9. 僕とお茶でもどうですか?
イクヨリは混乱していた。
「ま、まずい……ミラーさんは離脱、カガリさんとの通信も途絶、レナさんは命令を聞いてくれない……どうしたらいいんですか!? 私の完璧な作戦が……!」
「うん。ちなみに、今のところ勝率は何パーセントくらい?」
「そうですね……リオートさんを撃破できているとは言え、まだレヴリッツさんが残っていますし……80パーセントと言ったところでしょうか? ……って、レヴリッツさん!? いつの間に!?」
イクヨリの背後にはレヴリッツが立っていた。
いつの間に接近したのか。モニターにレヴリッツの姿は映っていなかったのに。
「制圧しに来たよ。ペリ先輩が勝手に寝やがったから、早めに決着をつけないと」
「ええ……というか背中に突きつけた刀、離してくれません?」
「やだよ。このままブスりと突き刺そうか?」
「ひーっ! これはつまり、私たちの勝率が……0パーセントになったということ!?」
「ってコト。どうする? サレンダー?」
イクヨリの背中には、刃先がぐいぐいと押しつけられている。
冷や汗を垂らす彼の姿を、レヴリッツは愉悦の感情を湛えて眺めていた。
レヴリッツとしては、イクヨリと本気で立ち会ってもいいのだが……練習試合だし一方的に勝つのもアリだとも思っている。
「ち、ちなみに……レナさんはどうされました?」
「レナ先輩は……なんかヨミをいじめてるらしいよ。もうペリ先輩が寝ちゃったから、今はどういう状況なのかはわかんないけど」
「そ、そうですか……いじめはよくないですね! ここは私もいじめを止めるため、早急にサレンダーをする必要がありますね!?」
イクヨリはどうしてもサレンダーする理由が欲しいらしい。
「うんうん。僕だってヨミを闘わせ続けるのは心苦しい。まあ、君がサレンダーしたら「僕に負けた」って事実が出来てしまうけどね?」
「ぐぬぬ……」
故郷では魔術の天才と持て囃されたイクヨリ。
そんな彼も、一瞬で背後を取られれば闘うことすらなく降伏せざるを得ない。
彼は身体をプルプルと震わせて、ゆっくり口を開いた。
「ま……」
「ま?」
「参……した……」
「んー? 聞こえないなあー?」
「参りましたぁああああああッ!!!」
「うるせえ!!!」
耳元で叫ばれ、レヴリッツは思わず刀を振り下ろす。
セーフティ装置が起動してイクヨリが離脱した。
キーンとなる耳を抑えつつ、レヴリッツは管制室の中央に置かれたボタンに手を伸ばす。
「この勝負、チーム『Oath』の勝ちだ!」
ー----
映像の中で、レヴリッツが勝利を宣言する。
リオートは離脱して以降、ずっとチームメイトの闘いを眺めていた。
「みんな、強いな……」
誰もがふざけていながらも、比類なき戦闘力とパフォーマンス力を誇っていた。
唯一、真面目に闘おうとしていた自分だけが敗北。
レヴリッツはチーム『Oath』の勝利だと宣言したが、違う。
リオートを除いた三人の勝利だと。
「……」
噛みしめた唇から血が出ていることに気がつかないほど、彼の心は悔しさで満たされていた。
傍のミラーとカガリは敗北を気にすることなく、レヴリッツたちの勝利に感心している。
やがてチームメイトがバトルフィールドから帰還するだろう。
リオートは合わせる顔がない。こんな負け犬が、どんな顔をして彼らを迎えればいいのか。
「すみません、ミラー先輩。俺は先に帰ってます。レヴリッツたちに「お疲れ」と伝言を頼んでも?」
「ん? ああ、わかった。お疲れさま! 公式大会もがんばろうな!」
「はい……」
重い身体を引きずり、彼は修練場から離れていく。
ダメだ。こんな無才の人間では、天才たちに釣り合わない。
今までリオートが積み重ねてきた研鑽、魔術、精霊術。
全てがこの一戦で否定された。己の弱さへの失望、周囲の強さへの絶望。
『お前に剣を握る資格はない』
忌まわしき言葉が、いつまでも頭の中で木霊する。
今のリオートにその言葉は否定できない。
失意の中、彼は歩み続けた。
修練場を出て、特別寮に戻ったリオート。
フロントでは彼の見知った人物が待ち構えていた。
「……! 若!」
リオートが見上げるほどの巨躯、鋭い三白眼の目つき。街中を歩いているだけで通報されそうな、狂暴な面構え。
紺色の髪をオールバックで撫でつけた中年の大男。
「ダルベルト。なんでこんな所に……」
リオートの従者、ダルベルト・フーザー。
厳つい容貌の持ち主だが、心根は優しい巨漢である。祖国ラザでも、いつもリオートに寄り添って力となってくれていた。
「ひでえじゃないですか、俺にも言わず国を出て行くなんて。若が突然いなくなって、どれだけ心配したことか……どうやってパスポートを手に入れたんです?
