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忘れじの契約  作者: 朝露ココア
3章 猛花薫風事件
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21. 闘技場アチアチで草

 前哨戦は終わった。

 ペリは魔装の完成形である《空装》を展開。視聴者は彼女のマジックに興奮し、これから起こる怒涛の展開を待ちに待っていた。

 一方でイオも手の内を明かしておらず、彼女の本気がどの程度のものか……興味がそそられる。


 いい。これがバトルパフォーマンス。

 事前の盛り上げは最高潮、文句はなし。あとはどのくらい高度な闘いを魅せられるか……それが肝要だ。


「す……すごい! なんか、すごいです!」


 レヴリッツの隣に座っていたペリの妹、エリフテルが興奮に叫ぶ。彼女は戦いの初心者だが、素人目に見ても楽しめるのがバトルパフォーマンス。

 誰でも楽しめるという点が、この競技が普及した要因の一つなのだ。


 ペリが準備を整えると共に電源が復旧。

 舞台の闘いが明瞭に観戦できるようになった。

 レヴリッツはバトルパフォーマンスを観たことがないエリフテルに解説を挟む。


「エリフテルさん、ここからが本番だよ。ペリ先輩はかなり高度な魔力を展開させたようだけど……相手のイオ先輩もどこか自信あり気だ。何か秘策がありそうだし……まだ油断はできないね」


「そ、そうなんですね……! レヴリッツさんには、いろんなことが見えてると思うので……私もがんばって観戦します!」


 そんな調子で観客たちが口々に期待する眼下、闘技場で向かい合う両者。


 先に動いたのはイオだった。

 彼女はお手並み拝見と言わんばかりに、右手に装着した武器を投擲。

 イオが用いるのは輪型の投擲武器……チャクラム。見えざる魔力の糸で自由自在に軌道を操り、手元に戻ってくるようになっている。


 くるくると刃を従えて回転するチャクラムは、ペリの右側方から接近。ただの投擲に負傷する彼女ではない。

 纏った魔力を自由自在に操り、ペリは迫る刃を華麗に受け流した。

 イオはチャクラムを手元に戻し感触を確かめる。


「ふーん……なーほーね。クッソ堅いね、その空装。壊すには三百発くらい攻撃しないといかんわ」


「ええ、なんせ魔装の完成形ですからね。あの短時間で完成させるとは思わなかったでしょう? それに私が元々持っている魔力も多いので、削りきるのはまず不可能ですよ」


 ペリはイオの習性や特技を熟知していた。同じチームで活動していた際、ペリはメンバーを取りまとめるリーダー的な存在で、構成員の特質も把握していたのだ。

 イオは何を考えているのかわからない天然のように見えるが、相手をよく観察している。初手は様子見の攻撃を放つこともペリは知っていたのだ。


 だからこそ、初手の攻撃に対する防御は固める。チャクラムによる通常の攻撃では倒せないと思い込ませる。相手の選択肢を狭めたのだ。


「んじゃ、そろそろいくよ」


 宣告と共にイオが地を蹴る。

 接近戦(インファイト)。魔術師は内側に潜り込まれれば戦いづらくなる。魔術を主体とするペリにとっては、厄介な戦法だ。


 脅威の速度で眼前に迫ったイオ。彼女はチャクラムを投擲せず、短刀の要領で振りかざす。


「っ……!」


 目にも止まらぬ速度、破壊力。

 ペリが纏う魔力は力任せに砕かれ、刃が肉体へ迫る。魔力が破られるまでのわずかなラグ。一瞬の間断(かんだん)を利用し、彼女は後退。

 魔術を発動する。


炎熱結界(ジマ・セ)


 簡易的な詠唱。

 直後にイオの周囲に炎が迸る。熱気が肌を撫で、両者を隔てた。


 炎の鞭が伸び、イオに向かって飛びかかる。全方位より迫った炎の鞭。イオは地を蹴って高く飛び上がり、半円状に刃を飛ばして炎を迎え撃つ。

 隙を突いてペリはさらに距離を取る。ここでまたもや奇術を。


その灼熱は紙の剣へ(・・・・・・・・・)──《カード・チェンジング》!」


 指をパチン、鳴らす。

 イオに手を伸ばしていた灼熱が、瞬時に霧散。魔力に消えた炎は形を変え、トランプカードに変身した。


「ほわ? やべ」


 カードはただの紙屑ではない。外縁部に鋭利な刃が取り付けられた凶器だ。

 これまで炎を魔術として捌いていたイオ。炎魔術を捌く要領で魔力を展開していると、急に物理型のカードへ変化した。

 チャクラムで拡散した魔術障壁を貫き、カードが次々と飛来。


「ッ……!」


 右足、脇腹、頬にカードの刃が掠める。致命傷は避けたが、特に右足の傷は痛い。機動力が低下してしまった。

 遠方でマジックを披露して( ・´ー・`)(ドヤ)顔するペリと、沸き上がる観客たち。


 これは試験官として、プロとしての面目が保てない。そう思ったイオは、いよいよ奥の手に出る。このまま継戦していてもペリの不可思議な術に翻弄されるだけ。


「おこだよ。その顔、腹タツノリ。マジぶっ飛ばす」


 イオは両手に装着していた二つのチャクラムを外し、内部機構に魔力を通す。

 信号を受けたチャクラムは内部機構を作動させ、機械的な音を立てて外形を変化させていく。中心から刃を左右に押し広げ、また中央部は錐状に高さを増す。


 ペリはイオの武器がみるみる内に変形していく様を呆けて見ていた。あんな技は知らない。ペリのデータにない。

 そう、変形を終えた武器の姿はさながら……


「……ベイ〇レード?」


「そ、駒に変形すんの。びっくりしたでしょ? ペリシュにはこの技、見せたことないもんね。プロ級に昇格してから編み出したんだ。もしかしたらウチのパフォーマンスを動画で見て知ってるかもと思ったけど……知らなくてよかったわ。

