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忘れじの契約  作者: 朝露ココア
4章 咎人綾錦杯
68/105

11. 余程のアホ

 第二拠点(ファーストリージョン)の端にある、小さな石門。

 その先はマスター級が暮らす区画、最終拠点(グランドリージョン)である。


 暗殺の依頼を受けたカガリとアーウィンは偵察のためにゲート前まで来ていた。


「あの先がマスター級の区画。で、どうするの? 入る?」


「入るのは当然。敵地の偵察は必須。情報も必須。警備を欺くは容易」


 二人はプロの暗殺者。

 最終拠点(グランドリージョン)を守る警備を抜けることは容易い。


 問題は入った後だ。怪物のマスター級たちが跋扈(ばっこ)する地に入って、気づかれずに敵地を把握できるだろうか。


「まあ、入る前に色々決めておきましょう。あたしたちの標的は世界大会の出場者。ソラフィアート・クラーラクトはとりあえず無理ね。

 で、ユニ・キュロイかレイノルド・アレーヌを殺さないといけないわけ。最低一人、可能ならば二人。それが契約条件」


「無論、出すは最大の成果。暗殺は二人。俺はレイノルド・アレーヌ。お前はユニ・キュロイ。これで結構。

 一つあるのは、疑問。暗殺対象の両名は……暗殺容易?」


「その体言止め、わかりにくいからやめてくんない?

 で、暗殺は……たぶん可能。あたしはマスター級と闘ったことがあるけど、正面から挑めば勝ち目はまずない。でも不意を突けば殺せる。

 マスター級ってのはね、大体が天才なの。だからこそ他人を警戒するってことを知らないみたい。絶対的に自分が強いと確信してるからこそ、不意を突かれて殺されるとも思っていない」


