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忘れじの契約  作者: 朝露ココア
3章 猛花薫風事件
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23. これから

 バトルパフォーマーとしての大きな節目……昇格戦を終えたペリシュッシュ。

 彼女は競技後のインタビューを終え、医療を受けて控室へ戻った。


 控室の扉を開けると……


「おねえちゃーん!」


「わっ!? エ、エリフ……」


 妹が抱きついてきた。

 彼女は感涙にむせび姉へすり寄る。


「すっごい無茶したよね!? もう全部こげこげの闘いだったよね!?

 でも、すっっごくかっこよかった! エモかったよ!!」


 夢を叶えて……と姉に懇願したエリフテルだが、まさかあれほど無茶苦茶な戦法を取るとは思わなかった。視聴者の盛り上がりを意識したのか、それとも単純にやってみたかった戦法なのか。

 どちらにせよ、非常に危険な手段であったことは事実。


 エリフテルは怒っていいのか、喜んでいいのか複雑な心持で姉を迎え入れた。


「ふふふ……大舞台で無難なパフォーマンスをしてもつまらんのです。イオには悪いことをしましたかね……あんな奇妙な闘いに付き合わせてしまって」


「そんなことないよ! ……そういえば、おねえちゃんはプロになったけど……同じチームの皆さんはアマチュアのままだよね?

 これからどうするの?」


 Oathの面々はそのうちプロに昇格すると思われるが、しばらくはアマチュアのままだろう。

 しかし、異なる階級でコラボしてはいけないという規則はない。活動する拠点(リージョン)が違えど、同じチーム内で配信活動はできる。


「Oathは解散しないよ。私はプロに生まれ変わり、配信方針も今までと大きく転換するけど……何もかもがリセットされたわけじゃない。エリフ、これからも応援してね。

 ……あ、配信は見なくていいよ。悪影響だから」


「うん! 私の最推しはいつでもおねえちゃんだからね!

 私を起こすのを手伝ってくれたレヴリッツさんとか、同じチームのヨミさん、リオートさんも応援するよ! いっぱいバイトして推しに貢ぐんだー」


「そ、そんなに働かないでね……? 過労でまた昏睡されても困るんだから」


「わかってるって! じゃ、またねーおねえちゃん!」


 エリフテルは溌剌(はつらつ)と駆けていく。

 とても先日まで昏睡していた人には見えない。彼女の笑顔を見るためにペリは戦い続けてきたのだ。

 これからも、その笑顔を守り続けよう。


 ー----


 疲労が溜まった身体を引きずって、ペリは寮への帰路を辿る。

 明日はOathの皆が昇格を祝う会を開いてくれる。さっさと寝て、明日騒ぐための英気を養わなければならない。


 もう古ぼけた寮ともお別れだ。

 アマチュアが生活する第一拠点(ファーストリージョン)を出て、プロが生活する第二拠点(セカンドリージョン)へ引っ越すことになる。

 レヴリッツからもらって温めていたVIPカードを使い、豪華な寮暮らしを満喫してやろう。彼女は今後の生活に思いを馳せつつ歩き、寮の入り口に辿り着いた。


「……あ」


 部屋の前に、人影が一つ。

 数時間前まで共に熱戦を繰り広げていた友人だ。


「やほ。負けた後に会うの、なんか複雑な気分だよね」


「イオ……なんか恥ずかしい」


 昇格戦の決め手は『てえてえ友情爆発マジック』。熱い抱擁で勝負を締めくくった。

 媚びる配信スタイルを放棄したばかりなのに、なんだか百合営業みたいなパフォーマンスになったのだ。若干の恥じらいを覚えて耳を赤くしつつも、彼女は手を差し伸べた。


「対戦ありがとうございました。プロ級でもよろしくね」


「うい。まあ同じチームは組めんよね、たぶん」


「そうだね。私、今は別のチームで活動してるから。他のメンバーも超有能ばっかりだから、そのうち私を追い越すだろうし……」


「ウチも別のチーム、もう組んじゃってるもん。いつか戦略戦(ストラテジー)とかでも対戦したいね。リベンジもするし、絶対」


 イオは確かに負けたが、たった一度の敗北。

 敗北は勝利するための布石に過ぎないがゆえに、彼女はリベンジする気に満ちていた。


「でもさ、意外だったよー? アンタがあそこまでぶっ飛んだ人間になってたなんて」


「色々とストレスが溜まった結果がこれ。マスター級を見たところ全員狂人なんで、頭がおかしいのはパフォーマーにとってはメリットなんでしょう。

 イオももっと狂わない?」


「いやじゃ。でもアンタ、なんかすごい人になる気がするよ。色々アンタに関する話聞いたんだけどさ、今までの配信スタイル変えるんだって?

