きっかけになった缶コーヒー
※『第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞』参加作品です。
「コーヒーなんて苦いだけだろ?」
「そんなこと無いよ」
幼馴染で想い人の美咲と学校からの帰り道で、そんな会話をしながら歩く。寒くなり始めた夕方の空気を切る様に歩いて行く俺に合わせて隣をちょこちょこ付いてくる。
「浩司も飲んだ事は有るんでしょ?」
「そりゃあるけどさ……嫌いなんだよあの苦さが」
咄嗟に口を突いて出た嘘。本当は苦手意識があって飲んだ事もない。
学校と二人の家の途中には、俺と美咲が小さい頃からの遊び場だった公園がある。そんな公園の横を通り過ぎようとした時、美咲が俺の前に体を入れて立ち止まり聞いてきた。
「ねぇ……浩司、時間ある?」
今では俺の方が頭一つ分程度身長が大きくなっているので、美咲は俺を見上げるような格好になる。
「あるけど……何かあるのか?」
「ちょっと寄って行かない?」
俺の答えを聞くまでもなく、腕を引っ張りながらその公園の中へと歩き始める美咲。小さい頃から、美咲は突拍子もない事をする時が有る。その度にフォローに回るのは俺の役割だった。ただ……中学校に入る頃から、美咲はどんどん俺以外の人とも行動することが増えて、俺がいつも一緒にいるという事も減って行ったのだけど。
――だから、一緒の高校に行くと言われた時は嬉しかったな……。そういえば、その時もこの公園だった。
美咲に連れられてたどり着いたのは、公園にある唯一の小さな四阿。備え付けのベンチに俺が腰を下ろすと「待ってて」と俺に声を掛け、近くにある自販機へと歩いて行く美咲。
数分で戻ってきた美咲の手には缶コーヒーが1本握られている。俺の隣に来てベンチに座ると、プシュッと音をたて缶コーヒーを開いた。そしてそのままゴクッと一口飲むと、「はい」と俺に手渡してくる。
「飲んで……」
「なんで?」
「いいから飲んで……」
「……」
手渡された缶コーヒーを、覚悟を決めて一口だけ口にした。その様子を見ていた美咲がニコッと笑顔を見せる。
「浩司……あなたがずっと好きだったの。わたしと付き合って」
突然の美咲からの告白。口に入れたコーヒーをそのまま呑み込んだ。
「さっきみたいな嘘はいらないから、本当の気持ちを教えて……。今、間接キスもしちゃったし……」
「か、間接キス!?」
「ねぇ……それよりも答えてくれない?」
笑顔で迫る美咲の顔を見つめる俺。
「……俺の気持ちは――」
コーヒーが飲めるようになった今日。
俺と美咲の苦くて甘い記念日になった――。
お読み頂いた皆様に感謝を!!
公式企画に作品を出すのが初めてなので、皆様からの反応がドキドキです。
上手く表現できているといいのですが……。