 強者の余裕が命取りになる。

 彼らは決して慢心しているわけではない。ただ裏の世界の汚さを知らないのだ。


「了解。この口調は……なんかかっこいい、以上。

 体言止めこそ至高」


「バトルパフォーマーのあっさいキャラ付けみたいね……ミラク教授も変な口調だったし。まあいいや。

 じゃあ行ってみる? 最終拠点(グランドリージョン)の偵察に」


「無論。出発」


 二人は警備の視線を軽々と欺き、未知の領域へ踏み込んだ。


 ー----


 『綾錦杯』当日。

 大会開始まであと一時間。レヴリッツは理事長室を訪れた。


 ノックもせずに入って来たレヴリッツに、サーラは訝し気な視線を向ける。


「なに、レヴリッツ。大会参加するんじゃないの?」


「もちろん参加しますよ。せっかくだし初期位置を理事長室にしようと思って」


 初期位置はパフォーマーに委ねられる。

 自信のある者は拠点の中央を占拠することが多いのだが、レヴリッツはサーラ理事長の部屋を選んだ。


 バトルパフォーマーの部屋は立ち入り禁止だが、ここは立ち入り禁止じゃない。荒らしても問題ない。


「あのさあ……ま、こんな事も予想して荷物は避難させておいたけどね。できるだけ部屋は荒らさないでよ」


「それは他のパフォーマー次第ですね。この理事長室を覗きにくる奇特なパフォーマーがいれば、ここで戦闘せざるを得ない」


 正直なところ、レヴリッツは優勝する自信しかなかったのだが……一つ懸念がある。その懸念を伝えるためにも、レヴリッツは理事長の下へ足を運んだのだ。


「そういえば理事長、気づいてます?」


「え、何に?」


「変なのがバトルターミナルに入ってると思うんですけど。バッタの虫かごにイナゴが入ってるみたいな感じで」


「ああ、うん。気づいてるよ。でも大丈夫じゃない?」


 理事長はすでに異常に気がついているらしい。

 その上で、この無関心な反応。理事長が何も問題ないと判断したのならば、レヴリッツは何も言うまい。


「じゃあ、その高そうな椅子からどいてください。僕が座るんで」


「失礼な奴だなー……いいよ。私はそろそろ戦場から退避しないとね。大会の結果、楽しみにしてるよ。

 特にOathはプロ昇格の最有力候補として注目されてるんだから」


「ああ、はい。いっそのこと僕をマスター級に飛び級させてもいいんですよ?」


「飛び級なんて天上麗華しか実例がないけどね。レヴリッツがすっごく人気になったら、飛び級もありえるかもね?」


 理事長はそう言うと、窓を開け放って空を飛んで行った。

 彼女の背には純白の羽が生えている。


「あの羽、本物なのかな……きも」


 レヴリッツは遠のく理事長を見つめ、椅子に身を沈めた。


 ー----


『【レヴリッツ・シルヴァ】初めてのバトルロイヤル!!【綾錦杯】』


「どうも、バトルパフォーマー界のうんちことレヴリッツです。綾錦杯の開始まであと五分を切りました」


〔よお〕

〔きたあああああ〕

〔(三・¥・三)

      (三・¥・三)

           (三・¥・三)〕

〔よおFラン〕

〔優勝候補の癖にうんちなのか…〕


「いやー緊張するね。まあ僕の優勝はほぼ確定みたいなもんだけど、油断はしないよ。大会が始まったらコメントの閲覧は禁止だから、あと五分でみんなとはお別れだ」


〔緊張なんて感情お前にはない〕

〔敢えて負けてみないか?〕

〔お別れ寂しいよ;;〕

〔『ナイトメア・ゴースト』行くわ (>u<)b〕

〔ペリシュッシュ・メフリオン最強!ペリシュッシュ・メフリオン最強!ペリシュッシュ・メフリオン最強!〕


 レヴリッツは流れるコメントに目を通しながら、のんびりと椅子に座っていた。


「ペリ先輩はプロだから僕とは闘えないね、残念。リオートとかヨミとかカガリとかと闘いたいな。他の人に倒されないといいけど。イクヨリとかレナ先輩、ミラー先輩とか……今まで関わった人たち、全員僕と当たってほしい」


〔全員しばいていけ〕

〔ミ(三・¥・三・¥・三・¥・三)〕

〔かがりんと鏡は配信してないよ〕

〔今どこに居るんですか?〕


「あー……カガリは配信してないのか。位置バレ防止で配信しない人もいるんだよね。僕も初期位置は隠しておくよ。少なくとも試合開始までは」


 きっとカガリが配信していないのは別の理由がある。

 とっくにレヴリッツは把握していたのだ。


「それじゃみんな、応援よろしく! もしかしたら回線の問題で落ちたりグルったりするかもだけど、その時はヨミの配信でも見といてくれ」


〔了解!〕

〔またな〕

〔がんばれー〕

〔今五窓くらいしてるw〕


 視聴者に一時の別れを告げて、彼はコメント欄を閉じる。

 そして静かに瞳を閉じた。



 数分後。


『みなさま、お待たせしました! これより綾錦杯を開催します!

 視聴者の皆さまは盛り上がる準備、パフォーマーの皆さまは戦闘の準備、できていますね!?


 それでは──玉座争奪(バトルロイヤル)、開始です!!』


 アナウンスと共に、戦の火蓋が切られる。

 レヴリッツは大きくカメラを引き、自分の居場所を映し出した。


〔うおおおおおお〕

〔戦争じゃああああああああ〕

〔理事長室!?〕

〔お偉いさんの部屋で草〕

〔炎上不可避〕


 恐らく、理事長室を漁りに来る変人は中々いないだろう。

 そもそもこんな場所で戦闘を行えば理事長に恨まれる。炎上を恐れるパフォーマーはまず来ない場所。


 しかしレヴリッツはここで待つ、彼を。

 人が来ない場所だからこそ……この闘いの裏に潜むネズミをあぶり出せるというものだ。



〔人来ねえ〕

〔そろそろ移動しないか?〕

〔これいつ面白くなりますか?〕

〔ミラクとノルンが接敵したぞ!〕

〔(三・¥・三)_U~~

 (三・¥・三)_U~~

 (三・¥・三)_U~~ レヴ粒子砲〕〕

〔オ フ 会 ゼ ロ 人〕


 開始から十分。

 誰も来ない。コメントも退屈ゆえにいい感じに荒れてきたが、レヴリッツはコメントを見ていないので知らぬ存ぜぬ。


「……やっぱり、余程のアホしか理事長室には来ないか」


 彼は嘆息して椅子から身を起こす。

 パフォーマーは(・・・・・・)誰もこんなところには来ないらしい。撮れ高を気にするならば、そろそろ街中に出るべきなのだが……今の彼はそんなことを気にしている場合ではない。


