23. これから
バトルパフォーマーとしての大きな節目……昇格戦を終えたペリシュッシュ。
彼女は競技後のインタビューを終え、医療を受けて控室へ戻った。
控室の扉を開けると……
「おねえちゃーん!」
「わっ!? エ、エリフ……」
妹が抱きついてきた。
彼女は感涙にむせび姉へすり寄る。
「すっごい無茶したよね!? もう全部こげこげの闘いだったよね!?
でも、すっっごくかっこよかった! エモかったよ!!」
夢を叶えて……と姉に懇願したエリフテルだが、まさかあれほど無茶苦茶な戦法を取るとは思わなかった。視聴者の盛り上がりを意識したのか、それとも単純にやってみたかった戦法なのか。
どちらにせよ、非常に危険な手段であったことは事実。
エリフテルは怒っていいのか、喜んでいいのか複雑な心持で姉を迎え入れた。
「ふふふ……大舞台で無難なパフォーマンスをしてもつまらんのです。イオには悪いことをしましたかね……あんな奇妙な闘いに付き合わせてしまって」
「そんなことないよ! ……そういえば、おねえちゃんはプロになったけど……同じチームの皆さんはアマチュアのままだよね?
これからどうするの?」
Oathの面々はそのうちプロに昇格すると思われるが、しばらくはアマチュアのままだろう。
しかし、異なる階級でコラボしてはいけないという規則はない。活動する拠点が違えど、同じチーム内で配信活動はできる。
「Oathは解散しないよ。私はプロに生まれ変わり、配信方針も今までと大きく転換するけど……何もかもがリセットされたわけじゃない。エリフ、これからも応援してね。
……あ、配信は見なくていいよ。悪影響だから」
「うん! 私の最推しはいつでもおねえちゃんだからね!
私を起こすのを手伝ってくれたレヴリッツさんとか、同じチームのヨミさん、リオートさんも応援するよ! いっぱいバイトして推しに貢ぐんだー」
「そ、そんなに働かないでね……? 過労でまた昏睡されても困るんだから」
「わかってるって! じゃ、またねーおねえちゃん!」
エリフテルは溌剌と駆けていく。
とても先日まで昏睡していた人には見えない。彼女の笑顔を見るためにペリは戦い続けてきたのだ。
これからも、その笑顔を守り続けよう。
ー----
疲労が溜まった身体を引きずって、ペリは寮への帰路を辿る。
明日はOathの皆が昇格を祝う会を開いてくれる。さっさと寝て、明日騒ぐための英気を養わなければならない。
もう古ぼけた寮ともお別れだ。
アマチュアが生活する第一拠点を出て、プロが生活する第二拠点へ引っ越すことになる。
レヴリッツからもらって温めていたVIPカードを使い、豪華な寮暮らしを満喫してやろう。彼女は今後の生活に思いを馳せつつ歩き、寮の入り口に辿り着いた。
「……あ」
部屋の前に、人影が一つ。
数時間前まで共に熱戦を繰り広げていた友人だ。
「やほ。負けた後に会うの、なんか複雑な気分だよね」
「イオ……なんか恥ずかしい」
昇格戦の決め手は『てえてえ友情爆発マジック』。熱い抱擁で勝負を締めくくった。
媚びる配信スタイルを放棄したばかりなのに、なんだか百合営業みたいなパフォーマンスになったのだ。若干の恥じらいを覚えて耳を赤くしつつも、彼女は手を差し伸べた。
「対戦ありがとうございました。プロ級でもよろしくね」
「うい。まあ同じチームは組めんよね、たぶん」
「そうだね。私、今は別のチームで活動してるから。他のメンバーも超有能ばっかりだから、そのうち私を追い越すだろうし……」
「ウチも別のチーム、もう組んじゃってるもん。いつか戦略戦とかでも対戦したいね。リベンジもするし、絶対」
イオは確かに負けたが、たった一度の敗北。
敗北は勝利するための布石に過ぎないがゆえに、彼女はリベンジする気に満ちていた。
「でもさ、意外だったよー? アンタがあそこまでぶっ飛んだ人間になってたなんて」
「色々とストレスが溜まった結果がこれ。マスター級を見たところ全員狂人なんで、頭がおかしいのはパフォーマーにとってはメリットなんでしょう。
イオももっと狂わない?」
「いやじゃ。でもアンタ、なんかすごい人になる気がするよ。色々アンタに関する話聞いたんだけどさ、今までの配信スタイル変えるんだって?