バトルパフォーマーなんてのに染まっちまって……どうしたんですかい?」
「……お前には関係ねえよ。どうせ親父の命令で探しに来たんだろ?」
「親が子を心配するのは当然のことでさあ。陛下も若のことを大層心配なさってた。仮にも一国の王子が、こんな不埒な所にいるもんじゃねえ。
何考えてんだがわからねえが、早く国へ戻ってくださいよ。国民にも若が国外に逃げたって噂が広まりつつあります。ケビンとか言う配信者が、なんだか若のことを馬鹿にしているようで……俺は許せねえですよ」
リオートはダルベルトの言葉に耳が腐りそうだった。
ダルベルトは決して悪気があって言葉を発しているわけではない。しかし、単語の一つ一つにどこかバトルパフォーマンスを侮辱するような意思が籠められている。
これはダルベルトの性格の問題ではない。
ラザ国民の根底にある価値観の所為なのだ。
「ははっ……お前は心配症だな。わかってるよ、じきに帰国する。数日後に公式大会があるから、それに出たら帰るって……親父に伝えといてくれ。じゃあな」
「ちょ、若!? まだ話は……」
ダルベルトの制止を振り切り、リオートは寮の奥へ進んで行く。
あまりの怒気に、ダルベルトは背中を追うことすら憚られた。国を飛び出したということは、何かしらの不満をリオートが抱えていたことはわかる。しかしダルベルトには、主人であるリオートの不満が理解できなかったのだ。
「へい、そこのおじさん! ちょっといいかな?」
「おん……?」
背後から声をかけられ、ダルベルトは振り向く。
視線の先には、紺色の着物を纏った少年が立っていた。
「僕とお茶でもどうですか?」
「お、おおう……?」
──ナンパか?
*****
【バトルパフォーマー】BPアマチュア総合スレ Part378【青葉杯】
222:名無しさん ID:dVfeKj8W5
今日のカス
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ペリシュッシュ・メフリオン@peripe_battlep
今日は青葉杯の練習試合をしてきました!!!!!
初戦は上手いこと連携できて、チームOathの勝利!
このまま本番でも勝つぞー!
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228:名無しさん ID:J9PvjcTDu
まああの面子なら負けないだろ
ペリちはもちろんのことエビもいるしな
229:名無しさん ID:8D26wr9ZB
リオートは結局平常運転で行くんか
ラザだとなんて報道されてるんだ?
233:名無しさん ID:vn5hZ72hQ
>>229
ラザはめっちゃBPとか馬鹿にされる職業だぞ
そのせいで王子様もめっちゃ馬鹿にされてる
協会もラザの右翼からの問い合わせに追われてるらしいです
235:名無しさん ID:g5Nz48vkL
ふざけた勝ち方ってなんだよ
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カガリ@kagaya_battlep
今日の戦略戦の練習は負け
Oathと闘ったけど、まだまだ戦略の練りが甘いと感じた
ペリシュッシュ先輩にふざけた勝ち方されたのが気に食わない
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240:名無しさん ID:j36jk7tF2
そりゃいつもの煽りカスよ
マジックショー()で相手の精神を追い詰めていけ
242:名無しさん ID:a3zgnR47q
ペリカスは普段大人しいのにパフォーマンスではえげつない煽りするから好き
244:名無しさん ID:kgDt6K4An
カス新人いじめてんじゃねえぞ
もっとやれ
245:名無しさん ID:ei8CxASuy
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ヨミ・シャドヨミ@yomimi_battlep
今日の練習試合ではレナ先輩と闘いました!
ぜんぜん歯が立たなかったよー
でもチームとしては勝てたからよし!
がんばろう!!!
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レナ・アール@riraru_battlep
返信先:@yomimi_battlep
ヨミさん本当にお強かった
本番で当たったら勝ちたいな
次は勝つね
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248:名無しさん ID:7r5XGqbyK
レナ、キレてます…
250:名無しさん ID:CVvtg64u3
>>248
配信で言ってたけどヨミがクソ強かったらしいぞ
強いって言うか闘いはまったく不慣れなのに攻撃全部躱されるとか
255:名無しさん ID:vPQrGodpm
>>250
マジだったらとんでもないチートなんですが
やっぱりヨミたそなんだ
268:名無しさん ID:xLqs33uGt
ヨミは戦闘したことほとんどないって言ってたけど
もしや才能だけで勝つタイプか?
271:名無しさん ID:5QcnWAcb6
今日エビが呟いてない
配信もないし寂しいな
282:名無しさん ID:kp7dXcJV9
(三・¥・三)「・・・・・・」
284:名無しさん ID:Ted6zxaVV
沈黙のエビ
練習試合で活躍できなかったのか?




