表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘れじの契約  作者: 朝露ココア
4章 咎人綾錦杯
59/105

2. 友情崩壊ゲーミング?

 第10階層踏破(とうは)後、進行状況を保存してゲームを終了。

 拡張空間からOathの面々は帰還した。時刻は夜。


「思いのほか進んだね。たしか今の最高記録は43階層……僕たちで越せるかな?」


「43階層となるとマスター級フルパじゃないと厳しいと思いますよ。私たちの場合は……よくて20階層とかでしょうかね」


 全員がプロ級の実力だとすれば、ペリの推測通り20階層が限界だろう。もっとも、レヴリッツやヨミの実力が未知数なので明確には予測できない。

 リオートは指先に氷を宿してペリに確認した。


「ペリシュッシュ先輩。こうして現実に戻ったら魔力は回復してますけど……もう一回ゲームに戻れば、また消耗した状態からスタートするんですよね?」


「そうですよ。私はまだまだ魔力残ってますし、リオートくんも精霊術のおかげで消費を抑えられていますから……今のところは大丈夫。ヨミさんはどうですか?」


「私はまだまだ魔力残ってます! レヴは?」


 レヴリッツはゲーム内で消費した魔力量を思い返してみる。

 インフラは非常にリアルに近い環境が構築されており、現実世界での魔力消費とほとんど感覚は変わらない。残りの魔力量なども数値化されないので、感覚で覚えておく必要がある。


「問題ない。あと七割は残ってる。

 僕はみんなに比べて役割が多いし、魔力の消費も多いから。そこら辺、配慮してくれよ」


「はい、まだまだいけそうですね! 明日もがんばりましょう!」


 そして、一旦チームは解散となった。

 ゲームでの疲労が肉体的に蓄積することはない。しかし、敵が存在する異世界を長時間探索するのは精神的な負荷が大きい。


 その夜、彼らは翌日の戦闘に備えて泥のように眠った。


 ー----


「みんな、おはよう! 今日は第11層以降を攻略していくから……応援よろしくっ!」


〔きたああああああああああああ〕

〔こんペリー〕

〔おはエビ〕

〔リオートくんかっこいい!〕

〔Oathのインフラ待ってた!〕

〔おはよみー!〕


 リオートがいつもと違った接客用スマイルをカメラへ向ける。

 視聴者はアマチュア三人のチームがプロ級レベルの階層に挑むということで、昨日の二倍以上に膨れ上がっている。

 Oathの面々は気合十分。

 リオートを冷やかそうとするレヴリッツをヨミが引き留め、ついに一行は第11階層へと足を踏み入れた。


「なるほど、渓流か」


 滔々と流れる水音。時たま鼓膜を叩く小鳥の(さえず)り。碧色の水が流れ落ち、ガサリと茂みが揺れ動く。

 閉塞的な屋内ダンジョンではなく、前回の海岸に続き開放的な階層だ。

 周囲を見渡し敵影を確認するレヴリッツをよそに、ヨミがリオートを指名する。


「リオート! 渓流で注意すべきことを言うのです!」


「あいよ。えーと……? まず、足元が滑りやすいんで落下注意。水中からの奇襲に注意。狭い場所での戦闘を強いられることが多いので注意。

 ……あと、釣り竿はいらない」


「正解です。ここから先は魔物がかなり強くなりますよ。警戒して進みましょう」


〔渓流はよく落っこちる〕

〔水から出てきた怪魚に食われるとグロいんよ〕

〔渓流といえばユニの捕食事件w〕

〔釣り配信しよう〕

〔難易度跳ね上がるからね!注意!〕


 三人が頷き合って歩き出そうとした時、レヴリッツが待ったをかける。


「早速で悪いんだけど、悪い知らせがある」


「な、なんだよ……?」


「4スペース離れた前後左右に黒い棘が見えるだろ?