賛否両論あるみたいだけどウチは応援する。無難な営業続けてちゃ、マスターになんてなれんしょ」
「……うん、ありがとう。やっぱりイオは優しいね」
「草。疎遠になったくせにそれ言う?」
「うっ……」
ペリの人間関係は悩みの種が多い。本人のおかしな性格のせいでもあるし、パフォーマー業界の制限のせいでもある。
苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべて、ペリは後退る。そんな彼女をくすりと笑ってイオは話題を切り替えた。
「つかさ、プロになって第二拠点に引っ越すわけじゃん? ウチと一緒の寮に住まね? 部屋に空きあるんよ」
「あーごっめwwww
私ね、実は特別寮に住む権利持ってるんすわwwww」
「は? なんで?」
「まあ、コネっていうか? 功徳の賜物というか? そんな感じで、私は快適な生活が今後は保障されているのだ。このオンボロクソ寒壁薄寮とも今日でお別れ。復縁は絶対しない!」
今にしてもレヴリッツがVIPカードを持っていた理由は謎。
彼の正体が大罪人レヴハルトであることが絡んでいるのだろうか。
「うらやま……腹いせにアンタに溶かされたチャクラムの賠償請求するわ。特別寮暮らしなんだし、そんくらい払えるよね?」
「う、う、う……う……今は勘弁してください。出世払いでお願いします」
「しゃーない、許したる。そん代わり、コラボする時は部屋使わせてよね」
「それはもちろん。また昔みたいに……仲よく配信したいね」
友と一つの約束を交わし、ペリは笑う。
パフォーマンスで見せた奇術師としての笑顔ではない。
一人の少女としての笑顔。
その夜、二人は古ぼけた寮で遅くまで語り明かした。
ー----
「おい、先輩?」
結果がこのザマだ。
翌日はOathで昇格を祝う会をやる……と予定を立てていたのに、ペリは昼過ぎまでぐっすり。
約束の時間になっても来ないペリに腹を立てたレヴリッツは、とうとうボロ寮へ踏み込んだ。
「ふぁ?」
「おはようございます。とても気持ちよさそうに寝ていましたね。さぞお疲れだったでしょうから、熟睡するのも仕方のないこと。たとえ待ち合わせの約束があってもね」
「……すいません。ほんとすいません。まじすいません」
時刻を確認したペリは、早々に青褪める。
日中に引っ越し作業を終わらせ、夜は祝賀会に参加するのに……すでに一日の半分が終わっていたのだ。
「というかレヴリッツくん、どうやって部屋に入ってきたんです? 仮にも乙女の部屋ですよ?」
「何回も何回もインターフォンを鳴らしたんですけどね。先輩が安らかな寝息をいつまでも立ててるので……解錠の秘術を使って入りました。乙女の部屋に無断で入ったことは素直に謝罪します。
……そういえば、乙女ってどこにいますか? 僕の視界には映ってないんですけど……あ、そこのプレちゃんのことですね」
レヴリッツに視界を向けられたプレちゃん(植木鉢入り)は、答えるように花びらを揺らした。
相変わらず強烈な皮肉だ。ペリはむっとして布団から這い出る。
「すぐに着替えて集合場所に行くんで、そちらで待っててください」
「ああ、実はヨミとリオートも寮の入り口まで来てるんですよ。僕は二人と一緒に外で待ってます」
レヴリッツは身を翻すと部屋の外へ出て行った。
今日はOathの皆に引っ越しを手伝ってもらう。業者に頼もうかと思ったのだが、どうしてもヨミが手伝いたいと言ってくれたので任せることに。
しかし、手伝ってもらう側の人間……しかも先輩が寝坊するなど言語道断。
彼女は自嘲しながら早着替えをして洗顔し、身だしなみを整える。
今日も自分はかわいい。
「……よし」
もう先輩とか後輩とか、そこまで関係ない気がする。
ただ同じチームの仲間と楽しい時を過ごす。それでいいのだ。
彼女は軽い足取りで玄関の外へ飛び出した。




