表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘れじの契約  作者: 朝露ココア
5章 晩冬堕天戦
95/105

13. その日、人類は思い出したペリ

『西側、ペリシュッシュ・メフリオンー!』


「ペリ先かよ……(絶望)」


 観客たちが試験官ペリシュッシュを黄色い歓声で迎える中、レヴリッツとリオートは深い絶望に呑まれていた。

 さっきの変な技名の試験官よりも悪質なパフォーマーだ。それは同じチームの彼らが最もよく理解していた。


「うわぁ……ひっどい顔してんねレヴリッツ。気持ちはわかるけどさ、一応相棒の晴れ舞台しょ? もっとマシな顔したら?」


「イオ先輩……だって、あんまりじゃないですか……」


 またもや隣席に知人が座ってきた。

 イオ・スコスコピィ。ペリの元チームメイトであり、昇格戦で相手となったプロ級パフォーマーである。


「うんうん、わかる。一試合目のリオートの対戦相手がサリー、二試合目がペリシュ。泣きたくなるよねマジ。でもさぁ……冷静に考えたらパフォーマーなんてみんな頭おかしいんだからさ、同じ穴の狢でしょ」


「そ、そうですね……なるほど。僕だってまともな人間かと問われれば、頷くことはできません。ペリ先輩はこの上なく圧倒的に地上で類を見ないレベルで、頭のおかしな方ですが……もしかしたら今日ばかりは真面目かもしれない」


「おねえちゃんの頭がおかしいですって!? いくらレヴリッツさんでも……それは言いすぎ……じゃないけど、言い方があると思います!」


 また新手がきた。

 ペリの妹……エリフテル・メフリオンが噛みついてきた。静かに一人で観戦したいのに、どうしてこう人が集まって来るのか。レヴリッツは首を傾げた。


「すみません、エリフテルさん。お姉さんを悪く言う気はあるのですが、言い方はもう少し工夫すべきでしたね。

 ……あ、試合が始まるみたいですよ。集中して見ましょう」


 フィールドの中央、リオートは天を仰いでいる。

 露骨にげんなりしつつも、それを表に出さないように努めて。


「あー……ペリシュッシュ先輩、ですか。

 いやー対戦するの楽しみだなー。全力で闘いましょうははは」


「おやおやリオートくん……さてはビビってますね?

