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忘れじの契約  作者: 朝露ココア
3章 猛花薫風事件
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19. バズれ

 ペリの告知配信から数日後。

 チーム『Oath』は寮のロビーで一同に会していた。


「えーそれでは、明日に迫った……ペリ先輩昇格戦の作戦会議を始めます」


 作戦会議……そう銘打ったものの、とりあえず四人で集まっただけ。誰も、何も考えてきていない。

 ヨミはにこやかに拍手し、リオートは無言で頷き、当人のペリは俯いている。


「あのですね……みなさん。特に話し合うことはありませんよ?」


 ──昇格戦。

 バトルパフォーマンスにおける一大イベントである。

 アマチュア級からプロ級へ、プロ級からマスター級へ。バトルパフォーマーとしての序列を上げるための儀式。

 これよりプロ級へ昇格するペリもまた昇格戦に挑む必要があった。


 プロ級昇格戦は全部で三試合設けられている。

 三試合の内、一勝でもできれば昇格が認められるのだ。もし一勝もできなければ、数か月間の修行期間を経て再挑戦となる。

 プロ級昇格戦の試験官はプロ級パフォーマー、マスター級昇格戦の試験官はマスター級パフォーマーだ。


 つまり、今回挑戦するペリはプロ級の相手に勝たなければならない。


「ペリシュッシュ先輩は一応チームメイトだし……応援しないのも失礼だろ。そうだな……相手の試験官って明かされていないんすよね?」


 リオートの問いにペリは頷く。

 対戦相手は直前まで公開されないため、相手の対策を練ることも不可能に近い。


「プロ級のパフォーマーは総勢68人。全員の戦法を予習するのは無理ですね。

 なので作戦会議もクソもありません。私もやりたいようにやって、全力を出しても敵わなかったら実力不足ということなのです」


 しがらみから解き放たれたペリは、とうに覚悟を決めている。

 妹から頼まれたのだ。『おねえちゃんの夢を叶えて』……と。


 ならば闘うしかない。

 最高のバトルパフォーマーになるという夢を叶えるしかない。

 一連の流れを聞いていたレヴリッツがふと疑問の声を発した。


「ところで、プロ級パフォーマーってどんくらい強いの?」


「レヴ……さすがにバトルパフォーマンスに無関心すぎるよ。先輩のパフォーマンスとか、配信とか見てないのー?」


「うん。配信はアマチュア級の人しか見てないんだ。これから僕が昇格した時、初見の相手や戦法を楽しみたいからね。その方が視聴者も喜ぶし」


 バトルパフォーマーとしての成功法は勉強していても、大先輩のプロ級やマスター級の動画は見ない。それがレヴリッツのやり方だ。

 そのため、有名なパフォーマーの話題を出されても彼には理解できないことが多々ある。


 彼の疑問にペリが何となく答えた。


「マスター級は揃いも揃ってバケモンまみれですけど、プロ級はピンキリですね。私も実力だけはプロ級に匹敵すると言われてますけど、だいたい真ん中くらいのレベルだと思います」


「へえ……ペリ先輩の実力でプロ級の真ん中なら、三試合のうち一勝はできそうですね」


「はい、どーんと任せといてください。レヴリッツくんやリオートくん、ヨミさんも実力だけならプロ級を名乗っても通用すると思うのですが……いかんせん知名度が足りませんねぇ。