 じゃ、受けてみなー」


 駒の側方に刃が取り付けられた、自律行動型の武器。

 射出された駒は猛烈な勢いで地を滑り、ペリの下へ急接近した。


「うおおおお!?」


 空装の防御すらもガリガリと打ち破り、駒の刃が彼女に迫る。あと一歩避けるのが遅れていたら、とっくにセーフティ装置が鳴っていたところだ。

 ペリは駒の攻撃を止めようと、咄嗟に魔術を展開。炎の鞭で刃の回転を押し止めようと試みる。


 炎鞭はたしかに回転する駒を抑えた。

 ……が、もう一方の駒が縛られた駒を助けるように旋回。炎の鞭を断ち切った。


「ファッ!?」


「攻撃型の『セイバーソード』と、支援型の『ガブリエルシールド』。この二つの駒を突破しない限り、アンタに勝ち目はないってこと。

 ……あ、命名はいとこの小学生ね。かっこいいでしょ?」


「参考までにお聞きしますが、限界突破(リミットブレイク)はありますか?」


「なんそれ? よくわからんけどないよ」


 キュインキュインと、甲高い駆動音を弾ませて駒が回転している。

 攻撃力の高い駒、防御力の高い駒を同時に相手しなければならない。おまけにイオ自身も何か攻撃をしてくるかもしれない。

 準備を万端に整えたペリでさえ、苦境に立たされていた。しかし隠している秘策があるのは、彼女もまた同じ。


「ふっ……まあいいでしょう。闘いは烈度を増すほどに面白くなる。イオ、あなたが起動した二つのベイブ〇ード……正面から突破してみせましょう!」


 ペリは自分の周囲に纏った魔力を拡散。

 空装の防御を薄く引き伸ばし、翼のように押し広げた。


「────」


 熱風が駆ける。

 ペリに急接近する攻撃型の駒。そして攻撃型への妨害を防ぐように回転する、防御型の駒。ついでに欠伸するイオ。

 戦場の全てを見据えてペリは魔力を伝播させた。


 魔力の行使対象は闘技場の全領域。

 己が神経を大地に溶かすように、浸透させるように深く深く集中する。疾走する駒の刃、迫る脅威をものともせずに彼女は落ち着き払っていた。



 ──《炎竜花(ジ・イル)



 一瞬にして、闘技場が紅く染められた。

 舞台に咲き誇った紅蓮の花々。ペリが空装の魔力を分解して生成した、炎で出来た花である。


「うぉお!? あっちゅ! あっちゅ!」


 イオは咄嗟に飛び退き、足元にある花を散らす。

 回転していた駒は凄まじい熱気に刃を溶かし、やがて底部も溶かされて完全に機能を失う。


 術者のペリのみを守る炎の領域。独壇場(スターステージ)ではない、持ち前の才覚により創り出した舞台。

 あまりの熱気に観客の誰もが汗を発し、急遽冷房がフル稼働する事態となった。


「あつぅい! こ、これぞ『闘技場アチアチマジック』です!!

 自分でやっといて何ですが、クッソ暑いですねこれ。ちょっと後悔してます」


「いや、でも嫌なことしてくれたね……ペリシュ。ウチのチャクラム、完全にドロドロなんですけど。草」


「イオのチャクラムは蛍鋼(けいこう)製だからね。蛍鋼は通常の金属と比べて、融点が極めて低い。人が魔力で熱を遮断して、ようやく何とか活動できる温度……すなわち摂氏110度で蛍鋼は溶ける。

 この展開を読んでいたのです。イオの武器を破壊する手段を、前もって私は用意していた!」


「すげー……で、弁償はしてくれんだよね?」


「えっそれは……勘弁してください」


 こうして会話する間も、二人の体力は徐々に削られていた。暑さをレジストする魔力消費を常に強いられ続けているのだ。

 総合魔力量が多い分、若干ペリの方が有利か。


 ペリは強力な空装を失い、イオは武器を失った。

 あとは己が身一つの闘いとなる。


「残ってんの、ウチの拳だけ。女子(おなご)ぶん殴るとかマジないわー……でもウチの武器壊したのはペリシュだし。仕方なくね」


「ご安心を。私は殴られる前に決着をつけますから」


 啖呵は切った。

 では、本気の正面衝突だ。


 イオが地を蹴る。ペリとの間に横たわるは無数の炎花。

 足裏で炎を踏み躙り、熱気を踏み越え、拳を振り抜く。プロ級なだけあり、素の身体能力も飛び抜けている。


 眼前から迫った拳を屈んで回避したペリは、魔力をさらに巡らせる。

 足元の炎花がうねる。イオの真下にある炎が肥大化し、彼女を呑み込んだ。


 竜の様にのたうち回る炎。

 炎は決してイオの身を逃さず、苛烈に彼女を呑み続けた。


「っしゃらぁああー!」


 だが、破られる。

 穏やかな普段のイオからは想像もつかぬほどの雄叫びを上げ、炎の壁を打ち破り。イオは全身を焦がしてペリになおも肉薄。


 思わぬ展開に不意を突かれたペリ。

 炎を宿したイオの拳が彼女の鳩尾(みぞおち)を捉える。勢いよくペリは吹き飛び、闘技場の壁に衝突。

 客席では悲鳴と歓声が入り混じる。


「イイの入った。でもまだでしょ、ペリシュ?」


 イオは項垂れるペリへ問いかけた。

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