 仕方ないことです。この【猛花の奇術師】が相手ですからね……ふふふ」


「ええ、ビビッてますよ。色んな意味でね。

 本当に怖いですよペリシュッシュ先輩」


「安心してください。今日はリオートくんが主役ですから。

 忖度(そんたく)するわけじゃありませんが、私が過度に目立つ大奇術は披露いたしません」


 両者は煽り合いながら、じりじりと距離を取っていく。

 所定の位置まで辿り着いたところでセーフティ装置を起動。


「俺が勝ちます。リオート・エルキス」


「それはどうでしょうか? ペリシュッシュ・メフリオン」


『両者、準備完了です! リオート・エルキス、一試合目の雪辱なるか……

 ──試合開始です!』


 試合が始まったと同時、フィールドに二つの魔力が走る。

 一つはリオートの魔力。おそらく独壇場(スターステージ)を発動するつもりだろう。

 そしてもう一つはペリの波長。さて、鬼が出るか蛇が出るか。


「俺の舞台で踊り狂え……

 独壇場(スターステージ)──【氷雪霊城(アゾフル・ステージ)】!」


 まずはリオートの氷雪霊城が現れる。

 バトルフィールドのど真ん中に現れた氷の城。闘技場全体の席から観戦できるように、端に城は作らなかった。


 一気に跳躍したリオートは、城の頂上にある玉座に立つ。


「さあ、かかってこいよ先輩。俺の城を崩して見せろ」


「──わかっていましたよ、リオートくん。

 あなたが独壇場(スターステージ)を披露してくることは確実でした。ですから、私も対抗手段を用意したのです。目には目を、歯には歯を……我が秘策、とくとご覧あれ!」


 ペリの魔力が一斉に波及する。

 全身が粟立つかのような感覚。ギャラリーのレヴリッツとイオは目を見開いた。


「まさか……ペリ先輩、独壇場(スターステージ)には独壇場(スターステージ)で対抗する気か……っ!?」


「マ? ペリシュ、使えたんだ。

 ここで初披露……ってとこかね。ウチも楽しみだわ」


 独壇場(スターステージ)の相克。

 それは一流のパフォーマー同士の闘いを意味する。想像を絶する熱戦、予測不能の領域合戦。互いに全力をぶつけ合う熱い闘いが巻き起こるのだ。


「まさかペリシュッシュ先輩……俺と同じように独壇場(スターステージ)を!?」


 リオートに問われたペリは首を傾げる。


「いえ違いますけど。デカいもんにはデカいもんで対抗すんですよ。

 とりあえずその城、壊しますね」


 中央に城が聳え立つ中、ペリはそそくさとバトルフィールドの端へ。

 そして……溝になっている部分に身体を丸めて入り込んだ。


「何をする気だ……?(嫌な予感しかしねぇ……)」


 リオートはペリの奇行を警戒しつつ、魔装で防御力を高める。

 周囲におかしなところは何もない。大規模な攻撃が来る魔力の波長も感じられない。彼は氷城の頂上から必死に周囲を見渡す。


 一方、ペリは波及させた魔力を媒介とし……拡声魔法を起動。観客のざわつきを遮断し、一時的な静寂を齎した。闘技場が異様なまでに静まり返る。

 彼女は粛々とナレーションを開始。




「──その日、人類は思い出したペリ」



 稲妻走る。

 リオートの城を上回る巨大な影が、そこに立っていた。

 観客はみな黙して「(それ)」を見上げる。



「奴らに支配されていた恐怖を。

 鳥かごの中に囚われていた、屈辱を……ペリ」


 影が蠢いたかと思うと、凄まじい爆音と衝撃が伝播。

 リオートの氷城は粉々に砕け散り……彼はまっ逆さまに落下する。影を見上げたリオートは思わず叫んだ。


「なんだぁぁあ!?」


「これぞ私の秘密兵器……超大型プレちゃんです!!

 ヒャッハァー!! 蹂躙しろプレちゃん!」


 全長50mを超えるプレデターフラワーを見上げ、リオートは戦慄して青褪める。

 たしかにバトルパフォーマンスで使い魔の持ち込みは認められている。

 認められている、が……


「ペリ先輩……あ ほ く さ」

「草。ダメみたいやね」

「おねえちゃんすごい! あんなでっかい怪物を従えるなんて!」


 なぜかギャラリーでは歓声が上がり、実況解説も盛り上がっている。

 この観客(アホ)たちごと全部地ならしで吹き飛べばいいのに……とレヴリッツは頭を抱えた。もう終わりだよこの競技。


 得意の独壇場(スターステージ)を破壊されたリオート。

 彼は冷や汗を拭い、地上を睥睨(へいげい)するプレデターフラワーを見上げた。大きさとはすなわち脅威の値そのもの。アレをどうやって攻略するべきか……悩んでいると実況が警告を出した。


『えー……ただいま協会から通達がありました。

 規定により、全長20mを超える使い魔の投入は禁止されているとのことです。ペリシュッシュ試験官はただちに使い魔を収容してください』


「え……あ、そうなんですか。すみません。

 プレちゃん戻って」


「出オチかよ」


 ペリに命じられ、超大型プレデターフラワーは煙となって消えていく。

 しかしリオートからすれば辛いものがある。独壇場(スターステージ)の建造に費やした魔力を持っていかれた。二発連続はさすがに厳しい。


「一片氷心──《霜走(しもばしり)》」


 速攻。それがリオートの選んだ選択肢。

 超大型プレちゃんが蒸発していく蒸気に紛れ、リオートは駆け出した。ペリは未だ呑気に魔装を構築している。


 魅せ場もクソもないが、とりあえず勝てば昇格は実現する。

 ペリシュッシュ・メフリオンの一番の怖さ……それは『得体の知れなさ』。正直、彼女と同じチームのリオートでも知らない情報が多すぎる。


 プレちゃんとは何か。マジックの種は何か。本気を出せばどれくらい強いのか。

 あらゆる情報が謎に包まれており、だからこそ彼女は厄介なのだ。


「《凍嵐》」


 手の指すべてに氷の刃を装着。

 このまま蒸気に紛れ、ペリを奇襲して押し切る。


 モニター越しに状況を観察していたイオは、リオートの判断力に感心を見せる。


「へえ。リオートの択、悪くないんじゃね? 同チのレヴリッツ的にはどう?」


「相手が一般的な魔術師なら、奇襲の接近戦を仕掛けるのは悪くありません。

 ただ相手がペリ先輩なので……あの人、変な魔術ばっかり修めてるんですよ。僕も何が起こるかわからないです」


 素早くフィールドを駆けるリオートは、ペリの背後へ回り込む。

 完全に間合いに入った。まだペリは索敵中。


(取った……!)