 賛否両論あるみたいだけどウチは応援する。無難な営業続けてちゃ、マスターになんてなれんしょ」


「……うん、ありがとう。やっぱりイオは優しいね」


「草。疎遠になったくせにそれ言う?」


「うっ……」


 ペリの人間関係は悩みの種が多い。本人のおかしな性格のせいでもあるし、パフォーマー業界の制限のせいでもある。

 苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべて、ペリは後退る。そんな彼女をくすりと笑ってイオは話題を切り替えた。


「つかさ、プロになって第二拠点(セカンドリージョン)に引っ越すわけじゃん? ウチと一緒の寮に住まね? 部屋に空きあるんよ」


「あーごっめwwww

 私ね、実は特別寮に住む権利持ってるんすわwwww」


「は? なんで?」


「まあ、コネっていうか? 功徳の賜物というか? そんな感じで、私は快適な生活が今後は保障されているのだ。このオンボロクソ寒壁薄寮とも今日でお別れ。復縁は絶対しない!」


 今にしてもレヴリッツがVIPカードを持っていた理由は謎。

 彼の正体が大罪人レヴハルトであることが絡んでいるのだろうか。


「うらやま……腹いせにアンタに溶かされたチャクラムの賠償請求するわ。特別寮暮らしなんだし、そんくらい払えるよね?」


「う、う、う……う……今は勘弁してください。出世払いでお願いします」


「しゃーない、許したる。そん代わり、コラボする時は部屋使わせてよね」


「それはもちろん。また昔みたいに……仲よく配信したいね」


 友と一つの約束を交わし、ペリは笑う。

 パフォーマンスで見せた奇術師としての笑顔ではない。

 一人の少女としての笑顔。


 その夜、二人は古ぼけた寮で遅くまで語り明かした。


 ー----


「おい、先輩?」


 結果がこのザマだ。

 翌日はOathで昇格を祝う会をやる……と予定を立てていたのに、ペリは昼過ぎまでぐっすり。


 約束の時間になっても来ないペリに腹を立てたレヴリッツは、とうとうボロ寮へ踏み込んだ。


「ふぁ?」


「おはようございます。とても気持ちよさそうに寝ていましたね。さぞお疲れだったでしょうから、熟睡するのも仕方のないこと。たとえ待ち合わせの約束があってもね」


「……すいません。ほんとすいません。まじすいません」


 時刻を確認したペリは、早々に青褪める。

 日中に引っ越し作業を終わらせ、夜は祝賀会に参加するのに……すでに一日の半分が終わっていたのだ。


「というかレヴリッツくん、どうやって部屋に入ってきたんです? 仮にも乙女の部屋ですよ?」


「何回も何回もインターフォンを鳴らしたんですけどね。先輩が安らかな寝息をいつまでも立ててるので……解錠の秘術を使って入りました。乙女の部屋に無断で入ったことは素直に謝罪します。

 ……そういえば、乙女ってどこにいますか? 僕の視界には映ってないんですけど……あ、そこのプレちゃんのことですね」


 レヴリッツに視界を向けられたプレちゃん(植木鉢入り)は、答えるように花びらを揺らした。

 相変わらず強烈な皮肉だ。ペリはむっとして布団から這い出る。


「すぐに着替えて集合場所に行くんで、そちらで待っててください」


「ああ、実はヨミとリオートも寮の入り口まで来てるんですよ。僕は二人と一緒に外で待ってます」


 レヴリッツは身を翻すと部屋の外へ出て行った。

 今日はOathの皆に引っ越しを手伝ってもらう。業者に頼もうかと思ったのだが、どうしてもヨミが手伝いたいと言ってくれたので任せることに。


 しかし、手伝ってもらう側の人間……しかも先輩が寝坊するなど言語道断。

 彼女は自嘲しながら早着替えをして洗顔し、身だしなみを整える。

 今日も自分はかわいい。


「……よし」


 もう先輩とか後輩とか、そこまで関係ない気がする。

 ただ同じチームの仲間と楽しい時を過ごす。それでいいのだ。


 彼女は軽い足取りで玄関の外へ飛び出した。

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