 エアプビズの攻略によると……あれは【黒鬼軍】という魔物の軍勢が、獲物を逃がさないために展開する結界らしい。内部に敵が侵入した時、黒鬼軍が自動的に転移してくる仕掛けになっている。

 そして僕らは既に結界内に入り込んでいる」


〔あっ……〕

〔まずい〕

〔最悪のスタート地点で草〕

〔おわったな〕


 黒鬼軍とは、第11階層~15階層で警戒すべき筆頭の罠だと言われている、極めて危険な魔物軍。

 単体でも苦戦する黒鬼族が軍隊を作って行動しているのだ。遭遇すれば全滅は必至。どうやら運悪く、四人は罠のど真ん中に転移してしまったらしい。


「つまり、僕らが一歩でも踏み出せば……」


 いまいち状況が理解できていないヨミが一歩、踏み出しやがった。


「つまり、どういうことー?」


 刹那。

 暗黒の天を衝く巨人が十数体、その場に転移してきた。


「「「「モンスターハウスだ!」」」」


〔モンハウだあああああああああ〕

〔い つ も の〕

〔実家のような安心感〕

〔¥ 5,000

 ペリペリしてきた〕

〔草〕


 四人が決まり文句を叫んでからの動きは速かった。

 普通のチームならばプロ級フルパでも諦める展開だが、彼らは希望を捨てていない。


 レヴリッツは自身に、ヨミは全員に身体強化を。リオートは敵の動きを阻害する氷牢を。ペリは範囲攻撃用の魔術を。

 散開しつつ、各々が迎え撃つ敵を見極める。


「こっち向きなよ、デカブツさん」


 レヴリッツが前線へと出て可能な限りの敵意を集める。

 黒鬼軍はその圧倒的な巨躯(きょく)に加えて、優れた連携能力を持つ。各個撃破が最も人間に対する有効打だと理解しているのだ。


 故に、レヴリッツはその性質を逆手に取る。彼が最重要視しているのは、メンバーを脱落させないこと。自分一人であれば黒鬼の相手は問題なく務まるという自負がある。

 しかし他のメンバーはその限りではない。リオート、ペリが相手できる数は二体が限界だろう。


龍狩(たつがり)──《這刃(しゃじん)》』」


 上方から振り下ろされた黒鬼の剛腕を回避し、レヴリッツは斬撃を腕に飛ばす。斬撃は丸太のような腕を伝い、黒鬼の首へ。

 一体の首を()ね飛ばし、討伐する。

 同時に背後から爆発的な冷気が発動。


「皆、固めるぞ!

