それほどまでに聖夜に残された時間は少なかったのだ。
「ごめんな。」
「どうしたの?急に?」
いきなり謝りだす聖夜に私は首をかしげる。
「約束、守れなくて……。」
「約束?」
「ほら、ちっさいころにやっただろ。」
そう言われて私の脳裏に昔の光景が浮かび上がる。
「僕たちずっと一緒だよ。」
「うん!。美咲と聖夜君はずっと一緒。」
「約束だよ!」
「うん!約束!」
そう言って、幼い美咲と聖夜はゆびきりをする。
「………。バカッ。」
私の頬に涙がこぼれる。
すると聖夜は困ったような表情になった。
「美咲……。泣かないでくれ。俺はお前の涙は苦手なんだ。美咲にはずっと笑っていてほしい。」
「だったら、聖夜が止めてよ。病気治して、約束守ってよ。」
「だから、守れなくてごめんって言っただろ。」
「知らないっ。そんなの聞いてない!!」
「美咲。」
「聖夜はずっと一緒にいるの!私と一緒に、ずっと一緒にいるの!!」
ヒステリックになりかけた私に聖夜は動いた。気づくと私と聖夜の唇は重なっていた。
聖夜は唇を私から離すと、
「落ち着いた??」
と、微笑んだ。
「………。もう、なんなのよー……。」
さらに涙がこぼれ落ちる私を聖夜は抱きしめた。
「美咲、聞いて。約束を守れなくなったことは謝る。でも、俺がいなくなってもずっと美咲には笑っていてほしいんだ。俺、美咲の笑顔が大好きだから……。」
私はばっと顔を上げた。
「だったら、ずっとそばに、一緒にいてよ!!聖夜がいないと私は笑っていられないよ!!」
私が言うと聖夜はまた困った顔をして、
「ごめん。」
そう言うのだった。
それから一カ月後、聖夜は17歳という若さでこの世を去った。
なつかしくて、苦しくて、悲しくて、幸せな記憶。
夢から覚めて私はこう思うんだ。
―――――君はもういないんだね―――――
ここまで読んでくださってありがとうございます。
初の短編小説に挑戦してみました。
この小説は連載にしようか、短編にしようか、非常に迷った作品です……。
もし、連載してほしいってお声があったら連載してみようかな……。って思ってみたり……。いや、本気ですよ!
短遍にまとめるのは非常に難しく、いささか挫折しそうになりましたが何とか形にできてほっとしています。
もし、ご意見、ご感想がありましたらご気軽にどうぞ!!
ご要望がありましたので、この作品を連載してみようかと思います!!
予定は12月頃です。お楽しみにしていてください! 11月21日