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13K‐ULA血統


 病院での検査結果はその場で公表されず、他の生徒も経過観察に近くのホテルや旅館に分散されて一夜を過ごし、家によっては子供の心配に親が駆けつけたりと、病院からの連絡に学校側も対応に追われていた。


 心配をしてる風だった先生達の電話のやり取りは、漏れ聞こえていたのは宿泊料金の事ばかり。




 翌日、生徒全員が軽い検査を受けた後、バスは別の予約があるからと既に無く、例の牧場の町の人達が総出で駅までの送迎をしにそれぞれの車でやって来た。



 私は、偶然にもあの牧場主の車の助手席に乗っていた。


 それこそ荷馬車とも言える中型トラックに揺られ、詰めればもう一人は乗れただろう微妙な広さのシートに荷物を置いて。


 小さな後ろを見る窓から荷台を覗くが、降ろすのも面倒だった様な普段から積んだままの何か程度でよく分からない。


 気まずさからそわそわしていたのに気付いたのか、牧場主が口を開く。




「大変だったなぁ。食中毒だってな、申し訳ない。」


「いえ、食中毒ならいいんです……あ」



 私は本音を漏らした事に数秒の後に気が付いて、取り繕うか押し進めるかに後者を選ぶ。


 聞けるチャンスは今しかないのだから当然の事。




「あの、一つ確認したい事があるんです。最初の日にウチのバカな生徒が言った事に怒ってた、歌の事なんですけど……」


「……あああぁぁ、嬢ちゃんが気付いた生徒か?」



 私は一瞬嫌なものを感じ、警戒感から置いていた荷物を運転席との間へと置き換えた。



「大丈夫だ! 取って食いやしねえ!」



 そう言って車を脇へと寄せた。


 車を駐めると牧場主は右手の拳を顔の口や眉間やに充て何かを考え悩んでいた。


 まるで殺すか否かを悩んでいるようにも見えるその姿に、警戒しながら私はドアの鍵が開いてるうちに出るか否かに悩んでいた。




「嬢ちゃん! これはぁ……いずれバレるかも知れねえし、変に隠しても嬢ちゃんみてぇな子は居る。ちっ、嬢ちゃん、あんたの為だ。今から話す事は言っても良い。けど、調べるな! 詮索するのはやめろ! 解るか?」



 全く以って解る筈もない台詞に、ソレが危険な事なのだけは判る。


 けれど堂々、分からない! 等と応えられる状況でもない。


 私は選択をせずに視線を返した。



「そりゃそうだ、解かんねえわな! でもな、とりあえず今から言う事は本当の事なんだ。でも、勝手に調べたら……殺されるかもしれねえんだわ。だから、調べないで済むように教えてやる! コレを調べようとする友達がいたらアンタから教えてやれ! いいな?」



 頭の整理が追いつかない回りくどい言い回しに、何となくの疑問符を付けながら自分の目が何処を向いているのかも分からないままに鈍く頷こうとする私の姿にも納得なのか、牧場主がうんうん頷き話し始めた。




「13K‐ULA血統、これが原因の牛の個体を知る答えだ。」



 ポカンとする私に説明の足りなさに気付く牧場主。



「うちに今いる牛の一つ前の世代の牛に、その個体が入ったんだ。妙に安いから気はなってたんだが、どっかの組織が実験に使った個体を処分に困ったのか、惜しんだか。いや、わざとかもしれん……」



 そこは牧場主も解っていないと判る悩ましい顔を浮かべて考えている。


 私は何の実験に使われた牛なのかばかりが気がかりに、皆には隠していたオカルト好きの知識に何かないかと当て嵌めようと読んだ記事や雑誌を思い出していた。




「5年前だ。初めてあの症状が出たのは……

 でも、そん時は1人だったし食ってスグに出たからあまり問題にはならんかったんだ。」


「胃が動くアレですか?」


「そおだ。それ以来無かったのに去年同じ症状が立て続けに3件起きた。だから俺は今回辞めようって言ったんだ!

 でも、町の偉いさんが……まあソレは嬢ちゃんに話してもしょうがねえんだがな」


「3件も起きたのに営業停止にならないんですか?」


「ああ、3件いずれも帰宅数日後の発症で、うちにも確認程度で掛かってきたから素直に答えたんだが、どっかの県議が握り潰したみてえでな……申し訳ない!」



 私の脳裏に浮かぶ一つの疑問。



「あの、どうして貴方はそれだけで食中毒じゃないと思ってたんですか?」



 気付かれた事に驚いているのか私を舐めるように見る牧場主。




「やっぱ、嬢ちゃん危険だな!

 いいか、13K‐ULA血統ってのは、米国の諜報機関がやってた洗脳実験の類で、それをどっかの馬鹿組織が真似て動物に試した何からしいんだわ。

 俺は最初の食中毒の時に食堂の従業員から見たって聞いたんだ。肉が動いてたって話をな!

 何に反応したのかまではそん時は判らんかったが、スグに13K‐ULA血統を疑った。

 けど、売った業者はもう無くてな、それからずっと調べてたんだ。13K‐ULA血統の肉を……

 で、嬢ちゃん達が来る3日前だ。

 うちの牧場に来てたお客さんの子供がアレを歌ってたんだよ」


「ドナドナ?」


「そおだ。たまたま俺が13K‐ULA血統の肉を調べようと冷蔵庫から出していた時、あの子が歌った歌に呼応するように動き出した肉を見て俺はビックリしたんだ!」


「それは、そうでしょうね」


「そうじゃねえ! 俺は調べる為に毎日13K‐ULA血統の肉を食べてたんだ。だから俺は咄嗟に自分の胃を確認したよ! でも俺の腹にある13K‐ULA血統の肉は無反応だった。

 目の前の肉は動き回ってるのにだ。だから俺は消化すれば問題ないかと考えたんだが、そうすると」


「そっか、去年の3件!」


「そお、帰宅数日後に発症してるんだから、腹にあったとしても消化されてる筈なんだ。

 だから俺は仮説を立てた。

 腹に入ればアレを歌う本人だけが発症するんじゃないかってな!