 一片氷心──《霜柱》!」


 地上を氷が覆い尽くす。前方の数体の黒鬼の足を凍結。

 レヴリッツは跳躍して冷気を回避し、ヨミを引き寄せる。


「ヨミ、断頭台を」


「『ムキダシノシンリ』──汝の罪を問う、【断頭台】」


 レヴリッツに抱えられながら上空へ飛び上がったヨミは、大空に筆を振るう。

 出現したのは巨大なギロチン。足を凍結され身動きが取れなくなった黒鬼たちの胴体や首を、彼女のギロチンが斬り飛ばした。


 後方、黒鬼軍の魔導士が迫る。


「うおおおぃ! ペリペリしてきましたねー!」


 ペリの炎術が黒鬼の風魔術と衝突。純粋な威力では彼女の方が圧倒的に上。

 炎が風を呑み込み、より熱を拡散させて敵軍の一角を消し飛ばした。氷の破片が雨の如く降り注ぎ、黒鬼軍の動きをさらに阻害する。

 残り六体。迅速な動きにより、被害を出すことなく四人は敵の数を減らすことに成功した。


〔いけるか?〕

〔いいぞ!〕

〔勝ったな風呂入ってくる〕

〔すげえ映像w〕

〔ごっちゃごちゃで何やってるかわからんww〕


 しかし、状況は変化する。相手も一方的に倒されるわけではないのだ。

 レヴリッツが着地すると同時、前方から黒鬼の槍撃が迫る。彼は華麗な刀捌きで攻撃を往なし、先と同様に斬撃を飛ばす。

 狙い通り首を撥ね、一体を討伐したのだが……


「きゃっ!?」


「シュッシュセンパイ!?」


 ペリが乱戦の最中で罠を踏み抜いた。交戦中はレヴリッツも罠を探知できない。

 彼女の身体が揺れ、ぐらりと倒れる。睡眠罠だ。ペリはかつての妹のように昏睡状態に陥ってしまった。


 距離は他の三人から離れており、助けられるのは移動速度の速いレヴリッツのみ。黒鬼の追撃を躱しつつ、全速力でペリを救出する必要がある。


「レヴリッツ、頼む!」


「……っ」


 リオートの呼びかけにレヴリッツは答えない。

 逡巡の末、彼は周囲から迫る黒鬼たちと向かい合う。


「これ以上の魔力は消費できない。ペリ先輩を助けるにはかなりの魔力を要する。

 ……継戦する」


「はっ!? クソ、お前何言って……」


〔ペリちやばいって〕

〔あかん〕

〔エビ助けに行けよ〕

〔冷静だな〕

〔助けないと!〕


 諦念(ていねん)が彼の心を支配していた。普段の彼であれば、迷わずにペリを助けに行っていただろう。

 しかし乱戦の最中で、彼はペルソナを忘れていた。冷徹に戦場を俯瞰し、的確に敵を殺す機械へと戻りつつあったのだ。


 リオートはレヴリッツの行動に違和感を覚えながらも、遠方のペリを助けるために後方へ駆け出した。

 彼を妨害するかのように、黒鬼の戦士が立ち塞がる。


「邪魔だっ!」


 力の限りリオートは氷の剣閃を生成。眼前の黒鬼にぶつける。

 しかし、それだけでは敵を屠ること敵わず、反撃の振り下ろしが彼をより仲間から遠ざけた。

 昏睡状態のペリに魔導士の黒鬼が迫り、彼女へ雷を落とす。


「クソ、間に合わねえ!」


 無情にも彼女は高威力の電撃を浴び、ステータスに死亡状態が付与される。拡張空間の異世界から離脱した。

 離脱したメンバーは応援席で解説することになる。

 パーティメンバーが一人脱落。邁進(まいしん)する一行に陰りが見え始めた。


「──『烈雷』」


 戦場を駆け巡りながら雷印を地面へ刻んでいたレヴリッツは、一斉に雷の魔術を起動。的確に黒鬼の急所を狙った雷撃が四体の黒鬼を討滅した。ヨミも刃を生成し、残る一体の黒鬼を屠る。


 辺りには静寂が戻り、死闘の幕が下りた。


「おい……レヴリッツ。説明しろ。なんで先輩を見捨てた?」


「……すまない」


〔お、ギスるか?〕

〔インフラ名物の不和〕

〔なんか雰囲気が…〕


 次第にレヴリッツは冷静さを取り戻し、自身の過ちに気がつく。これは本物の戦場ではなく、パフォーマンスだ。ゲームだ。

 仲間を見捨てるなど非難されて然るべき醜態。

 たとえ深層に潜れなくなっても、魔力を浪費してでもペリを助けるべきだった。


「すまないって……理由を聞いてんだよ! お前じゃなきゃ助けられなかったんだ。たしかに俺の実力が不足してたのも悪いけど……」


「でもね。レヴが動いたら、先の階層は攻略できなくなってたと思うよ。レヴは強いけど、魔力量はすごく少ないもんね。だからこそ仲間の私たちもそれを理解して、レヴに魔力を使わせすぎないように立ち回らないといけなかった。

 ダンジョン攻略で大事なのは、レベルの高い人が低い人に合わせるんじゃなくて、低い人が高い人に合わせることなんだって……シュッシュセンパイも言ってたよ?」


「……そうだな。すまん、俺が間違ってた」


〔まあエビの行動は正しかった〕

〔どちらにせよ助けられなかったししゃーない〕

〔立て直していこう!〕

〔こっからペリちの解説が聞けると思えば〕

〔でもペリ裏で喜んでるよ〕

〔ペリちニコニコで喧嘩眺めてて草〕


 他でもなく、事前の相談で何かあったらメンバーでも見捨てると言ったのはペリだった。レヴリッツはその指示に従ったまでだ。

 実際、助けに向かったリオートの行動も徒労に終わり、無駄に体力を消費したのだから。


「いや、僕も助けられなくてごめん。たしかに薄情だったよ。帰ったらペリ先輩に謝らないとな」


 レヴリッツが反省する中、リオートは何気なく配信のコメントを眺める。

 すると……そこには衝撃の事実が!


「……ちょっと待て。コメントで知ったんだが、ペリシュッシュ先輩……脱落した後、俺らの言い合いを爆笑しながら見てたらしい。

 謝る必要はないな」


「うん、そうだね。時間を無駄にした。先を急ごう」


〔草〕

〔草〕

〔ペリちなんか言い訳してて草〕

〔ペリち「プレッシャー凄かったから正直脱落できて安心した」〕

〔マジで碌でもねえ先輩やなww〕

〔ペリ先、晩酌しながら観戦するってよ〕


 というわけで、残り三人で深層を目指すこととなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