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忘れじの契約  作者: 朝露ココア
3章 猛花薫風事件
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17. 願いの花

 山中にてすさまじい衝撃が巻き起こっていた。

 相対するは悪魔ドムスポットと、陸軍中将ゼノム。両者が激突する度に山崩れが起こり、木々が薙ぎ倒される。

 他の軍人は苛烈な争いに介入すらできず、遠方で警戒体制を敷いていた。


『化け物だ。お前は、俺が悪魔として生きてきた中で最も強い戦士だ』


「お褒めに与り光栄です。ただし、私の強さは悪魔に認められるべき代物ではない。民に、軍部の仲間に認められるべきものですから」


 悪魔の魔装を軽々と打ち砕くゼノムの拳。

 周囲に氷の柱を生み出し、猛攻を防ごうとする。しかし冷気をものともせずにゼノムは猛攻を仕掛けてくるのだった。


「ところで、悪魔とは非常に稀有な存在であります。異世界から召喚される悪魔は滅多に観測されない存在でありながら、過去に凄惨な事件をいくつも起こしてきました。その原因は、普遍的に破滅を齎す本能に在るとか」


『それが何か? まさか悪魔に説法を説くつもりじゃないだろうな』


「いいえ。破滅願望を持つ悪魔の貴殿に一つ、お尋ねしたい。

 ──先程の少年……レヴリッツ・シルヴァ殿と相対して、貴殿は何を思われた?」


 両者は激しく争いながらも、その質問が横たわった時のみ……時が止まったかのような感覚を覚えた。悪魔は冷静に先程の一幕を思い出す。

 特に変哲もない黒髪の剣士が、その姿を破って現した。彼の正体は悪意を纏った白髪の人間。


 ドムスポットは、悪魔としてそれほど経験を積んでいるわけではない。しかしそんな彼でも、直感的に経験が警鐘を鳴らしたのだ。

 きっとあの少年……レヴリッツとかいう人間は、


「あの剣士はまるで、」


 言葉を紡がんと口を開いた瞬間のこと。

 真っ黒な花が咲いた。


 眩い銀閃が悪魔の首を断ち、噴出した黒い霧が天へと舞い上がってゆく。

 口を開いた悪魔の顔面はころころと転がって、切り離された自身の胴体を呆然と見つめていた。


 ──《不死断ち》


『…………』


「レヴリッツ殿……!」


 悪魔を殺した者は、今しがた両者が話題に上げていた張本人。

 黒い着物を風に流し、美しい軌道で刃を振り抜く。彼が放った一撃は、不死を断つ奥義。不死性を持つ悪魔さえも屠る剣閃。


「さようしからばこれにて御免。悪鬼ドムスポット、ここに討てり」


 首を断ち、刀を鞘に納めるまでが一連の動作だ。

 レヴリッツは刀身に付着した邪気を払い、流麗な動作で鞘へ刃を収めた。カチンと金音が鳴ると同時に悪魔は塵となって消えていく。


 一切の気配を感じさせず、一切の殺意を見せず。

 彼は表情一つ変えることなく悪の権化を殺して見せた。見守っていた軍人は静かに喝采し、彼の(わざ)に沸き立った。


「ゼノム中将、お疲れ様です。無事にアルヘナを捕縛したので戻って来ました!