 で、それを立証しようとなればやれる事は一つだけ!

 なのに、俺は怖くて出来なかった……

 その上、あろうことか悩んでいる間に13K‐ULA血統の肉が食堂に卸されてたのを見逃してたんだ。

 見送ってからそれを知って、スグに嬢ちゃん達の連絡を聞いて俺は死のうかと思ったんだ。

 でも、立証も出来ない俺にはそれも出来ないってスグに解ったよ。

 だから13K‐ULA血統を調べて組織に襲われる方を選ぶ事にしたんだが、あの病院に来てたどっかの偉い議員だか役人だかが、ペロリだよ……

 テメーの素性は隠して、多分これは組織的にやってた動物実験だろうって、呆気無くな。

 で、『食中毒って事にして後は他言無用で私達に任せて下さい』ってな。」


「だったら、何で私に?」




 またも私を舐めるように見る牧場主。



「俺が5年もかかってやっと見付けた答えを、嬢ちゃんその場でバスの中で解いたんだろ?」


「まぁ発症してたのがアレを歌ってた連中だし、カウベルの音色が妙に頭に響いた気がしてで、偶然が重なっただけですけど……」



 うんうん頷き自分の中の何かを納得させるような素振りを見せた牧場主が、息を吸い込み気合を入れる。




「調べて当てたとなったら嬢ちゃん、消されんぞ!」



 驚く私を諭すようにため息を吐く牧場主。


 その意味を何かの雑誌で見た記憶を思い出した。



「シーEYEエア? え、嘘、マジ?」



 ついソレを読んでる時の素が出てしまって慌てて隠そうとする私に、ようやく本性を見た気に笑う牧場主が拍手をして来た。



「流石だよ、多分その類の連中の技術、いや実験か。おそらく何かの暗号に反応する事で動く肉を使って誰かを殺そうとしてたんだろうな」


「中学生を無差別に?」


「いや、これは想定外なんだと思う! ターゲットは海外の要人が集まるレセプションなんかさ。サミットとかでの豪華なディナーや何かで」


「ああぁ」


「でだ、そう考えたら起因となる暗号があの歌やカウベルってのは具合が悪いと思わないか?」




 急に振られた問いかけに、少し時間をかけて考えてみる。


 想像の例えに前に日本でやったG7サミットだったか安室ちゃんの歌しか覚えていない記憶が悩ましい……


 けれど豪華な食事をしてはいても確か周りを海とSPに囲まれた陸の孤島のような場所。


 肉が悪さをするとはいえ起因に歌うにもディナーショーでもあの歌は無いだろうしカウベルも無い。


 いえ、そもそもいずれ調べて肉が原因とバレれば、歌ったり鳴らしたりした者やそれを指示した者だとスグに知れて捕まる可能性からして……



「……リスクが高過ぎる」


「だろ! でだ、考えてみるにあの13K‐ULA血統は未完成品だったんじゃないかと思うんだ」




 意外と単純な推測に調子が狂う。




「いや、嬢ちゃんの仲間も歌ってたように、前々からあの歌はここに来た学生さんは必ずと言っていい程に歌ってるんだ。

 俺も従業員も聞き飽きる位、本当にどの学校の生徒も必ず歌う子が居るんだよ。

 で! それをあの13K‐ULA血統の牛も聴かされてる内に、本来の起因の暗号からあの歌に切り替わっちまったんじゃねえのか?

 そう考えたら凄え納得が出来たんだよ。どう思う?」



 確かに合点のいく話だと思えたが、合点がいかない事もある。


 その推測を私に話し聞く事に……




「……まさかとは思うんですけど、私に秘密を話した理由って、貴方の推理に私が答える為ですか?」



 驚いた顔を見せる牧場主の様子に確信していた。



「ぁあ、流石だな。そっちまで見透かされちまったか……

 で、どう思う?」



 マジか!

 と、言いたい言葉を飲んでやめ、私如きの知識量ではそこに納得以外に見当たらなかったので頷くと、嬉しそうに頷き返し捲くっての一言。



「よし、帰るか!」




 いや、返せよ時間!!



 そんな私の無情を無視してこの無慈悲な荷馬車は走り出していた。




 ただ、SEAEYEAIRの云われを考えれば確かにこの事実を知らず、迂闊にも個人でソレを調べているのがバレていたなら確かに消されていた可能性も否めない。


 知っていれば調べる事もしないという推測は素晴らしい程の読みなのに……






 これが中学の移動教室で起きた奇妙な出来事。


 翌年の後輩達は、農業体験に切り替え田植えをやったが人気無く、後輩からは最後のステーキ世代と揶揄された。


 勿論、食中毒とは思えぬあの顛末に、私のマイクもあってで様々な憶測に飛び交う呪いの噂は跡を絶たなかった。


 けれど、牧場主や私が懸念した本筋に至る推測を立てた者は現れないまま、無事に卒業を迎える事が出来たのです。


 

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