 真っ白な蒸気から抜け出し、彼は氷刃を振りかざす。

 この距離から回避することは不可能。細切れとなった視界の中、ペリは自らの背後に刃が迫っていることを察知したが……間に合わない。


「終わりだッ……!?」


 だが、リオートの攻撃は弾かれた。

 たしかに攻撃は命中したが……美しい砕氷が宙に舞う。

 ペリの体の一部が石のように硬く、ダメージが入っていなかった。


「刃が通らねえ……」


「ふふふ……メフリオン家に代々伝わる謎の魔術、『超硬化(カスドロン)』。

 奇襲対策に用意しておいた魔術なんですが……実はこれ、発動すると私も動けなくなるんですよ。それではおやすみなさい」


 リオートの刃を防ぐために硬化したペリの首元。

 しかし、そこからじわじわと……彼女の全身が硬化に蝕まれていく。やがて彼女は物言わぬ石仏となり、バトルフィールドの中心に立ち尽くした。


「え……いや、先輩困るんですけど。このっ!」


『……ペリ』


 リオートが力を籠めて斬りかかっても傷はつかず。硬化したペリの石像は静かに佇んでいた。


「ど、どうしよう……おねえちゃんが石になっちゃった!?」


「エリフテルさん、心配しなくても大丈夫ですよ。時間が経てば戻りますから。

 それよりも、この魔力の流れは……」


 レヴリッツはフィールド全体を見渡す。どこか見覚えのある魔力の流れだ。

 そう、これはたしかペリの昇格戦の時と同じ──




 ──《炎竜花(ジ・イル)



 瞬間、闘技場が紅蓮に染まった。

 灼熱の花がフィールド中にぶわっと咲き誇り、すさまじい熱気が駆ける。地表に残っていた氷の欠片が跡形もなく溶けて……リオートは煉獄の中に立たされる。


 相も変わらずペリは石となって動じず。

 汗を流すリオートを見てイオは呆れかえった。


「同チの後輩相手に、しかも昇格戦で。

 火攻めだよ。自分だけ石になって知らぬ存ぜぬ、後はリオートが倒れんのを待つだけ……いやー相変わらずクズだねペリシュ。卑怯ってレベルじゃなくて草」


「お、おねえちゃん……さすがにそれはクソだよ……擁護できないよ」


 妹のエリフテルでさえ呆れているのに、またしても観客はなぜか歓声を上げている。見てて面白ければ何でもいいのだろう。


 苦境に立たされたリオート。

 目の前で佇む石ペリをどうにか攻略しなければ、炎のフィールドに体力を奪われて負ける。


(考えろ、この硬質化を解除する方法を……! ただの氷じゃ歯が立たない。今まで氷属性の攻撃に頼りきりだったツケをここで払うんだ……!)


 物理的に石を砕くことは不可能。

 炎熱の中、彼は思考を冷やす。ここに至るまでのプロセスを考えて……ペリのふざけた行いにはらわたが煮えくり返った。


「お、落ち着け……クソ、熱い!」


 ペリは全身が石化してから炎花を展開した。

 つまり、石化状態でも魔術を発動することができるし、魔術を発動するだけの意識があるということ。


 にも拘わらず、石化しながら攻撃魔術を放ってこないのは何故か?

 チームメイトのリオートはすぐにわかった。


(──舐めプだ)


 リオートが炎に囲まれて苦しむ様を、ペリは内心ほくそ笑んで見ているに違いない。

 ならば攻略法は「あの手」に限る。彼は石像の耳元に立って呟いた。


「……何をしている。闘えよペリシュッシュ先輩」


『……』


 動かぬペリの肩を掴むと、熱くなった石面が手のひらを焦がす。


「忘れたのか? 何をしにここに来たのか……」


『…………』


「昇格戦の試験官をするためだろ?」


 凄まじい圧を瞳に籠め、彼はペリの頭に声を投げかけ続ける。


「俺が、リオート・エルキスがプロ級昇格に相応しいかどうかを、判断するために……

 闘うんだ。正々堂々と、試験官に相応しい態度で……」


『………………』


 精神攻撃だ。

 いや、精神攻撃と言うことすらおこがましい。なぜならリオートは正論を説いているだけなのだから。ただ当然の責務を問うているだけ。


「──これは、ペリ先が始めた物語だろ」


『ひゃ、ひゃあぁああぁっ!!!』


 とうとう自責の念に(さいな)まれたのか、ペリが半狂乱になって硬質化を解除した。

 その瞬間こそリオートが待っていた瞬間。


「はぁあああっ!」


 うなじにすばやく一刀。

 急所を突かれたペリは呆気なくセーフティ装置を作動させられ、紅蓮の地面に突っ伏した。


『え、あっ……き、決まりましたーっ!

 リオート選手、よくわからない手段でプロ級へ昇格を決めました!

 ペリシュッシュ・メフリオンを試験官に任命したのは間違いでしたね!』


 決着を告げるアナウンスに、ギャラリーは今日いちばんの盛り上がりを見せる。

 一方、レヴリッツは頭を抱えていた。


「こんな勝負を前日に見せられて、僕は明日まともに闘えるだろうか……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