 いやあ、悪魔が被害を出す前に解決できてよかったです」


「……なるほど。助太刀感謝いたします。

 ところでアルヘナ・ハナンスは何処に?」


「あそこで……ペリ先輩が引きずってます」


 レヴリッツが指さした方角には、アルヘナを怠そうに連行するペリの姿があった。もはや憎さを通り越して無関心。すでにペリはアルヘナの事などどうでもいいのだ。


 ゼノムはアルヘナの身柄を預かり、厳重に呪術を封じた上で拘束。


「アルヘナ・ハナンス。呪術行使罪、及び悪魔喚起罪により現行犯逮捕します」


 彼女に抵抗の意思はなく、事後処理はあっさりと済んだ。

 ペリはようやく事件されたことに喜び、そしてすぐさま次の感情に襲われた。


 不安。

 本当に自分の妹は目覚めているのだろうか。一刻も早く、唯一の家族に会いに行きたい。そんな焦燥が彼女の頭を埋め尽くす。


 そんな彼女にレヴリッツが淡々と言葉をかける。


「僕が事故処理とか色々やっておくんで、先輩は帰っててください」


「あーでたでた、レヴリッツくんのソロムーブ。私をいつも除け者にしてペリ。レヴリッツくんっていつもそうですね……! 私のことなんだと思ってるんですか!?」


「うるさい。パフォーマー崩れの乞食。アイドルなり損ねクソ滑り淫夢厨。

 実家で声が低そう。義務ペリ。ネットのおもちゃ。

 信者ファンネル飛ばして一生迷惑。おまえ結局なにがしたいの?」


「んんん? はあぁあ!? えっと、つまり……レヴリッツくんなんて嫌いです!

 実家に帰らせていただきます! ばーーか!!!」


 容赦のないレヴリッツの言葉にペリは激怒(仮)し、怒号を飛ばして一足先に帰っていく。

 レヴリッツは彼女の背を見送り、一つの欠伸を漏らした。


 ー----


 息を切らして、ペリシュッシュは病院の廊下を歩く。

 何度も通った道なのに初めて見る景色のようだ。早く妹に会いたいという焦燥がありながら、病院の中を走るわけにもいかず……早足で進んでいた。


 燈色の西日が廊下に射し込み、白亜の病院を照らしている。眩しい光に視線を逸らして、お見舞いに足を運び続けた病室の前に立つ。

 手には花束。造花じゃない、本物の花で作られた束だ。

 そっとドアに触れる。この先を見れば、全てがわかる。目に映るのは呪われた眠り姫か、あるいはかつて見た元気な妹の姿か。


 胸に手を当てて動悸を抑える。

 大丈夫。悩みを聞いてくれたヨミ、背中を押してくれたレヴリッツ。他にも事件の解決に協力してくれた軍人たちや、治療を続けてくれた医者たち。彼らの努力は実を結ぶはずだ。


「…………」


 ゆっくり深呼吸をして、ペリは病室の扉を開け放った。

 目の前には──


「……エリフ!」


 一人の少女が寝台に座っていた。

 妹のエリフテルが、起きている。

 彼女が動く姿なんてずっと見ていなかったのに。


 ペリの叫び声に呼応して、ハッとエリフが振り返る。

 姉と同じ蒼の瞳が揺れていた。


「おねえ、ちゃん……?」


「エリフ……! エリフ、よかった!