 そう、余程のアホがすぐそこまで来ているのだから。


「…………あ、回線悪いな。落ちるかも」


 回線の調子は悪くないが、彼は(うそぶ)く。

 直後に自分の配信をぶつ切りした。


 ──コンコン。

 理事長室の部屋にノック音が響く。丁寧で柔らかなノック音だ。きっと扉を叩いた人は礼節を弁えた、優しい人なのだろう。


「はい、どうぞ」


「失礼するよ」


 ドアノブを回し、入り口から姿を現したのは一人の男。

 男性にしてはやや長めの深緑の髪、浅葱色の瞳孔。

 レヴリッツと酷似した黒い着物を纏う男は、にこやかに微笑んだ。


「はじめまして! いや、久しぶりと言うべきかな?

 ごめんね、わざわざ配信を切ってもらって」


「ハド。相変わらず吐き気がするほど礼儀正しいね。

 世の中では君のような人間を何と言ったかな?」


慇懃無礼(いんぎんぶれい)、だね。暗殺をしようと思ったんだけど……レヴ、君は中々に警戒を解いてくれなくてさ。

 こうして真正面から殺しに来たんだ。覚悟はできいるんだろう?」


「さあね。殺される覚悟なんて、持ちたくないけど。

 殺す覚悟ならできているとも」


 両者、向かい合う。

 レヴリッツは偽装を解除し、ハドリッツ・アルヴァと相対した。


 闘いではない、本気の戦い。

 ──殺し合いが始まる。


 *****


 【バトルパフォーマー】BPアマチュア総合スレ Part586【綾錦杯】


 763:名無しさん ID:o7Jcs6PkE

 誰か戦況まとめて


 774:名無しさん ID:U3DPQ3Sus

 >>763

 開始10分で


 アマ162→141

 プロ65→59

 マス8人から変化なし


 786:名無しさん ID:c9PX2KtDv

 >>774

 有能

 去年より減り遅いな


 787:名無しさん ID:eE4A3Yqa4

 プロはバチバチでおもろいです

 アマチュアは及び腰の奴が多くて戦闘があっさり終わります


 790:名無しさん ID:Vbpfi3vEU

 玉子、既に三人倒しました…


 798:名無しさん ID:X2Vk7W53N

 玉子とケビンはアマチュアの癖に独壇場ある時点で無双できる

 不意打ちされたら無理だろうけど


 801:名無しさん ID:u2PwfRrD6

 たその視点もおもろいんだ

 

 802:名無しさん ID:FyGQmrL6h

 エビ、回線落ちです


 805:名無しさん ID:TNmZy9sv6

 エビ絶頂は珍しいな


 809:名無しさん ID:J7PpZGrpb

 優勝候補が絶頂してどうすんねん

 エビが言ってた通りたその配信でも見るか


 821:名無しさん ID:5gwjE7m2t

 バトロワは回線落ち多いからしゃーない

 エビだけに海鮮落ちってか


 833:名無しさん ID:3a5p8ipNV

 たそ強いな

 ズルチンが対処不能のチート異能だわ


 841:名無しさん ID:SVD3W4sSo

 原人呑気に虫食ってて草


 845:名無しさん ID:QLYwvduM7

 プロ視点見た後にアマチュア視点見ると落差ひどいな

 エビ落ちてるのも痛いしかがりんも配信してない

 玉子見るしかないか


 848:名無しさん ID:B2ggRJ3rK

 マスター暇すぎてヤバいです

 8人しかいないから仕方ないけど


 855:名無しさん ID:m2FA5wpox

 ペリカス普通にプロでも通用してる


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