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忘れじの契約  作者: 朝露ココア
2章 氷王青葉杯
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13. ケビン・ジェード

 才能がない。

 それは不幸なことではない。人間は上澄みの奴らが支配し、利益をすすり、下々の人間は従うだけ。


 俺……ケビン・ジェードもまた非才の一人。

 だが、俺は大きな間違いを犯してしまった。才覚溢れるバトルパフォーマンスの業界に飛び込んでしまった。


 憧れていたんだ。

 華麗に舞い、視聴者を魅了し、強敵を翻弄する一流のバトルパフォーマー。小さい頃から、強い剣士に憧れていたから。

 俺は無様にも道を踏み外した。実家を飛び出して、家族との縁を断って、バイトで稼いだ金をつぎ込んで、勢いのままに養成所に通って。


『すげえよ、ケビン! お前……適性Dなのに、すげえ!』


 数年前。デビューしたばかりの頃、順風満帆に活動は進んだ。

 チームメンバーの一人が俺を褒め称える。小さい頃から棒振りが趣味だっただけあって、剣術は得意なつもり(・・・)だった。


 周囲のアマチュア級パフォーマーを薙ぎ倒し、獅子奮迅の活躍を見せる。

 おまけに戦績に呼応するように、知名度もグングンと上がって……いつしか俺はアマチュアを代表するパフォーマーになっていた。


 希望。羨望。大望。

 望みに満ちていた。俺の選択は成功だったと。バトルパフォーマーこそが天職なのだと思ってしまうのも仕方ないだろう。


『決まったー!

 ケビン・ジェード! みごと昇格戦に勝利し、プロ級へ昇格を決めましたー!』


 そこが人生の頂点だった。

 昇格戦の試験官をブッ倒して、プロ級になった日。


 ケビン・ジェードの生涯における、最も幸福な瞬間。俺の勝利を告げる実況の声が、まさに天使の福音のように聞こえて。

 とうとう俺は世界に認められたのだと思い込んだ。


 一寸先は闇だとも知らずに。


 ー----


「……どうして」


 勝率12%。

 プロになって三ヶ月経った俺の戦績だ。


 まるで勝てない。勝てるビジョンが浮かばない。光の欠片すら見えない暗黒だ。

 マズい。視聴者からの支持も急速に落ちてきている。そりゃ当然だ。何度も何度も、バトル配信で無様に負け姿を晒しているのだから。


 控え目に言って、プロの連中は化物だ。

 俺が来るべき場所じゃなかった。適正Dランクの奴なんて、俺以外に一人もいなかった。

 今までの出来事はすべて偶然、幸運。認めたくはないが、それが俺の出した結論だ。まともに張り合って勝てる相手じゃねえ。


「どうにか、しねぇと……」


 焦燥。

 俺の心を焦りだけが支配していた。このままじゃ暮らしていけない。

 いまさらバトルパフォーマーなんて辞められるか。家族とも縁を切り、帰る場所もなく。俺の居場所はここだけだ。


 何としても居場所を守らなければ。

 才能のない俺にできることは何だ?