 私は一足先に「上」で待ってるペリ」


 知名度。

 視聴者からの支持や人気、世間からの認知。バトルパフォーマーは実力だけではなく、そういった知名度も要求される。


 知名度は配信の際、同時接続の固定層でおおよそ測ることができる。

 ペリは約9000人、他の三人は約500~1000人くらい。配信初期と比べれば伸びてきたが、まだまだひよっこ。これでもアマチュアではかなり多い方だ。


「ああ、話は変わるんですけど。ペリシュッシュ先輩は俺たち三人の中で、誰が一番早くプロ級に昇格すると思います?」


「僕でしょ」


「お前に聞いてねえよ」


 リオートの問いを受け、ペリは俯いて考え込む。

 実力だけを見れば、レヴリッツが圧倒的。そしてリオートもまた独壇場(スターステージ)を発現させ、青葉杯で凄まじい活躍を魅せた。


 だが、


「ヨミさんだと思います」


「はぁ!? 僕じゃないんですか!?」

「そうですよシュッシュセンパイ! ふつうに考えたらレヴです!」

「いや、ヨミは喜べよ……でも意外だな。認めたくないが、俺も最初にプロ級に行くのはレヴリッツだと思ってたけど」


 ヨミは戦闘初心者で、同時接続もレヴリッツ、リオートと大差ない。

 しかしペリが未来を見据えた時、先陣を切って歩いているのはヨミの姿だった。


「ヨミさんは戦闘初心者ながら、強力な能力……『ズルムケノチンミ』でしたっけ?」


「『ムキダシノシンリ』です! 名前は誰かがつけてくれました」


「そう、それ。その能力によって……とんでもないポテンシャルを秘めています。おまけに戦闘のスキルも格段に上達していくでしょう。

 ただし……ヨミさんが大成すると思われる理由は、それだけではないのです」


 もう一つ、決定的な理由がある。

 他の誰もが持っていない特異なる力。


「芸術性です。ヨミさんが時々上げるメイキング動画……あれ、見ててかなり気持ちいいんですよ。ポンポンと軽快に絵画や彫刻の製作が進んで……見 て る の が 気 持 ち い い !

 また、ヨミさんの綺麗な声は癒されます。

 歌ってみたとか聞くと、もう気が狂う。

 つまりですね……バズる可能性がかなり高いのです!」


「バズる……私がバズるんですか?? TipTopみたいな動画編集は参考にしてるんですけど、再生数上がらなくてむしろ困ってるんですよセンパイ!」


「そのうち見つかります。とりあえずバズの種だけ作っとけば、後は天を運に任せておけばオッケーです。私も積極的に宣伝しますし……裏で企業がアレ(工作)してくれるかもですし。とにかく継続が大事! ヨミさんは配信よりも動画に気合を入れた方がいいかもですね……知らんけど」


「わ、わかりました! がんばって動画作ります! 作品を作るのは好きだし、ぜんぜん苦にならないですから……」


 芸術性があれば、視聴者にも効果的に面白さを伝えることができる。

 逆に言えば……話を聞いている男どもは芸術的な動画を作る才能が皆無。


「なあリオート。僕らってもしかして……戦闘の才能がないだけじゃなくて、動画編集の才能もない? バズる種もない?」


「は、配信で……ゲームとか、斬新な企画とかで人集めればいいだろ……? 歌なら俺もお前も、それなりに歌えるし……大丈夫だ」


 とは言いつつも、リオートは冷や汗をかいていた。

 狼狽する彼に配慮するように、ペリは言葉を重ねる。


「レヴリッツくんやリオートくんも活動を続けていれば、そのうち人気が出ると思いますよ。何がきっかけで人気が爆発するかはわからないのです。私が伸びたきっかけは……言うのやめとこ」


「あ、シュッシュセンパイが伸びたのってたしか……「怪獣先輩」って名前を間違えて……」


「shut up!! ヨミさん、その話はそこまで。

 ……とにかく。私は全力で昇格戦に臨みます。明日は全力で応援しに来てください!」


 明日の昇格戦は妹のエリフテルも見に来る。

 絶対に負けられない。


「あっ、そうだ。話は変わるんですけど……この前編集が終わったMVを私のチャンネルで上げようと思います」


「『Take in advance』ですか? ペリ先輩のチャンネルで上げても大丈夫なんです?」


 Oathの新曲、『Take in advance』。

 ペリとヨミがボーカルを分担し、他二人は低音パートを担当した曲だ。


 誰のチャンネルで上げるかは検討していなかったが、ペリのチャンネルで投稿するのはリスクがある。男性がMVに映ることすら嫌がる視聴者もいるのだ。


「大丈夫です。私が決めたことですから。

 昇格戦を前に、私なりの決意をさせてください」


「そういうことなら僕は異論ありません」

「俺も大丈夫だ」

「うん! 新しい曲……伸びるといいですね!」


 これからは彼らと共に歩んでいく。

 ペリは覚悟を胸に拳を握り締めた。

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