 ずっと……待ってたんだよ! エリフが目覚めるの……」


 抱きしめた身体から伝わる温もり。妹の生を語る体温が、ペリの肌に触れる。

 瞳から涙がとめどなく溢れて、視界がぼやけて見えなくなって。花束を思わずベッドの上に落としてしまって。ずっと、どちらが姉かわからないほどに泣き喚いて。


 エリフテルはそっと姉を抱き返す。


「おねえちゃん。私、ずっとね……暗いところにいたんだ。冷たくて、怖い暗闇で……迷っていたみたい。

 でも、時々おねえちゃんの声が聞こえてたから……大丈夫だったよ」


「ううん、ごめんね……起こすのが遅くなって。もう不安にしないから!」


 お互い、たった一人の家族だ。

 両親をなくして力を合わせて生きてきた姉妹が、再び手を取り合う。

 ただそれだけの出来事。


「……お医者さんから聞いたの。おねえちゃん、ずっと私のためにがんばってたんだよね。

 でも、もういいからね……いっぱい苦労させちゃったけど、今度は私がおねえちゃんを助けるから」


「妹を助けるのが姉の役目だもん」


 エリフテルは思う。

 妹を助けるために奔走した姉の苦悩は、自分よりもずっと重いものだと。


 正直に言えば、姉には自分のことなど放っておいて好きに生きてほしかった。

 だが姉はそんなことは許さない。自己犠牲の精神で他人を助けてしまう優しい人……それこそがペリシュッシュ・メフリオンなのだから。


「おねえちゃん。助けてもらってごめんだけど、もう一つだけお願いがあるの。

 ……聞いてくれる?」


「うん、いいよ。なんでも」


 『なんでも』──その言葉から滲み出る姉の優しさと、少し他人の意見に依存する性格。

 エリフテルは彼女のことを熟知していた。だからこそ、姉を解放するための言葉を紡ぐことができる。


 彼女が昏睡状態となる前、姉はとある「道」に進んだ。

 だが妹の存在によって道は阻まれてしまった。だから、その道に戻してあげるのが妹の責務。


「おねえちゃんの、夢を叶えて。

 そう……最高のバトルパフォーマーに、なりたいんでしょ?」


 ー----


「……ということがあったのさ」


 レヴリッツは一連の流れを、かいつまんでリオートに説明する。

 隠すべき部分は偽って、簡潔にペリの背景が理解できるように。


「なるほどな。ペリシュッシュ先輩が金にがめつかったのは、そういう経緯があったからなのか。というかお前、本当に厄介事に巻き込まれてるな……いや、自分から巻き込まれに行ってるのか」


 リオートの印象としては、闘争あるところにはレヴリッツも必ずいる。

 今回の事件がバトルパフォーマーではなく外部の呪術師によるものだったとしても、周囲のパフォーマーが闘争に巻き込まれているのならば首を突っ込んでいく。

 少なくとも、今までリオートが見てきた彼からはそんな印象を受ける。


「しかし、これでペリ先輩は義務配信から解脱できる。……できるよな?」


「さあ、どうだか。俺は……これまでの配信スタイルを大きく変えるのは難しいと思うが。

 ペリシュッシュ先輩の売りって、配信頻度の高さと内輪ノリだろ?」


 二人はリオートの部屋で呑気に話し合っているものの、これから大切な局面を目の当たりにするのだ。

 リオートのPCに映っているのは、ペリシュッシュ・メフリオンの配信チャンネル。今から五分後に配信が開始される。


 枠の名前は『大切なお知らせ』。

 こういうタイトルの時は、良い報せと悪い報せ……極端に二分される。視聴者もざわついているようだ。

 レヴリッツとリオートも、これから彼女が何を話すのか知らされていない。同じチームメイトとして配信を見る責務が彼らにはあった。


 アマチュア界の異端児、ペリシュッシュ・メフリオンの行く末は──


 *****


 【バトルパフォーマー】BPアマチュアスレ Part457


 72:名無しさん ID:4bDR53GoM

 皇帝、12万です


 73:名無しさん ID:aaKzwHYL9

 またイクヨリの回線イきました


 75:名無しさん ID:VAQcTXoL7

 イクヨリ絶頂


(*絶頂……回線落ち)


 77:名無しさん ID:5CkXZh6FZ

 たそのツインテちぎる


 82:名無しさん ID:d2mKoe8Tu

 アレ12串どりゃああああああああ


 ところでアマチュア界虚無すぎんか?そうか…


 86:名無しさん ID:6kVa2LEjx

 >>82

 この時間帯なんてニートしかおらんし

 配信するPも空き巣狙いしかおらんだろ


 101:名無しさん ID:tLs8ahNpG


 『【ペリシュッシュ・メフリオン】今後の活動に関して』

 28時間後に配信予定

 

 103:名無しさん ID:Axd9yGRHY

 >>101

 あっこりゅあああああああああああああ


 104:名無しさん ID:jiR5ZgLtJ

 >>101

 ペリカス、あかんか…


 105:名無しさん ID:x7SDXsUqa

 >>101

 ペリち・・・嘘だろ・・・?


 106:名無しさん ID:J6FnAaAn6

 >>101

 もう終わりだよこの業界


 108:名無しさん ID:q2of65prS

 >>101

 カスどりゃああああああああああああ


 109:名無しさん ID:pkq6PqzqQ

 カス引退とかもう尾張屋根

 とうとうアマチュア最強の一角が落ちるのか


 111:名無しさん ID:XbVybu5mZ

 >>101

 引退じゃないよな?な?


 132:名無しさん ID:UDLC5s7Am

 大切なお知らせって書いてる以上は人を釣って集める気があるということ

 つまり引退じゃない


 133:名無しさん ID:S8urDTbp3

 白昼堂々、爆弾を投下するペリカス

 さすがです


 135:名無しさん ID:ihC3paATF

 もしペリちが引退だったら旧Aceの生き残り一人だけになるな

 やっぱ昇格しないと協会からの圧やばいんかな


 144:名無しさん ID:Mp3LwxEfo

 本命:引退

 対抗:大型案件

 大穴:ただの釣り


 さあどれだ


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