 考えろ。バトルパフォーマー以外の配信者を探って、せめて視聴者を惹きつける手法を編み出せ。


「……そうだ」


 俺だけが知っている情報がある。

 それは同僚のバトルパフォーマー連中の情報だ。注目を集めるには、過激な内容を取り扱えばいい。


 モラルなんて知るか。もはやなりふり構ってられない。

 まずは腹いせに、俺を負かしたプロの連中の情報を探る。アテはある。浮気してる奴、詐欺まがいのことをしてる奴……数多のネタが転がっていた。

 まだ未開拓の領域だ。配信者の暴露はあるが、バトルパフォーマーの暴露は一人もやってない。


「…………」


 最初はまだ後ろめたさがあった。

 炎上しないギリギリのラインを攻めて暴露してみたが……期待以上に数字が出た。出てしまったんだ。


 味をしめた俺の暴露はエスカレートしていく。数字が出ないととにかく不安で、自分が必要とされていない気がして。

 次第に暴露だけではなく、迷惑行為までするようになった。


「──嫌だ」


 いつの日か、本音がこぼれ出た。

 こんな日々は嫌だ。


 自分の夢が汚れて、壊れて、ボロボロになっていく。

 腐りかけの希望を握りしめて……俺はいつまで抗おうとしていたんだっけな。そのうちバトルも全くしなくなった、どうせ勝てないから。


 見かねた協会は、俺にアマチュアへの降格処分を下した。

 逆に救われた心地だったよ。また……あのぬるま湯に戻れるんだからな。それでも、居ついた視聴者はなかなか変えられない。


 俺は依然として迷惑系パフォーマーとして君臨し続け、気がつけば第一拠点(ファーストリージョン)の厄介者になっていた。

 なら、それでいい。俺みたいな勘違い野郎を振るい落とす役割を果たしてやろう。


 勘違いした自信家を正しき道に放り出してやるのは、新人狩りを堂々とできる俺の役割だ。お節介、余計なお世話。何とでも言え。

 俺は、俺の信念に準じて──壁となる。


 警告を。妨害を。

 俺、ケビン・ジェードは……迷惑系パフォーマーで構わない。


 ー----


 青葉杯当日、対戦カードを見たガフティマは笑いがこみ上げるのを抑えきれなかった。


「ク……ハハハッ! おいグルッペ! これ見ろよ、あの生意気なガキが相手だぜ!?」


 彼の取り巻きの一人である魔導士、グルッペに対戦相手を見せる。

 グルッペもまた、ニタリと不気味に笑う。


「フへへ……こりゃまた、奇遇ですねえ」


 彼らの傍には、二人の男がいた。

 分厚いコートに身を包んだ迷惑系パフォーマー、ケビン。

 そして、ケビンの右腕ポジションのトシュア。


「ケビン先輩、トシュア先輩! こいつが生意気な新入りですよ!」


 ケビンはレヴリッツの名を見て頷く。

 曰く、ガフティマはレヴリッツに大負けしたらしい。生意気な初心者を狩ろうとして、逆に狩られた形だ。

 だが、ケビンは気づいている。レヴリッツは比類なき精神と武力の持ち主……化物であると。故に、ケビンが妨害することはない。彼が立ちはだかるのは、才能のないパフォーマーの道だけなのだから。


「……レヴリッツ・シルヴァの相手は手前に譲ってやるよ、ガフティマ。

 俺は──」


 ──リオート・エルキス。

 ケビンの眼中には彼の名前しか入ってこなかった。


 これが最後の試合だと、リオートは告白した。だからこそケビンも全力で送り出さねばならない。

 才能なき新人が再びバトルパフォーマーの道へ踏み込まないように、かつての自分と同じく絶望しないように、完膚なきまでに叩きのめす。


 PPを稼いで成績を伸ばすことなど、もはや彼の眼中にない。


「おい、ケビン? 熱くなるのはわかるが、チームの勝利も考えろよ。これだけ熟練者が揃っていながら、新人が三人もいるチームに負けるわけにもいかないだろう?」


 ケビンの肩をトシュアが叩く。

 トシュアもまた迷惑系パフォーマーの一人であり、よくケビンと合同で企画を組んでいた。プロ級の実力はないが、アマチュアの経験年数も長いので実力は折り紙つきだ。


「わかってる。警戒すべきはペリシュッシュだが、あの女はどうでもいい。どうせタワーに籠って怠けてるだけだろうからな。本気を出せば俺より強いと思うんだが……才能はある癖にやる気がねえ。

 グルッペ、手前は指揮官。トシュア、手前はタワー制圧。リオート・エルキスは俺が狩る。作戦は以上だ」


 ケビンの言葉を聞き、ガフティマは口元を吊り上げる。


 ──雪辱。

 彼の目に昏い光が宿った。


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